広瀬和生の「この落語を観た!」vol.56

9月4日(日)
「立川談笑月例独演会」@国立演芸場

広瀬和生「この落語を観た!」
9月4日(日)の演目はこちら。

立川談笑『命のかね』
立川談笑『天災』
~仲入り~
立川談笑『子別れー昭和編ー』

『命のかね』は談笑が創作した明治時代を舞台とする擬古典(元ネタは講談だという)。『付き馬』あたりにも通じる不届き者の噺で、乞食婆さんをダシに詐欺を働く悪だくみに「やりゃがった」と喝采するのも「人間の業」というものか。世が世なら禁演モノの素敵な噺。

談笑の『天災』は、紅羅坊のもっともらしい説教の胡散臭さをズバリと突く賢さと、論破したつもりでドヤ顔になる紅羅坊の詭弁を暴力で正面突破する強固な意志とを併せ持つ八五郎が、暴力に屈服せず信念を貫く紅羅坊の愚直さに打たれて“天災”を心得る噺。熊五郎のところでの「ずぶ濡れで泣きじゃくってる俺は負け犬だーっ!」が好き。

もともとの『子別れ』は明治あたりを舞台としているが、それを戦後高度経済成長期の最後あたり(1973年頃)に移したのが談笑の『子別れ』。父親が関わっているサンシャイン60建設が始まるのは1973年。キーワードとなる『帰ってきたウルトラマン』の放送は1971~1972年。男の子がウルトラホーク1号の模型を欲しがっているが、『ウルトラセブン』(1967~1968年)は本放送時よりもむしろ再放送で人気が出たので、『帰ってきたウルトラマン』以降の噺であっても矛盾はない。東京12チャンネル「マンガのくに」で『大魔王シャザーン』が放送されているのも何度目かの再放送だろう(この枠では同じアニメを何度も何度も繰り返し放送していた)。平成も終わった令和の今、もはや昭和も明治・大正と同じ遠い歴史の中にある、というギリギリの線を狙った昭和レトロの噺の中に、従来の古典落語にはない「リアルな男の子」「リアルな離婚」を持ち込んだ、談笑ならではの逸品だ。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

※S亭 産経落語ガイドの公式Twitterはこちら※
https://twitter.com/sankeirakugo