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マスクは上手に使いましょう(JES通信【vol.148】2022.06.10.ドクター米沢のミニコラムより)

1.「屋外ではマスクを外そう」は新たな見解か?

 5月20日、厚生労働省は新型コロナウイルス対策のマスクについて、着脱の基準をまとめて公表しました。海外でマスクを外す動きが進んでいることや第6波が落ち着きつつあること、そしてこれから夏に向かうことを考えての判断と思われます。読売新聞によると、「屋外については、幅広く『着用不要』のケースを認めた。会話を行い、人と距離を確保できない場合には『着用を推奨』としたが、それ以外は『必要ない』としている。具体的には、ほとんど会話しなければ距離にかかわらず着用不要、会話する場合でも、距離を確保すれば着用の必要はない」(資料1)となっています。
ネットのニュースやコラムでは、政府が新たな見解を発表!のように書かれているものもあるのですが、「屋外ではマスクを外しましょう」というメッセージはコロナ禍が始まった2020年6月にはすでに厚生労働省から出されています(資料2)。そこで今回はマスクの使い方を改めて確認します。
 

2.そもそも屋外の感染リスクは低い

 コロナ禍が始まった当初は、得体の知れない感染症への不安と一時的なマスク不足も加わって、マスクに対する過剰な執着が生まれました。ドラッグストアの長蛇の列を思い出す方もいらっしゃるでしょう。真っ白な防護服の作業員が武漢市内を消毒する様子やロックダウンで家から出られないイタリアの人々の様子が繰り返し映像で流され、「屋外は危ないのか!?」「ウイルスは空を飛んでいるのか!?」と思った人も少なくありません。しかし2020年3月には「3密(密集、密接、密閉)が危ない」と示され(これは我が国による世界的な発見です)、屋外での感染リスクが低いことはわかっていたのです。ただし大人数が集まると感染リスクは高まるので、さまざまなイベントや活動が中止になりました。ワクチンの普及によって屋外活動が再開されていく中で、マスクへの認識は「どこでもマスク」(過剰装備状態)のまま放置されたと言えなくもありません。
 

3.マスクの効果を確認しましょう

 国が改めてマスクに言及したのは、マスクの効果を確認した上で、過剰・不要な着用は避けましょうとのメッセージを国民に伝えるためです。マスクは効果がないからやめるのではありません。今回のコロナ禍でマスクの研究は飛躍的に進み、効果もはっきりしました。
 
1)ユニバーサルマスクの考え方
 たとえば東京大学の川岡氏のグループの研究を見ると(資料3)、ウイルスを吐き出す側がマスクをつけた場合は布マスクでもサージカルマスクでも70%以上ウイルス力価が下がる(資料3の図4)ものの、ウイルスを吸い込む側がマスクをつけた場合はサージカルマスクでは47%、布マスクではわずか17%しか低減効果がないことがわかります(資料3の図3)。つまり自分が感染しないためにマスクをつけるだけでは不十分で、感染者のマスク着用がより重要とわかったのです。しかし今回のコロナは無症状や軽症の感染者が多く、誰が感染しているかわかりません。そこでユニバーサルマスク、つまり「みんながマスク」という流れになったわけです。これをわかりやすく説明した図が資料4に掲載されています。
 
2)マスクは公衆衛生的な対策の中でもっとも効果が高い
 実験だけでなく、実際の調査研究でマスクの効果が明らかになっています。2021年11月にイギリス医師会雑誌に掲載された論文では(資料5)、国際的に発表された公衆衛生的なコロナ対策に関する72の論文を分析し、最終的にマスクの着用がもっとも効果があったことが示されています。最近ではマスクがコロナの再生産数(1人が何人に感染させるかを示す数値)を19%低下させるとの報告も出ています(資料6)。日本のコロナ政策は的確とは言いがたかったと私は考えますが、それにも関わらず日本の感染者数、死者数が世界的に見ると少ない原因の一つは、日本人のマスク装着率の高さがあるのではと考えています。
 
3)不織布マスクを使おう
 マスクの素材によっても効果は変わります(資料7)。仙台医療センターの西村氏が行った実験によると、N95マスクや医療用マスク、不繊布マスクは効果が高く、布やガーゼ、ポリエステル素材では効果が劣り、ウレタンマスクはほぼ効果がないことがわかったのです。日常生活ではぜひ不織布マスクを使ってください。
 
4)マスクは「スカスカ」ではない
 不織布マスクのメカニズムについては聖路加国際病院の坂本氏が紹介しています(資料8)。ウイルスはマスクの網の目よりも小さいから素通りするとおっしゃる方がいますが、不織布マスクは沈降効果、慣性効果、さえぎり効果、拡散効果、帯電効果といったメカニズムでウイルスなどの微粒子を捕集できるのです。
 
5)日常使用で健康障害は起きない
 マスクは呼吸がしにくく、血中酸素濃度が下がって健康によくないと心配する方もいますが、安静時、運動時(10分間歩行時)ともに血中酸素飽和度は下がらないという実験結果が出ています(資料9)。日常生活で不織布マスクをつける分には健康面への心配はなさそうです。とはいえ初期の中国ではN95相当のマスクをつけマラソンさせられた子どもが突然死するといった事故も起きていますので、運動する際はマスクを外しましょう。また、マスクが原因で熱中症になったという報告は今のところないそうですが、暑さ対策としてもやはり屋外では外しましょう。
 
6)2022年版のパンフレットはカラフルです
 厚生労働省からはマスクに関する最新のパンフレットが出ています(資料10)。カラフルでわかりやすく描かれていますので、ぜひご覧ください。
 

4.よりわかりやすく、覚えやすく

 ただ厚生労働省のパンフレットも説明が多く覚えにくいという方がいらっしゃるかもしれません。そこでさらにシンプルな説明を試みます。要点は以下の3つです。
 
マスクの使い方
 1.屋外は外す
  (会話する時、混んだ場所はつける。必要な人もつける)
 2.屋内はつける
  (声を出さない時は外してよい)
 3.公共交通機関利用時はつける
 
 屋外はマスクを外して大丈夫です。屋外でリスクが高まる状況は2m以内の距離で会話する場合です。一言二言なら大丈夫ですが数分以上になると心配です。なので、外出時は必ずマスクを持って出てください。もし忘れたらハンカチやタオルで口を覆って話しましょう。
 オフィスではマスクをつけてください。向き合っての会話以外でも、人がいる部屋で電話するなど声を出す場合はマスクをしてください。デスクワークで声を出さないならマスクを外して大丈夫です。私も職場のデスクにいる時は外していますが、人が話しかけてきたらすかさずつけます。この習慣はもうしばらく続けなければと思っています。
 職場で重要なのは換気です。ぜひ二酸化炭素濃度を測定し、800ppm以下が維持されているかを確認してください。換気が不十分になりがちな会議室などは空気清浄機や紫外線殺菌照射システムの活用を検討してください。オミクロンは感染力が強く、いつ誰が感染してもおかしくありませんが、職場のクラスター発生は何とか防ぎたいものです。
 
 次回はマスクを外せない心理、マスク以外の対策の見直しを考えたいと思います。
 

資料

1)屋内でも「2m以上の距離・ほとんど会話なし」ならマスク不要…政府見解発表
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220520-OYT1T50210/
2)熱中症予防×コロナ感染防止で「新しい生活様式」を健康に(令和2年6月)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/pdf/seikatuyousiki/seikatuyousiki.pdf
3)新型コロナウイルスの空気伝播に対するマスクの防御効果
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/content/000003662.pdf
4)Wear a mask and help stop the spread of COVID-19
https://www.gannawarra.vic.gov.au/News-Media/Wear-a-mask-and-help-stop-the-spread-of-COVID-19
5)Effectiveness of public health measures in reducing the incidence of covid-19, SARS-CoV-2 transmission, and covid-19 mortality : systematic review and meta-analysis
https://www.bmj.com/content/375/bmj-2021-068302
6)Mask wearing in community settings reduces SARS-CoV-2 transmission
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2119266119#fig02
7)実験で新事実「ウレタンマスク」の本当のヤバさ
https://toyokeizai.net/articles/-/409607
8)不織布マスク:メリハリのある活用のために知っておきたいこと
https://news.yahoo.co.jp/byline/sakamotofumie/20220519-00296733
9)The effects of wearing facemasks on oxygenation and ventilation at rest and during physical activity
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0247414
10)屋外・屋内でのマスク着用について(厚生労働省HP)
https://www.mhlw.go.jp/content/000942601.pdf  

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