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嵐の日とパスケース


今でこそ随分マシになったと自負しているけど、10代の頃はそれはそれはデリカシーのない少女だった。

具体的にどんなかといえば、以前付き合っていた人からもらったパスケースを、現彼氏の前で平気で使っているような、そんな少女だった。そしてそれをこともなげに話してしまうような、無粋で最低のガキだった。

もう既にパスケースは、はげてボロボロだったけれど、「新しく買うの面倒くさい。まだ使えるしお金ももったいない」という超絶身勝手な理由で使い続けていた。

気も使えない子どもな私に、大人な彼。



大雨と雷の激しい日だった。
家で何をしていたかは覚えていないけれど、とにかく家にいた私のもとに、電話がかかってきた。彼だった。

外の雷鳴と、電話の向こうの雷鳴がほとんど同時に聞こえた。

「雷すごいね」
「ね〜」
意味ありげに彼は短く答えた。


電話くらい、珍しくもないしどうってこともない。暇でかけてくれたのかと思っていたら、外に出てこれるかと問われた。

飛び上がって、玄関に走り扉を開けると、びしょびしょの傘を持った彼がいた。

どうしたのかと問うたら、シックな包装紙で綺麗にラッピングされた小さめで薄い箱を渡された。


開けるよう促されたから開けてみる。鮮やかで黄色い、シンプルな革のパスケースが出てきた。



「こっちを使ってよ」
彼は笑って言った。その途端、無神経な自分に思い至り、猛烈に申し訳なく、恥ずかしくなった。お礼より先に、謝罪が出てしまった。重ねて最低だ。


「捨てる、絶対捨てるね」
かつて好きだった相手なのにひどい言いよう。
「うん、そうして」


このあとすぐ二人で行ったファミレスも、食べたメニューも、まだ覚えている。きっと、忘れない。


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