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雲南日本商工会通信2023年10月号「編集後記」

 今から8年ぐらい前によく食べに行った昆明のピザレストランでの話。いつものように店主の中国人夫婦とおしゃべりをしていると、子供が小学校から帰ってきました。
 「この人、日本人でしょ? 日本人は悪人だって先生が言ってたよ」
 その言葉に夫婦は驚き、正論を言って子供をたしなめたあと、私に無礼を詫びました。それを見て、私は当時流行していた「抗日神劇」を思い出しました。
 今でも一部で観られている「抗日神劇」は、悪事を繰り替えす極悪日本軍を、中国人ヒーローが完膚なきまで打ち倒す「政治的に正しい」TVドラマです。なぜ「神劇」かと言えば、敵を倒す方法がエスカレートし続けた結果、非現実的になってしまったからです。その荒唐無稽さぶりに、視聴者さえ苦笑せざるを得ないものになりました。
 「ヒーローもの」は、敵を倒すと次の敵はさらに強くなくてはならないという宿命があります。ヒーローが強くなると日本軍も強くなる「抗日神劇」は、皮肉なことに、日本軍がどれほど強い存在だったかを物語るストーリーとも言えるでしょう。
 ところで、現代中国の発展は、国民一人一人の努力の結果によるところにあります。一方で、国民結束の手段として日本を仮想敵、また、追い越すべき存在として位置付けたことも、発展に大いに貢献したと言えます。
 しかし、今の強大化した中国にとって、国力衰退が続く日本はいかにも役不足。仮想敵でも追い越すべき存在でもなくなりました。中国国民にとって日本が国民結束のツールになりにくくなった以上、「悪者の日本」や「打倒すべき日本」を国民に宣伝するメリットがもはや少ないことを、中国政府はまだ自覚していないようです。中国の日本に対する「恫喝」は、日本人の対中感情をますます悪化させるのはもちろん、日本を等身大で見ている周辺国および日本の同盟国をドン引きさせるに十分な振る舞いとなります。
 そのひとつの現れとして、現在の処理水問題における各国の反応があるように感じます。これを機会に、反日政策が国家戦略的に見ても滑稽な「神劇」に過ぎないことを、はやく中国政府に悟って欲しいものだと、日本人としては思います。

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