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屋上養蜂をめざした人間の行く末



ん?


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ハチミツがある。


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瓶には「文京でとれた純粋蜂蜜」と書いてある。

「百花蜜」とは“百の花からとれた蜜”だ。
その特徴をしめすように色とりどりの花のイラストが、
枠いっぱいに印刷されている。
2匹のコピー&ペーストされたミツバチは、
おそらくフリー素材から転用したものだろう。とにかく可愛い。


ハチミツはある。
しかし飼育員である私は、
ミツバチを飼育した記憶がない。


一体いつから、
なにがどうなって、
いま私は蜂蜜の小瓶を手にしているのだろうか。



最後にこちらの記事を書き、




しばらくして、
気がついたら、

もう1年半以上も経過している。


無論、
その間、なにもしていなかったわけではない。

むしろあまりもいろんなことがありすぎて、
なにをどう報告すればいいのかわからなくなって、
報告するタイミングをすっかり逸した。
逸したまま、でも1年半が経ってしまった。びっくりする。


以前、東京新聞さんの取材のため、
何度か空の巣箱を開けてみせたことがあるが、

もしかしたらあれが玉手箱だったのかもしれない。

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近未来に飛ばされたと思われる現場




思い起こせばこの1年半、
社外の人とのミーティングで
「こちらの出版社の方は、屋上で養蜂をやってらっしゃてて」
などと紹介されるたびに、
「やっぱり採れたてのハチミツはおいしいですか?」
「ハチ、怖くないですか? 刺されました?」
などと話題が広がることが多く、
そのたびに笑顔をこしらえて、
「まあまあですね」
などと言葉を濁し、
「そうそうハチといえば怪獣8号読みました?」
「ハチっつったらあれです、八王子のおいしい煮干しラーメン屋さん」
などと言っては、話を脱線させてきた。


その一方で、
「サンクチュアリ出版が養蜂に挑戦している」
ということが忘れ去られてしまわないように、
ハチのマンガも連載してきた。


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ハチくんありがとう。
ひそかな人気です。
連載はまだまだつづきます。



さて、この1年半の間に
一体どんなことがあったのか。

いつも探しものばかりしていて、
昨日の晩ごはんを思い出せない脳を使って、
記憶をたどってみる。




■月に一度、定例会を開いていた



文京区社会福祉協議会(以下、文社協)という、
文京区に歴史にその名を刻んでいる組織と
文京区完全ビギナーのサンクチュアリ出版が手を組んみ、
「屋上で養蜂をやりましょう!」
というプロジェクトが立ち上がったのは、
これまでお伝えしたとおり。

文社協さんは、
「フレイル予防」活動の一貫として、
実験的に養蜂活動を試そうとしていた。
フレイル予防というのは、
外出する機会が減ったお年寄りたちを地域活動にうながし、
社会的なつながりを持ってもらうことによって、
心身の長期的な健康状態をめざそうというもの。

一方で、サンクチュアリ出版は、
採れたての美味しいハチミツをめっちゃ手に入れて、
めっちゃ食べたい。
そしてお世話になった人たちに配ってめっちゃ自慢もしたい。


そんな、
両者の目的が完璧に合致して、
サンクチュアリ出版は屋上を提供し、
文京区のお年寄りたちにハチを飼育していただくことに。

そして早速、
サンクチュアリ出版の地下を会場として、
毎月の定例会がスタートした。

定例会では、
毎回10人程度の関係者が集まり、
助成金の申請フローとか社会的意義とか勉強会のカリキュラムなどについて
闊達な意見が激しく交わされていたが、
ハチミツのことにしか頭にない私は、
なかなかうまく話の流れに乗ることができず、
適当にうなずいたり、ひざを打ったりしていた。

ただ珍しく口を開いて、
聞き入れてもらえた意見がある。
それが、
「まず名前を決めませんか?」
だった。

■名前を決めた


何事も、名前がないと気分が盛り上がらない。
盛り上がらないまま物事を始めるのは御免ですと、
はなからたいして手を汚すつもりもないのに
半分泣きながら訴えたところ、
名前がっ! 名前がっ! 
と発作のようにくり返す私のことを
かわいそうな人だと思ったのか、
養蜂プロジェクトの名前を募ることになった。

参加者メンバー全員から案を集めて、
全員が気に入ったものに投票する形式だ。

結果から言うと、見事、私の案が採用された。
たぶん、私以外の全員でしめしあわせてくれたのだと思う。
それでも私はうれしかった。

プロジェクトの名前は

■ぶんぶく
養蜂部

になった。


文京区の「ぶん」、
ハチの羽音の「ぶん」
に、
サンクチュアリ出版が作っている
BOOKの音である「ぶく」をあわせた。

着想を得た
『ぶんぶくちゃがま』は
漢字では分福茶釜とも書き、
「福を分ける」という意味もある。

採れたハチミツをみんなで分け合えるのもハッピーだし、
養蜂という体験を、世代を問わずに分かち合えるのもハッピー。

いい名前だ。

また、勝手に妄想すると、
いずれ「ぶんぶく養蜂部」で採れたハチミツが
商品化されたらうれしいので、そのときは
ぶんぶくちゃがまのタヌキをかわいいアイコン化して、
すべてのパッケージに印刷してほしい。
かわいい(*´Д`) 
キャッチー(*´Д`)
自由が丘で売ってそう(*´Д`)


我ながらこれはSDGsな持続可能な名前であると、
SDGsの意味もわからず興奮しまくり、
デザイナーの井上新八氏に
仕事でもなんでもないのにロゴのデザインを依頼して、
快く引き受けてくれてしまって、
めちゃくちゃいい感じのものを作ってもらいました。


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令和を超えて愛されるロゴ



■養蜂を見学しにいった

そして、見学へ。

あまりにも有名な
銀座ミツバチプロジェクト
は一度だけ見学させてもらったことがあったが、
「ぶんぶく」の参加者たちで、
養蜂の現場をいくつか見学しましょうという話に。
カレンダーを手繰ってみれば、これが2019年10月の話。よく覚えてない。


少なくとも私が参加したのは、
足立区 都市農業公園

港区の屋上養蜂 芝BeeBee’s
だ。

養蜂に足を突っ込む前は
都会で「養蜂をやろう」なんて思ったら、
行政の許可が最大の壁になりそうなイメージがあったが
どちらも区がバックアップしている養蜂プロジェクトだ。

みんなでハチを育てることで
お年寄りになっても地域で孤立したりせず、
みんなで集まれる楽しい場のひとつになりそう!
そんな明るい未来を見ている、頭の柔らかい素敵な人たちがお役所にいるんですね。


さて、


■2箇所の養蜂見学で気づいたこと


・ハチはあんまり「ブンブン」いわない。
♪ブンブンブンハチが飛ぶ♪
という場面は、たぶん威嚇されているから気をつけろ。
巣箱の近くで四方八方に飛び回るハチたちは、まるで粉雪が舞っているような静けさだった。ただハチたちの機嫌がよかったからかもしれないが。

・ハチは巣箱に1万匹とかいる。でもその中に女王蜂は1匹しかいない。
その女王蜂を探すのがめちゃくちゃ難しくて楽しい。ウォーリーを探せを鬼バージョンにした感じ。

・ハチたちを落ち着かせるため、火事だ!と勘違いさせる燻煙器という道具を使って巣箱に煙をかけるが、この煙の匂いを嗅ぐとなぜか毎回バーベキューがしたくなる。

・巣箱に直接スプーンを突っ込んでいただくハチミツは、市販されているものとは別物の極上の味。プーさんが何度も懲りずに危険をおかす理由もわからないでもない。

・スプーンを使いまわしても、殺菌力がものすごいから大丈夫(らしい)。

・ミツロウは見た目からして食べたくなる。でも食べたら、歯の詰め物が取れそうなほどの粘着力。

■私じゃない人たちが、はじめる準備を整えていた


人から
「ハチはどこから捕まえてくるんですか?」
と何度も聞かれた。

たしかに。
野生を捕まえて育てるのはニホンミツバチだ。
私はニホンミツバチを育てたかった。
ところがミツバチについて知れば知るほど、
都会のど真ん中でニホンミツバチを捕まえることは、素人には困難だということがわかった。
いつまでも捕まえられなかったらいつまでたっても養蜂がはじまらない。
もし何年か取り組んで奇跡的にニホンミツバチを捕まえられたとしても、ニホンミツバチはわりと頻繁に逃げてしまうという。
おまけに採蜜量は少なく、養蜂のプロは避けるらしい。
へへへ。そんなに難しいって言われたら、ますますやる気が出るじゃねえか。いっちょやってやっか。

文社協の人「飼うのはニホンミツバチではなく、セイヨウミツバチにしたいと思うのですが」
私「大賛成です」

というわけで、セイヨウミツバチになった。
つまり捕まえてくるのではなく、
養蜂専門店から1万匹ほど購入することになったのだ。

ここからは急転直下でことは進み…、

養蜂に必要な
ハチの群、巣箱、遠心分離機(蜂の巣と蜜を分けるもの)などを、
区の助成金で発注、

早い時期の方が、蜂の群が「強い」らしいので、
なるべく早くしようということで4月に納品(蜂)予定、
届いたら即養蜂開始という段取りになっていた。


そこへ突然やってきたのが



2020年3月13日 緊急事態発生



参加者のおじいさまたちはやる気にあふれていた。
「どんな事態だろうが養蜂をはじめたい」
と意気込んでいたそうだ。
そんな中、私は文社協から連絡がくるたびに「怖いですね」「責任は取れませんよ」「なにがあっても私の名前は出さないように」と言い続け、
そんな私の勇気ある提案が通じたのか、
養蜂プロジェクトは中止になってしまった。





■情熱の火は消えていなかった



この世にコロナが出現し、
感染拡大を続けている半年間くらいの出来事はほとんど記憶になく、
スケジュール帳を読み返してみてもあまり実感がない。

ZOOMだテレワークだマスク不足だと騒いでいるうちに
またたく間に時が過ぎていき、
朝、パンにハチミツを塗るときなどに、
たまに「私は養蜂を忘れていないぞ」と独り言をいってはみるものの、
養蜂のことはまったく考えていなかったと思う。

その間、
「コロナ中って、ハチはどうしてるんですか?」
と、
すでにサンクチュアリ出版が養蜂活動を開始していると
思いこんでくれている人から聞かれるたびに、
「まあ、ハチはハチですよ」
と餅は餅屋みたいな言い方で答えていた
が、
世界はニューノーマルとかいってるくらいだから、
いつかどこかで「実はやらないことになりました」と
白状しなければいけないタイミングがくるんだろうなと、
がっかりした気持ちでいた。

ところが。
コロナの混乱に少しだけ慣れて
秋の予感がしはじめたころ、
文京区のシビックセンターにて「養蜂説明会」がおこなわれた。
(シビックセンターは、ここで養蜂の許可申請できると勘違いして、最初に訪れた場所だ)

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この説明会は、
都会で「養蜂」をやることについて、
それはどういうものか、どういうワクワク感があるか、
区民のみなさんに理解してもらうための会だった。
集まった人たちは真剣に耳を傾けていた。

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メスバチは花の蜜をとれるようになるまで、
巣の掃除からはじまって、育児や、巣作りなど、長い下積み時代を経験しないといけません。
一方でオスバチはまったく働かず、女王蜂と交尾の機会を伺うことしかできないのです。


ここは養蜂の専門家の人が話すたび、毎回盛り上がる鉄板のくだり。


最後の質疑応答で、
「ぜひうちのビルの屋上も使ってくれ!」
という声があがった。
すると参加者のおじいさまが

「サンクチュアリ出版ではじまったプロジェクトだから、
まずはサンクチュアリ出版の屋上だけではじめたいのです。
それがうまくいくようだったら、今後は広げていく可能性もあります」

と言ってくれた。

うれしかった。

と同時に、
私はマスク不足にうろたえ、
ZOOMの設定に戸惑うことで精一杯で、
養蜂のことをすっかり忘れかけていた自分を恥じた。


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巣箱と遠心分離機。ただただ立派。



長くなったので、レポートの続きはまた近々。



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ん?


飼育員 橋本圭右

(画像提供:iStock.com/YorVen)


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