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物理的な距離として、言葉だけでは表現しにくい人間関係のあいまいな距離感を描ききる。Paris,Texas


人間関係は複雑で難しい。
家族とか。男女とか。親子とか。兄弟とか。友人とか。同僚とか。上司部下とか。
社会で定義されたさまざまな人間関係がある。
でも、これらは記号的なものに過ぎない。
同じ関係は2つとなく、人間関係の作り方に答えはない。
そんな人間関係に疲れてしまうこともある。
でも、人はひとりでは生きていけない。
どうせなら、面白い人間関係をつくっていきたい。


映画「Paris,Texas(パリ、テキサス)」は、主人公トラヴィス、妻ジェーン、息子ハンターの家族が、一度バラバラになってしまうが再会し、新しい形で再スタートする物語だ。このような複雑で言葉では表しにくい人間関係のあいまいな距離感を以下のようにかなり振り切った形で描ききっている。

1.トラヴィスが4年ぶりに再会した弟ウィルトの車の後部座席に乗る場面
2.車の運転席にいるハンターにウォルトがトラヴィスと話すよう車の外から説得する場面
3.5年前に撮影した8mmフィルムを見ながらカウンター越しにハンターとトラヴィスが初めて会話する場面
4.ハンターがウォルト、トラヴィスに続けて「おやすみ、パパ」という場面
5.トラヴィスとハンターが道路を挟んで歩く場面
6.ハンターがトラヴィスに宇宙の始まりについて車の中で力説する場面
7.ジェーンを探すとき、今後の大事な話をするときにハンターとトラヴィスがトランシーバーで会話する場面
8.トラヴィスがジェーンと再会するのぞき部屋
9.4年振りに再会したジェーンを無言で抱きしめるハンター
10.9の場面を建物外のビルの屋上から見届けるトラヴィス

以上10個の場面においては、会話の内容も素晴らしいが、お互いの関係性を会話するときの物理的な距離として、描ききっている点が印象的だ。かなり振り切った極端な表現も多いが、そもそものシチュエーションがかなり特殊なので違和感はない。

特に、8ののぞき部屋においては、マジックミラーによって、どちらか一方しか相手の姿が見えず、一方通行な関係を見事に表現している。ジェーンの顔に反射したトラヴィスの顔が重なる場面は秀逸だ。


映画全体としては、音楽もストーリーも最小限にしていて全てを説明しきっていないため、謎な部分も多いが、全てを理解することは不可能な人間関係を表現しているとも言えるし、オープンエンドとして謎を残しておいているとも考えられる。映画でしか表現できない試みが多く見られる映画だ。


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Paris,Texas(パリ、テキサス)
ジャンル:ロードムービー、ヒューマンドラマ
     人間関係を振り切った形で描いた映画。見るシチュエーチョンは選ばない。
公開:1984年
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演者:ハリー・ディーン・スタントン(トラヴィス・ヘンダースン)
    ディーン・ストックウェル(ウォルト・ヘンダースン)
    ハンター・カーソン(ハンター・ヘンダースン)
    ナスタージャ・キンスキー(ジェーン・ヘンダースン)
    オーロール・クレマン(アン・ヘンダースン)


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概要:
一度バラバラになってしまった家族が再会し、新しい形で再スタートする物語だ。物語は、4年間失踪していたトラヴィスがテキサスの砂漠で発見されるところから始まる。トラヴィスの弟ウォルトが迎えにいくが、トラヴィスは全く話さず、目を離すと逃げ出そうとする。どこに向かっているか問い詰めたところ、両親が結ばれた場所であるテキサス州のパリに向かっていると明かす。ウォルトは、やっとのことでロサンゼルスにある自宅にトラヴィスを連れて帰る。ここで、トラヴィスはウォルトが預かっていた息子ハンターと再会する。トラヴィスは、4年間会っていなかった親子の関係を修復しようと努力し、なんとか打ち解けることに成功する。この過程で、ウォルトは妻ジェーンがヒューストンにいることを知り、ハンターとともにジェーンを探しに行く。ジェーンと再会したトラヴィスはジェーンとの関係がうまくいかなくなった過程における自分の心情を明かす。ジェーン、ハンターと再会し、再び家族としての関係を取り戻したトラヴィスであったが、ジェーンにハンターを預け、再び旅に出てしまう。このように、「Paris,Texas(パリ、テキサス)」は一度バラバラになってしまった家族が次々と再会した結果、ジェーンとがハンターを預かることとなり、トラヴィスは再び旅に出るという不思議な物語だ。


画像参照元:TAP the POP


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