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『経営者の条件』について

 端的に言えばドラッカーは経営者の目的を成果をあげることだと定義して、そのためには時間、貢献、集中、強み、決定という技能を身に付けるべきだと提言する。五つの技能はどれもものごとを整理して組織を円滑化するのに役立つがそれ自体が目的となってはいない。あくまでも自立した個人になるための手段だ。時間を分析し無駄を省き、資源を集中する、人の価値を多面的に理解し自分で判断できるようにする、倫理的にも評価できる。『他の人間をマネジメントできるなどということは証明されていない。しかし、自らを

    • 『ユートロニカの向こう側』について

      『ユートロニカのこちら側』はエピソードが時系列順に並んでいてその中の登場人物のいくつかは他のエピソードにも顔を出す。エピソードの基本は、人が技術を産み出し技術が人を再構築していく(登場人物がそのまま説明している部分がある)様子を見せることにある。それは新しい仕組みが拒絶、闘争の段階を経て時間をかけて所与のものとなっていく過程と似ている。その意味で第六章の「最後の息子の父」は小説全体を個人の人生に落としこんでいる。主人公のアーベントロートはユートロニカを産み出したロメオの息子で

      • 感想

         『嘘と正典』は六つの短編によって成り立っている。そのすべてを読むと浮かび上がってくるイメージは正しさを極限まで突き詰めようとする意識だ。ここで言う正しさとは、人のものをとってはならないとか叩いてはならないとか言うような単純な要請ではない、むしろいくつかの短編には中核に嘘が組み込まれていさえいる。嘘を許容してまで正しくあろうとするのは嘘の蔓延を食い止めたいとの願いからだろう。読者は矛盾をはらんだ結論を受け入れざるを得ない。それは現実が硝子細工のように脆いという認識による。  

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