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涙のROCK断捨離 36.ENIGMA「MCMXC a.D.」

エニグマ「サッドネス(永遠の謎)」/ENIGMA「MCMXC a.D.」
1991年

流行りました。え、流行りましたよね?覚えてないですか?
バブル経済の崩壊前夜、遊び疲れた人々を癒してくれる、都会的な新しい音楽として、ヒーリング・ミュージックというものが数多くCDショップに並びました。なにしろ、音楽では無い、鳥の鳴き声や波の音といったCDまでがいくつも発売されていたのですから、バブル疲れの反動だったのでしょう。
音楽に癒しを求める動きの中で、頭一つ出て、メディアでも使用頻度が高かったのがエニグマだったように思います。

こうした流れの中では、エリック・サティの「家具の音楽」が再評価されたり、ブライアン・イーノの「アンビエント・ミュージック」が注目されるということも起こりました。
その時期、ハロルド・バッドが来日して六本木のカフェバーかイベントスペースだかでやったライブを観に行ったのも、なんだかバブルっぽい思い出です。

こうした音楽のカテゴリーには様々な名前があって、全体を括るのは難しいのですが、いわゆる環境音楽的なジャンルには、フィリップ・グラスから、マイク・オールド・フィールドヴァンゲリスなどなど、多くの先行者がいて、そうしたアーティストの中にあると、エニグマは大家であるとは言えないかもしれません。
ただ、著名な先生方が一部のリスナーに強く支持される一方で、エニグマはこのアルバムで一般の人たちに広く受け入れられました。

エニグマが特徴としたのは、グレゴリオ聖歌や民族音楽などと、その後のトランス・ミュージックに繋がるようなビートとの融合でした。
これは、難解で退屈な現代音楽ではなく、クラブ(ディスコ?)でかかってもカッコいい音楽で、秘密めいた雰囲気もオシャレな感じがしました。

今、改めて聴いてみても、いいなあと思えます。
すごく小さな音にしてもいいですし、ボリュームを上げてもまた別の感じで胸に響いてきます。ただ、癒しとはちょっと違うかも、ですが。
ほどよく知的で芸術的で、ほどよく身体的で情動的で、こういうのが好きだと言うとセンスがいい人みたいです。ちょっとスピリチュアル入っちゃって、危ない人と思われるかもしれませんが。

エニグマは、この後も多くのアルバムを制作しているのですが、広く知られているのは、このアルバムだけかもしれません。
というのも、せっかくヒットしたというのに、エニグマの音楽はどんどんシリアス度を増してゆき、時代のムードとマッチした”ほど良さ”が無くなっていくのです。というか、実は最初からこういうバンドだったのが、たまたまファースト・アルバムが当たってしまったという方が近いかもしれません。
なので、この「サッドネス(永遠の謎)」は聴きやすいアルバムです。
ひとつの音楽体験として、未体験の方には一度は聴いてみて欲しいと思います。

Spotifyでも聴けます。
https://open.spotify.com/album/2PkstTUo2zJbgatbT2JkTU?si=Oz1exmFnTwGrztKOdMgWWQ


写真の使用許諾に感謝します。
Photo by Motoki Tonn on Unsplash