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見取り図、東京行っちゃうの?

先日、テレビ東京の「あちこちオードリー」を見た際、思いっきり叫んだ一言。
まぁ自分の拠点は東京なので、往来の感覚おかしいのは置いておいて。
放送を見た人にはわかると思いますけど、
「え?そんなにあっさり言う?」みたいな。
進撃の巨人で、ライナーとベルトルトがエレンに自分達が巨人であることを伝えた時以来の
「え?今なんかすごいこと言った?」みたいな。
そのくらいの衝撃だった。
以前からラジオやライブ配信などで話に上がってたのは聞いてたけれど、東京のトークバラエティ番組でこんなはっきりと宣言されるといろいろ思うことがあって。
だからnoteを開きました。良ければ読んでやってください。

「東京進出」の意義

「東京行っちゃう」というのは、いわゆる、芸人の東京進出というもの。吉本芸人で言うと、東京移籍するということ。

「単に東京に引っ越すだけでしょ」という人もいるが、お笑いファンや芸人ファンからすると
そう簡単な話じゃない。それを先に話しておく。

1989年、かの有名なコンビが東京に進出。
鎌倉幕府の始まりを1192(いいくに)から1185(いいはこ)にしたように、お笑いスターが生まれる瞬間をここと言ってもいいかもしれない。
ダウンタウンが尼崎出身の同級生が関西の大スターになり、そして、現在の全国区お笑いモンスターになったことを知らない人はいないだろう。
彼らはお笑い界を大きく変化させた革命家なんて呼ばれるが、まさに芸人が、漫才師が、劇場に立って客を笑わせるだけでなく、笑いの街大阪のネタ番組だけでなく、全国区のスターになれると証明したのが彼らだった。
東京に上京するという、一種の芸人の通過儀礼のようなものを先陣きって道を切り開いたのは彼らが最初と言っていいかもしれない。
その彼らの革命後、大阪で売れた芸人は東京でのテレビの仕事を次の目標におき、東を目指して進化していった。東京の局もダウンタウンの持ってきたお笑いブームに乗りながら、次のお笑いスターの発掘のためどんどん大阪から芸人を呼び寄せて番組を構成した。
後に、めちゃイケのナインティナインやはねトびのキングコングなど、次第に新世代が生まれてきて、歴史を加筆していく。
昔の話ばかりしてもピンと来ないかもしれないので、最近の話もしておくと…
平日の朝テレビをつけると、こちらに微笑んで良い声の綺麗な関西弁で挨拶をしてくる芸人を見ることが出来る。麒麟川島明、彼もまた大阪からの進出組。
今度は夜、ゴールデンタイムとよばれる8:00くらいに日テレをつけると、ダウンタウンに続く新星と呼ばれた上京芸人ナインティナインとならんで、緑の縁の学ランを着た、癖のすごい訛りでゲストにつっこんでいるのを見る。千鳥ノブ、彼もまた大阪から東京に来た。
前記事で話題にしたかまいたちも、同様だ。
(↓以前の記事『かまいたち売れあなぁ!』)
https://note.com/sampaniyon/n/n4a10bbc123c2

M-1グランプリやらKing of Conteなどの全国賞レースが確立してからは、その優勝や活躍を機に上京する人も多い。関西出身のM-1チャンピョンなんかはまさにそれで、優勝してから一気に東京のテレビに呼ばれるようになり、その仕事をこなすために上京するパターンはお決まりだ。(2019年優勝のミルクボーイは大阪での漫才に専念すると大阪に留まることを表明している)
このように大阪から上京してきた芸人が東京のテレビ局で番組を持ったり構成したりしているのが、今のバラエティだ。
ただもちろん、大阪の芸人全員が東京に行くわけではない。笑いの街大阪に芸人がいない、すっからかんなわけはない。なんなら、東京より大阪の方がバラエティ番組は多いし、各番組での芸人の枠は大阪の方が多く用意されているように思える。
それでも芸人達は、何かしらのきっかけを掴んで、東京ドリームを追って上京してくる。
これには、先述のようなメリットもあれば、その逆でデメリットもある。

東京進出の光と影

もし、そのきっかけというのが、賞レースの優勝だった場合、ひとつ大きな武器を持っているため、話はスムーズである。ただ、そう出ない場合、例えば一芸や歌ネタの流行や、賞レースでのある程度目立った活躍、劇場でついたファンの人気上昇などだった場合、そのきっかけにプラスして、なにかしら東京のテレビで生き残れる武器をこしらえておく必要が出てくる。
例えば、大阪で劇場の一員だったとすると、上京する上でその劇場は卒業となり、主にテレビと通常寄席の枠で仕事を埋めていかなくてはならなくなる。もちろん単価が大きく違うため、収入の問題は考えないとしても、では、場数はどうだろう。劇場で自分のライブや劇場ライブに出てネタを磨いていた場所がなくなり、極端にいえば、練習場に立たずして本番の寄席や賞レースに挑むことになるとも捉えられる。劇場を自らの先輩と例えると、テレビは顧客のようなもので、社内で先輩に推薦してもらうのと、顧客から指名をもらうのは大きく異なる。常にテレビという顧客の目にとまるような存在でなくてはならない。
つまり、なんの保証もない枠の取り合いが行われている向かう先も分からない更地の戦場にぽつんと立つことになる。これはなかなかの決断がいる。
だから、上京する芸人というのは、ある程度番組を持った状態で上京することが多い。既に何本か東京でレギュラーがあったり、冠を持っていたり、そのようなある程度の"基地"を確保してから、自分の安地を離れる。
その時同時に、大阪での安地を失うこともある。大阪である程度名の知れた芸人なら、大阪で番組をもってても何らおかしくない。その番組を上京してからも続けるのか、それとも辞めるのか、ここも大きな決断になる。辞めたら安地は失うが、潔く上京し、東京で気兼ねなく戦える。それが活力やモチベーションになる芸人もいるだろう。
ただ、もし東京で上手くいかなかった時に、戻る場所もなくなるということを覚悟しなくてはならない。
今や、テレビに出まくっている千鳥やかまいたちだって、大阪で天下をとってから満を持して上京したものの、一度は東京にハマらず血迷っていた時期がある。東京のテレビにハマるかハマらないかは、相当な戦略家でない限り、正直一か八かという問題である。
だからこそ、上京というのは芸人の人生をかけたギャンブルであり、非常に大きな決断が必要になる。
お笑いファンはこれをわかっているから、売れだした若手の「東京意識発言」に敏感になる。「最近東京でどのくらいテレビ出演があるのか」「上京する気があるのか」「いつ頃するのか」「上京するならあの番組は続けるのか」など、とにかく気にしている。

見取り図にとっての上京

そんな大切なことを、彼らは一般視聴率15%前後をキープする東京の番組でサラッといいのけたのだ。
見取り図は最近、東京のテレビ番組でよく見るが、やはり彼らもM-1の影響を大きく受けているだろう。去年の決勝戦で3年連続決勝戦進出となり、最終決戦まで勝ち進んだ彼らは、惜しくも優勝は逃したものの、2位のユニットコンビおいでやすこがと共にテレビ出演の幅を広げた。
あちこちオードリー内でも話していたように週4で東京にいるというほど、視聴者からも見て取れるほど東京の仕事が増えたと思う。朝の顔になった川島明の「ラヴィット!」の週レギュラーも持っている。
ただし、見取り図は現在、よしもと漫才劇場メンバーの1人で、先輩方から引き継いだバトンを今リーダーの1人として受け継ぎ大阪劇場若手のトップを走っている。また、大阪でのレギュラー番組は、現在5本。ラジオやその他の準レギュラーなどを合わせると、ますます大阪での仕事は安定しているように思える。
そんな慣れ親しんだ環境を捨てて(全て捨てるとは言っていないが)、東京に挑むというのは、見取り図の中でも大きな覚悟だったはずだ。
同番組内で、「東京のMCだったら誰にハマればいいのか」「特技は何を持っておけばいいのか」など不安を吐露し、同じくゲストに呼ばれていた芸能界生活の長い伊集院光やMCの他事務所の先輩芸人オードリーに相談をしてる場面も流れた。
東京のテレビにハマるということは、その時のテレビを構成しているタレント、視聴者層、テレビマン、時代や流れなど、あらゆる要素にハマるということで、その波乗りは相当難しい。
大阪芸人は皆口を揃えていうのが「大阪と全然違う」という感想。
東京はタレントの幅も広く、芸人すらとタレント化して、マルチタスクをこなす他、扱いも無茶ぶりや突飛なボケ、完璧なオチのあるエピソードトークなどより、食レポのうまさやV終わりコメント、ワイプのリアクションや聞き手引き出し役としての話術の方が、必要な能力になっている。大阪のような劇場と変わらないような芸人で固めたゴリゴリのお笑い番組はほとんどない。
繰り返しになるが、この中で生きていくのは容易でない。生存戦略だけでは、難しく、やはり実力そして素質が必要である。
見取り図に、実力はもちろんあると信じているが、それに加えて、テレビの素質があるかどうかは、東京各局が判断していくだろう。

東京と大阪の振り分け

見取り図の上京を考えると、やはり世代の話をせざるを得ない。
見取り図は、大阪NSC29期生であり、いわゆるbaseよしもとと5upよしもとを跨いだ世代であり、上はスーパーマラドーナから下は霜降り明星まで(※並びに悪意はない)幅広い代と共に劇場に立ってきた。番組内で述べていたように、近い先輩で言うと、大阪26期生のかまいたちアインシュタインなどにあたるが、彼らの卒業後、見取り図は5upの中心メンバーとして動き、後に漫才劇場のマンゲキメンバーとして頭を張る。
ここの世代の下に、俗に言われる「第7世代」が台頭して、7区分に分けるとしたら「第6世代」が彼らという計算になるだろう。冠を持つコンビもあれば、ロケやパネラーとしてテレビ露出する人もいて、若手の磨き上げ番組や劇場ライブに重きを置いている人も入り交じるが、一度一括りにしてしまう。
この世代は若手から中堅になりかかっている人から若手の最後を走っり切ろうとしてる人達、そんなイメージだ。
ここの世代が段々と中堅、さらには大御所へとなっていく時、厳しいことを言うが、どのくらい残っているかは誰も分からない。
ただ、どこに残っている可能性があるかは、ある程度現状から予想をすることができる。

現在、その世代の中で上京している代表をあげると、
ジャルジャル(2010)
プラスマイナス(2012)
ウーマンラッシュアワー(2013)
バイク川崎バイク(2014)
ななまがり(2014)
三浦マイルド(2014)
GAG(2014)
銀シャリ(2016)
天竺鼠(2016)
アイロンヘッド(2016)
コマンダンテ(2017)
霜降り明星(2018)
かまいたち(2018)
和牛(2018)
ダイアン(2018)
おちでやす小田(2018)
ミキ(2019)
ゆりやんレトリィバァ(2019)
トット(2020)
蛙亭(2020)
アインシュタイン(2020)
守谷日和(2021)


それと反対に、大阪所属で活躍している組が
スーパーマラドーナ
モンスターエンジン
スマイル
藤崎マーケット
アキナ
見取り図
学天即
ミルクボーイ
吉田たち
令和喜多みな実(旧:プリマ旦那)
ロングコートダディ
マユリカ
セルライトスパ
ニッポンの社長


ここで、現在、大阪にいるコンビで、最もレギュラー番組を持っているのが、アキナである。
アキナは過去トリオだった時代にもネタを評価され、大阪でレギュラー番組を持つのも早かったが、1度解散してコンビになる際、リセットされた状態から再スタートを切った。現在、秋山山名お互いに芸歴15年程になるが、コンビ結成は8年という若手の扱いで、賞レースにも今だ挑み続けている。そんな2人は「せやねん」を始めとするレギュラーを多く持ち、ジャルジャル、かまいたちなど同期らが東京に進出し活躍する西で、大阪を盛り上げている。彼らも見取り図と同じく、M-1グランプリ2020に2度目の決勝進出を果たし、最近は東京のテレビ番組にも足を運んでるのをよく見る。ツッコミの秋山は、過去のレギュラー番組をきっかけに、2019年に関西局所属のアナウンサーと結婚し、今年第1子を授かった。以前、家族のことも考えて大阪に腰を据えていると話していたこともあったが、東京での仕事が増えたら、その時はまた考えると話している場面もあった。

東西バラエティの未来

少し可能性の高いもしも話をしよう。
アキナがこの後賞レースなどで結果を出して上京する可能性は十二分にある。芸歴やMCとしての実力を考えても東京で、同期らと合流することは有り得る。もし、近いうちにアキナが上京することになったら、大阪のバラエティを引っ張っていく芸人はどうなっていくのか。
先述の通り、今レギュラー番組の多さで言うと、アキナ・見取り図が群を抜いてツートップである。
MCという意味でも若手でパッと例を挙げるとしたらこの2組が出るだろう。かまいたちやアインシュタインがMCを務めている時から最も可愛がられている後輩は見取り図というイメージで、彼らの同期であるアキナとその愛弟子2人があとを引き継いだという印象である。後輩たちからも実力のある面白い先輩として好かれていると感じる。
この2組が大阪を出たら、次の世代となるのは誰なのか。この2組より先輩が彼らの視聴者層をもつ番組を引き継ぐとは思えないため、後輩や同期が…となるが、ここでぱっと上がる名前があるだろうか。
実際、ロングコートダディニッポンの社長が共演が多かったりアイドル番組などを引き継いだ例があるから、彼らになっていくのだろうか、それともそれを機にまた新しい若手を引き上げるのか。
少なくとも要となっている2組がいなくなって大きくバランスが変わるというのは間違いない。
となると、東京に行った芸人も大阪で番組を1,2本持っているというのは、よくあることだから、上京芸人が、関西のテレビに映っているというのがより多くなるかもしれない。
東京・関西のバラエティ共通化が、著しく進むように思える。オンデマンドサイトやTVerなど、最近は自分の地方で放送されていない番組もネットで簡単に視聴できる時代になってきた。出演している芸人も、「この人ってまだ大阪にいるの?」「この人東京のコンビ?」と共存しすぎていて、視聴者の中でも区別がつかなくなっている。
尼神インターはまだ大阪にいる?相席スタートは東京の芸人?
ほらね?そりゃあ、「東京進出?芸人が引っ越すだけでしょ」と言われても仕方ない。2020年にはコロナの影響で、吉本が劇場ライブの配信サービスなどを始め、劇場すら、行かなくても家で楽しめてしまう時代になった。大阪のテレビに出てないような若手だって、東京のカフェからそのネタを見れるのだ。
では、かまいたちは今レギュラーが14~5本あるそうだが(多すぎて不明瞭)、そのうち何本が東京で、何本が関西のものなのだろうか。自分もはっきりと仕分けが出来ないと思う。(ちなみに、尼神インターは見取り図らと同じ大阪劇場出身で、現在東京所属。相席スタートは川添は大阪出身だが、共に東京所属。)
こんなに語ってきた僕でさえも、その認識の混乱の中にいる1人で、そのせいで、自らが住む東京に「行っちゃうの?」なんて表現をするのかもしれない。個人的に、大阪に残って笑いの震源地である関西を盛り上げている師匠や芸人をとても尊敬している。そういう方々がたまに東京に来る時に、「東京なんぞ相手にならん!潰したろか」くらいの勢いで攻め込んでくるのがとても好きで、関西の浪花臭ただようお笑いを東京にもってきてくれるのを、毎度楽しみにしている自分がいるのだ。

ただし、このまま東西のバラエティ共通化が進めば、今まで言われてきた東京芸人・大阪芸人というのは、ただの出身の違いに集約されてしまうかもしれない。関西弁なのか東京弁なのかすら基準にならなくなった。自分が見てきた東西の構図はいつか消え去ってしまうかもしれない。それがどのような良さを芸人、テレビ、視聴者、お笑いファンらに与えてくれるのか、その反対に我々は何を失うのか、全く想像がつかない。
見取り図の東京進出は、現在ダウンタウンを筆頭に、世代を重ねて生態系を形成している芸人達の構図を、後に大きく変える1歩となるかもしれない。
劇場や師匠、後輩たちを大切に思いながらも新たな土地で勝負しようという、そんな彼ら見取り図の決断を心から応援したい。

そんなことを考えて「あちこちオードリー」の放送を見ながら、画面の前で、この記事の[公開]ボタンを押した。

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