映画『Diner』を楽しくみて、メディアミックスの意味について考えた日。

蜷川実花が監督をつとめた映画『Diner』。窪田正孝と前田公輝が出ているらしいという、割合にミーハーな理由でDVDをレンタルした。スピード感溢れすぎるストーリーなんかは途中で、えっ?えっ!?と危うく置き去りにされそうになりつつも、圧倒的な絵力と藤原竜也らの怪演に、最終的に、なんかすごいもんみた…!!という満足感を得て終わった。元宝塚トップスターをあれだけ贅沢に使い、土屋アンナにああいう衣装を着せ、小栗旬に丸メガネなどなど、いやはやさすが、「絵」の持つパワーをよくご存知だなあ!登場人物のそれぞれの名乗りのシーンは、まるで少年漫画の大ゴマのようなポージングで、その絵によって1発で印象付けられる。時々情報がふんだんに詰め込まれすぎていて、脳みそが処理のためにガッと熱を持つこの感じ、嫌いじゃない。

ただ、観終わったあと色々調べてみると、なかなか酷評されている部分もあると知る。ふうん、なるほど。大変恐縮なことに、原作があることは観てから知ったし、その原作と展開やオチが違うことも初めて知った。ビジュアルのイメージも、原作を愛していた人たちの抱いていたものと、結構かけ離れている登場人物もいたようだ。早速原作を買って読んでみる。ふむふむ!面白かったです!なるほどこれは、たしかに、原作から入ってメディアミックスをみたファンからすると、なんとも難しい気持ちになるのだろう。いわゆる改変というやつがよく働いたとみるか、改悪とみるか、愛し方によっては戦争が起きるやつである。

自分もそこそこ年季の入ったマニアックな人種であるので、メディアミックス、映像化の特報を諸手を挙げて喜べない複雑な気持ちはよくわかった。ビジュアルが違う、CGがしょぼい、ストーリーが切り貼り、オリジナルキャラとかいらない、ましてやオリジナル展開なんて。わかる、わかるぞ、自分も何回もそういう文句言ってきた!そうなんだよな〜!特に挿絵のない小説がオリジナル媒体の場合、絵にした途端、作り手によって世界が示されて自分の中の世界が否定されたような気になってしまうことは否めない。漫画→アニメ化でも揉めるのだ、小説→アニメ化or実写化、漫画→実写化は、もっともっと揉める。揉めると言ってもファンが自分の中で自分の解釈と揉めるのだが。かく言う私も森博嗣「すべてがFになる」のアニメ化では犀川先生の使っているパソコンで、んんんんんん!となったクチである。まあこんな風に、ファンは予想もしないところで引っかかったりするもんである。

ただ、今回『Diner』を楽しく観て、ふむふむと気づいたことがある。たいてい私は、原作ファンでメディアミックスの報を複雑な気持ちで受け取る側に立つことが多かったが、久しぶりに、あっこれ原作あるんだ!?へえ!という受け取り手になった。なんというか、ほんとミーハーな感想ではあるのだが、悪くないもんなのだ、これが。映画を観て、楽しかったな!と思い、今度は原作を読んで、これも楽しかったな!と。たぶん私は、蜷川実花が藤原竜也や窪田正孝を起用して映画化しなければ、平山夢明の小説を読むことはなかっただろう。

そこまで考えて、メディアミックスとは、元々のファンに向けてだけではなく、今はまだその作品を知らぬ人たちに向けて広く知らしめることに、かくも有効なんだなあと、馬鹿みたいに感心した。超当たり前じゃーん!と思われただろうが、理屈としては理解していたけど、実感を伴ってわかった、という感じだ。思い返せば、奇しくも同じく藤原竜也主演だが、映画のデスノートをみてうちの父親はめったに読まない漫画を買った(ちなみに父はいまだに松山ケンイチのことをL、戸田恵梨香のことをミサミサと呼ぶ)。山田涼介のファンの友人は、少年漫画を読まない子だったが、鋼の錬金術の映画化で彼が主演するにあたって原作漫画を手に取ったという。

なんというか、目くじら立てるのやめよ、と思った。私にとって大事な登場人物やシーンや台詞が、メディアミックスの作り手にとってはそこまで大事ではなく違った形になってしまうことは、もちろんひとりのファンとしてとても残念だし悲しいことだ。でもそれが、作品の全て一切合切を貶めるものなのか。それ以外にももちろん私がその作品を愛した理由がたくさんあったはずだ。メディアミックスの作り手独自の見方があったように、私の見方も、私にとって都合の良いところを凝縮したいわば虚像の側面がきっとある。自分に都合のいい部分を取り出した、自分の好きな造形のキャラ。わたしの頭の中にいるあの子は、わたしの好みに歪んだ虚像かもしれない。

種類は違えどそこにはきっと作り手の愛がある。愛していることは、作り手も私も同じなのだ。いいじゃないか、私の好きなもののことをまだ知らない人が知ってくれるなら。そうなんだよ〜これめちゃくちゃおもしろいでしょフフン!!よければそこから原作にきて私と一緒に沼ってくれよな!!大丈夫プレゼンならいつでもするからさ!!

全肯定する必要もないし受け入れなくても別にいい。嫌いなら嫌いでそれでいい。私は私あなたはあなたのスタンスで、お互いの愛し方を尊重できたらいいね。だからね、作り手のみなさんの愛が感じられたら、私にとってきっとそれだけで素敵なことなんです。そういう気持ちで、メディアミックスの特報を受け取れるようになりたいなあ。その境地にはまだまだ遠いけど。

え?原作を蔑ろにしたりリスペクトが感じられないような壊し方をしているもの?それはその名を冠しただけの全くの別物なので、そんなもんは歯牙にかけないでよし!!!!!!ところでさ〜っつって原作のプレゼンしてこ!!!!