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アダム・グラント著『GIVE&TAKE』は単純に与える人が成功する話ではない①

最近、「GIVEします!」というタイトルの投稿が増えた気がする。20代前半の子が流行に乗って言ってることもあるのだけれど、30代、40代、ましてや一流大学の教授、年商100億円企業の経営者が投稿しているのを見ると、この人たちは、アダム・グラントの『GIVE&TAKE 与える人こそ成功する時代』の本を、本当に全部読んだのだろうかと疑問に思う。この本は、決してそんな単純な、そして情緒じみた話をひたすら述べた400ページにわたる本ではない。

この本は、何度も読めば読むほど、明らかに、組織学、いや正確には『組織心理学』の最先端の画期的な本である。

そもそも、彼、アダム・グラントは、人類をギバー・マッチャー・テイカーという三つの種類に分けているが、この中でギバーは2割弱に過ぎないと他の著書や講演などでも述べている。

ギバーとは、人に見返りを求めず、多くに人を与えてしまう人→1.5割

マッチャーとは、自分が相手に与えた分だけ、相手にも求める人→7割

テイカーとは、自分が相手に与えることは好まず、相手が自分に与えることばかり求める人→1.5割

世の中のほとんど、7割の人々がマッチャーで、テイカーとギバーが2割弱ずつ存在するという。この時点で、自分は基本的にマッチャーだと考えるのが普通だが、どういうわけか、自分はギバーだと思い込んでいる人が、世間では極めて多いことに気付かされる。

何か人に高価なものをもらったとする。その際、ああ、お返しが大変だと思った時点で自分はマッチャーだと思ってもいい。本当のギバーは誰かに与えることは当たり前すぎて、負の感情が起きない。

ギブします!と言った時点で自分はマッチャーだと思ってもいい。本当のギバーは、息を吸うかのようにギブしているので、そもそも誰かに何かを与えている自覚がない。だから「損をした!」という自覚すらもないのだ。

なぜこんなに自分はギバーだと思うこむ人が多いのか、という背景には、他人の仕事までも見返りを鑑みず受けてしまい、多くの人を助けてあげているのに、なかなか結果が出ない、認められない、と思う人が多いのが原因だ。アダム・グラントは、社会の上層、世界でも最も成功している人達もギバーであるが、逆に社会のヒエラルキの最も下層を司っているのもギバーが多いと著書の中で述べている。この部分と、本のタイトル「与える人が成功する時代」だけを都合よく解釈して、自分は与え続けていればいつか成功するんだ、と思い込みたい人がどれだけ多くいるかということを知らしめた結果でもある。しかし、アダム・グラントの本当に意図はそこではない。

社会のヒエラルキ

図1

何度も言うが、彼がこの本で世界に与えた影響は、表面的な「実は与えるばかりで損しているように見える、不器用な人が最後には成功するんだ」というような短絡的な話ではない。

それはこの本をしっかり、なんなら3回ぐらい読めば、中学生でも高校生でも理解できる。

この本は、組織の中で、テイカーを省くことがいかに重要かテイカーが下層のギバーの仕事をいかに阻んでいるか下層のギバーが上層のギバーになる仕組みを作ることが経営者にとっていかに重要かを、学術的に、実証実験から得られた結果をもとにひたすら述べているのである。

だから本気でこの本を読むと、私のような経営者は、目から鱗の実験が羅列されているので、否応なく箇条書きのメモを取り続けてしまう。他のどんな経営本にも出てない、真の数字に基づく結果だからだ。

上述のような「自分はギバーなのに結果が出ない、損してる」なんていう情緒に浸ることなんてほとんどない。

というかそもそも、自分がギバーかマッチャーかなんて興味を持たなくてもいい。しかし経営者は、人を採用するとき、人を配置するとき、ギバー・マッチャー・テイカーをしっかり理解していないと、会社に多大な損害を及ぼす可能性があると言うことを理解しなければならないのである。

もちろん最終的に、下層のギバーが、やり方一つで、上層のギバーになり得る、それが会社的にも、社会的にも大きな好影響になるという結論には至る。

しかし、それはあくまで彼が述べたかったことの一つであり、それが全部ではない。世間の多くの人々は、彼が述べたいことがその一点に集中しているかのように伝導しているが、本当の意図を理解していたらそこには至らないはずである。

なぜ、アダム・グラントがここまでしてギバー・マッチャー・テイカーを分類し、下層のギバーにこだわるかというと、

下層のギバーこそが今後の社会で重大な責務を担い、上層のギバーになることが社会に大きな影響を与える

といった自身の経験をもとに、テイカーやマッチャーをギバーにしてしまうビジネスモデルの成功事例を洗い出し、さらにギバーがテイカーやマッチャーに出くわした時の対応までも述べている。

また経営者が採用するときに下記の質問をすれば、必ずテイカーを見抜けられるという。その質問は、、、

自分が影響を与えた人、四人教えてください。

この質問に対して、テイカーは必ず、自分より社会的に成功している人間を挙げる。それに対してギバーとマッチャーは、身近な人、家族を挙げる。この質問は、あくまで自分が影響を与えたのであって、自分が影響を与えられた人ではないにも関わらず、ギバーやマッチャーは、自分が影響を受けた人に影響を与えられるよう、貢献をしようと日々動いているので、

影響を与えた人=影響を与えられた人

という結果になりやすい。

しかしこれに対して、テイカーは、自分の上司、社会的に成功している誰かを挙げる。彼らは瞬発力、要領が良かったりするので、仕事ができないわけではない。そして上司に対してコミュニケーションも上手である。一方で上司が自分をどう思っているかどうか、影響があるかどうかに何の疑問も持たず、自分の能力=社会の影響 という錯覚に陥りやすいのだ。

そういうテイカーを見抜くことで、私たち経営者は、下層のギバーが上層のギバーになる手助けをし、下層のギバーがテイカーの犠牲になり摩耗するのを防ぐことができる。

それでも世の中ではテイカーやマッチャーと仕事をする機会が必ず出てくる。なぜならそもそも7割がマッチャーなのだから。。。

その時にテイカーやマッチャーを見極め、仕事のスタンスを変更することが大事になってくる。それが

テイカーやマッチャーには、ついつい人の仕事をし過ぎてしまう、コスパの高いギバーも

テイカーやマッチャーとして振る舞う

というのが最大の防御策なのだ。

具体的には、自分が頼まれてない仕事を相手にとって良かれと思って提案したりしない。テイカーやマッチャーから必要以上に頼まれた仕事を引き受けたりしない、という当たり前だけれどギバーがついついやってしまうことである。

そんなの当たり前じゃないか。。。多くの人が思うかもしれない。しかし、多くの仕事でテイカーやマッチャーの要望に必死に応えようとするギバーが存在するのも事実なのだ。そしてそういう下層のギバーは、会社としては生産性が低く、収入が低く、経営者の悩みの種なのである。

半世紀以上、アメリカで論争されていた、人に与える人は実は利己主義 という定義を打ち破り、それでもギバーが成功する仕組みを噛み砕いて述べているのがこの本の真骨頂だる。

②に続く

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