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原発に行ってきた。2020/10/07

こんにちは。1日1本なにか書くと意気込んでいたあの熱量はどこへやら。ソルティーです。
かなりお久しぶりになってしまいました。季節はすっかり秋になって、午後6時には真っ暗でびっくり。

さて、9月30日に、友人のお誘いで、福島第一原子力発電所の視察に行ってきました。実は2019年2月にも視察に行っており、約1年半ぶり2回目。前回は初めてだったこともあり、東京電力の用意する一般的なコースでめぐりました。実はそのときの私はその経験を文章にアウトプットするということをさぼりまして…(汗)
ということで、文章のよしあしは置いておいて、今回実際に自分の目で見たこと、考えたことをまずアウトプットしてみたいと思います。

今回アテンドしてくださったのは、経済産業省資源エネルギー庁の廃炉・汚染水対策官の木野正登さん。2011年3月19日に福島に着任して以降、9年半の間、福島で汚染水問題の最前線に立っています。

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▲木野さん(左から3人目)にアテンドされ計6人で視察してきました
※写真撮影時のみマスクを外しています

2度目の原発

富岡町のさくらモールとみおかにて木野さんと合流。木野さんの車で原発を目指します。

原発周辺は帰還困難区域となっており、国道6号など一部の幹線道路を除き、通行する車は通行証が必要になったり、そもそも通行止めとなっている道路もあります。また通行できるのは四輪車に限られ、帰還困難区域の国道6号は「駐停車禁止」となっているのも特徴的です。
避難指示区域の状況についてはこちら↓

原発に到着すると、「入退域管理棟」という建物で本人確認を行います。本人確認が終わると、一時入構許可証が渡されます。今回は人数が少なかったこともあるのか、生体認証も行われました。

ゲートをくぐり、建物の奥に進んでいきます。視察時の被ばく線量を調べるためのAPD(警報機付き個人線量計)が渡され、指定の場所に装着。その後、今回は実際に車を降りて視察する箇所があるため、その際に必要な装備を準備。それをつけるとどうなるかは後程写真で。

準備が終わるとホールボディカウンターの検査を行います。内部被ばく量を調べます(福島県で育った方は、学校に検診車が来て、実際に検査をしたことがあるかもしれません)。視察前に1回、視察後に1回検査を行い、その数値の差で今回の被ばく量を調べます。

さあ、いよいよ原発の構内へ入ります。

「ALPS」の中へ

まずはじめに「ALPS」という設備の中に入ります。「ALPS」は「多核種除去設備」と呼ばれ、原発事故によって発生した汚染水を浄化するものです。詳しくはこちら↓

汚染水は放射性物質を高濃度に含んでいるため、これを浄化することで、敷地内の放射線量を低減させる効果もあるそう。しかし、今現在、このALPSで処理された「処理水」は、福島第一原発の敷地内に保管されている状態です。詳しくはあとで。

先述の通り、ALPSは高濃度の汚染水を扱っているため、建物内に入る際は重装備になります。綿の手袋をした上にゴム手袋を二重に。靴下も自分のものを脱ぎ、備え付けのものを二重に履きます。その後、「タイベック」とも呼ばれる、上下つなぎになっている簡易防護服を着用し、全面マスクを着用します。最後に、綿の帽子をかぶった上からタイベックの帽子をかぶり、ヘルメットを着用し、装備の完成です。

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▲ALPSの中で記念写真。黄色の靴はこの区域専用です。

今回実際に見学させていただいたのは、「増設ALPS」と呼ばれるもの。構内には「既設」「増設」「高性能」のALPSがあります。
増設ALPSにはその中に3つの浄化設備があり、1つにつき250t/日、増設ALPS全体で1日に750tの汚染水を処理しています。ちなみに既設ALPSのほうも同じ仕組みで、3つの設備で1日750tの汚染水を浄化。2台合わせて1,500t/日です。

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▲左側にあるのは、処理された水が一時保管されるタンク

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▲奥にあるのは放射性物質を吸着させる機械の1つ。

写真では一部しか写っていないこともあり、分かりにくいかもしれないですが、大きな機械やタンクが並ぶ光景は、まるで何かの工場を見学しているかのよう(ここも捉え方によっては工場のようなものかもしれませんが)。

ちなみにここを見学したのは午後2時前後のこと。作業員の方は1人も見かけませんでした。
というのも、建物の中で防護服を着ての作業はとても暑くなるため、特に6月から9月の間は”サマータイム”が導入されており、朝早くに作業を始め、お昼ごろには帰ってしまうそう。作業員の方の暑さ対策も考えられていますね。

5号機の建屋内に潜入!

ALPSの見学を終えると、防護服と全面マスク、ゴム手袋はそこでお役御免。二重に履いていた靴下も外側の1枚を脱ぎ、準備していたもう1枚の靴下を新しく重ね履きします。

着替えを済ませた私たちが次に見学をしたのは、5号機の建屋内部。大熊町側にある1~4号機は、水素爆発なりメルトダウンなりが発生しており、何かと取り上げられることが多いですが、北側の双葉町側にある5・6号機も、津波の影響で外部電源を喪失しました。しかし、6号機の非常用電源は津波の影響を受けることなく使用できたため、緊急対応に成功しました。

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▲5号機の外観。
1~4号機(大熊町)は水色の建屋ですが、5・6号機(双葉町)は緑色です。
※この写真は前回視察時(2019年2月15日)に撮影したものです。

私たちがまず向かったのは、最上階にあたる5階。

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▲この先、5人で写っている写真ばかりになります(笑)

実はこの位置、原子炉建屋の説明図でいうところの…ここ!

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▲中国電力ホームページより。一部改変。

こんなところに、しかもこんな薄着で入れるとはびっくりです。

図の通り、燃料棒と私たちは3層の「ふた」で遮られており、そのふた1つひとつがかなりの厚さ&重さ。最も外側にあたる5階のフロアのものですら、3枚に分かれているものを合計すると50t近くに。もちろん現在は廃炉に向けた作業を行っているため、運転はされていませんが、実際に運転されているときもこの服装でこの場に入れるのだそう。かなり厳重に管理がされているのが伺えます。

さて、先ほどの私たちの写真の後ろなのですが、使用済燃料プールがあります。

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▲使用済燃料プールを上から。

その名の通り、使われた燃料が保管されている場所です。"プール=水が張ってある"というのはある種偏見かもしれませんが、使用済燃料プールはかなりの高さまで水が張られていました。
核燃料の長さは約4m。その上に数mの高さまで水が張ってあります。水は上から注ぎ込まれ、下から排出されることによって循環を保っています。原発事故の際は、3号機で使用済燃料プール内の水が沸騰してしまい、燃料が空気中に露出してしまうのを防ぐため海水注入を行っていました。

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▲圧力抑制室をバックに1枚。
本来照明がないため真っ暗ですが、懐中電灯とカメラのフラッシュでここまで明るくしています。

ALPS処理水が保管されているタンクはいま

一行が次に向かったのは、ALPS処理水をためておくタンクの建設現場。

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▲なぜか私(右端)だけピンボケ…(笑)

ALPSで処理された「処理水」は、いまだに原発の敷地内にあるタンクに保管されています。その量、約123万㎥(2020年9月17日現在)。敷地等の限界から、タンクにためておける水の量は、現在増設中のものも合わせると約137万㎥。ちなみに現在行われているタンク増設工事が最後となるということです。このままため続けていくと、2022年夏ごろには満杯になってしまうと見込まれています。

ではなぜ、この水は保管されているのでしょうか。

ALPSでは、原子力規制委員会の定める限界地よりも低い値まで、ほとんどの放射性物質を取り除くことができます。しかし、1つだけ取り除けないものが。それが「トリチウム」です。

トリチウムとは、三重水素とも呼ばれ、"普通"の水素に中性子が2つ付加されたもの。水素の同位体の1つです。(この辺は高校の化学基礎をやっていれば分かるかな…?)
水分子には通常、"普通"の水素原子2つと酸素原子1つが含まれるわけですが、トリチウム水は"普通"の水素原子のうち1つがトリチウムに置き換わっている水、ということ。「処理水」のほとんどはこのトリチウム水です。
このトリチウムが放射性物質であるわけですが、そのエネルギーは極めて小さく、大気中の水蒸気や雨水、水道水にも含まれています。また、人間の体内にも少量ながら含まれている物質になります。

エネルギーが小さいとはいえ、放射性物質であるということ、また原発事故による風評被害もひどかったことから、福島第一原発で発生したトリチウム水は、世論や地域住民(特に漁業関係者)の反発もあり海洋放出されず、敷地内に作られたタンクの中に保管されています。しかし先述のように、敷地・タンクにも限界があります。この水はこのあとどのようにすればよいのでしょうか。今も議論が続いています。

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▲処理水が入った瓶を手に1枚。
この4日前、菅義偉首相も原発に訪れ、処理水を手に持っていました。
(もちろんこの瓶ではありませんが…)

終わりに

ここまで、今回の視察で見たことなどを中心にまとめてきました。

今回のメインはALPSの見学と原発内の水(汚染水、処理水など)の実情を知ることでした。もちろん下調べ(インプット)をある程度してから行ったのですが、それ以上に入ってくることが多く、あっという間の視察でした。

処理水をこのあとどうするべきか、さまざまな案が検討され、住民・政府関係者・学者など、さまざまな立場からさまざまな意見が出されています。

現時点で最も現実的と考えられているのが、十分に希釈したうえでの海洋放出。実際他国では取り入れられている手法ではありますし、安全だといわれる濃度まで希釈する、とのことですが、もしこの方法をとったとき、風評被害は再び起こりうるでしょう(正直今現在風評被害がゼロになったとは言えませんが)。そして、その風評被害を起こすのは、福島の現状についてよく知らない人、正しい知識がない人、なのかもしれません。

視察の終わりに、木野さんは「最終的に決めるのは消費者なので、消費者の方こそが、正しい知識を持ってほしいし、そのために原発を見に来てほしい」とおっしゃいました。1人の福島県民として、その思いは私も同じです。

「百聞は一見に如かず」という言葉もあります。いくら報道などで耳にしていても、いくらこのnoteを読んでも、実際に現地に赴いて自分の目で見ることにはかないません。

原発事故からどのように収束しようとしているのか、原発事故によって起こった諸問題がどのように解決に向けて進められているのか、ぜひ自身の目で確かめてみてほしいと思います。まもなく震災から10年になろうとしています。これまでの福島、これから福島について、確かな知識をもとにみんなで議論していけたらいいなと思っています。

おまけ

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▲3号機そばにて。3号機は写真右側。後ろにあるのが2号機。

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▲原発作業員の方の休憩所にはローソンが入居しています。
かなり貴重なレシートです。

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