フローズン・オイル

西部開拓時代、アメリカ。ゴールドラッシュの終焉に見切りをつけた一団はさらに西へーーアラスカへ向かった。大西洋を北に進んだ一団をまず襲ったのはデナリから吹き付ける厳しい寒気だった。数フィート先も見えない地吹雪と吐く息も凍る夜の放射冷却によって、上陸すらままならなかった。一団は気づいた。オーバーオールではアラスカを開拓できないと。

白羽の矢が立ったのがフィルソン社だった。創業者のクリントン・フィルソンはアラスカ開拓団の要望に答え、頑丈なウールでできたハンティングジャケットの密度を2倍にした。シアトルの海風を防ぐためのオイルドクロスの厚さを2倍にした。屈強な男たちは子供ほどある重さのジャケットに身を包み、凍土へと挑んだ。

100年後。1990年。石油化学産業は人類の生活様式をそっくり変えてしまった。衣類も当然その余波を受けた。ウールはダウンに、オイルドクロスはゴアテックスにその座を譲った。人類はよりカジュアルに自然を蹂躙できるようになった。少なくとも当時はそう思われていた。

10年後。2000年。3度に渡る核戦争の末、もはや地球上に安全な場所はないと判断した各国は、同時多発的に宇宙開発を推し進めた。アメリカが火星を51つ目の州と主張し、先に着陸を果たしていたイスラム連邦と火花を散らす頃、地球上の石油はそのほぼ全てを宇宙開発業者に乗っ取られていた。原油価格は跳ね上がり、庶民の生活はままならなくなった。ガソリン、衣類、プラスチック、そして電気までが枯渇状態となった。

誰かが、何者にも管轄されない、何者からも自由な油田を開発しなくては。

「おい、おたくんとこのミスター・フィルソン社長に電報だよ」

「あいにくだな。ロジャーならしばらく帰ってこないよ」

「そうか、じゃあすぐに送り直さなきゃいけないな。社長さん、ロジャーっつったかい。彼は今どこにいるんだ?」

「ロジャーなら、アラスカへ向かったよ」

【続く】

毎度どうも