礼儀正しすぎる日本

二年間、アメリカのニューヨークで暮らしていた。日本という国で生まれ育った私にとって、自分が「外国人」になるというのはとても貴重で、色々と学ぶことも多く、また、今までの自分の価値観がガラガラと音を立てて崩れる経験も多かった。二年間一度も日本に帰ってこなかったので、初めの一ヶ月ほどは自分の国に帰ってきたにも関わらず違和感を感じることが多かったが、三ヶ月経った今、ようやく慣れてきた。

日本に帰ってきて驚いたのが、「店員」と言う職業の人達がみんな礼儀正しく、丁寧だということだ。外国人の店員も増えてきているが、日本のマナーを叩き込まれているのか、とても丁寧に接客してくれる。アメリカから帰ってきた私は、何もそこまでしなくても、と思うほどだ。

アメリカでよく見かけたのは、仕事中に飲み物を飲む姿だ。スーパーのレジの人、博物館の受付、そして警察官。みんな仕事中に飲み物を飲む。スーパーのレジの人は、大抵自分のブースに1Lは入りそうなタンブラーを置いていて、客と客の間に飲み物を飲む。博物館の受付のお姉さんは、お菓子を食べいていて、次のお客さんに、「美味しい?」と聞かれていた。警察官に至っては、制服のままダイナー(日本で言うところのファミレス)に4人組くらいで入ってパンケーキの朝食をとっている場面に遭遇したことがある。

日本ではそう言うわけにいかないらしい。スーパーで飲み物を飲んでいる店員など見たこともないし、警察官がコンビニに入っただけでクレームがあったなんて話も聞いた。私からすると、コンビニやお店に警察官が来るなんて、防犯上とてもいいことだと思うし、誰しも働いていると休憩が必要だ。そのクレームを入れた人は、休憩なんて必要のないロボットのような人なのだろうか。

アメリカという国はとてもわかりやすい。お金を出せば一流のサービスが受けられるが、お金を出さなければ「サービス」はない。一流レストランに行けば、愛想の良いウェイターがサーブしてくれるが、ファストフード店なら愛想のない店員が機械的に対応するだけだ。だから最初から期待しない。中には愛想のいい店員もいるが、当たればラッキーというくらいに認識しておいたほうがいい。アメリカではみんなが適当であるので、その適当さにおいおい、と突っ込みたくなることもあるが、大抵は「まぁいいか」と許せてしまう。だって、アメリカだもの。そして案外、その適当さが心地よくなってきたりするのだ。

日本でも当然、高級ホテルやデパートなどは、それなりの接客が求められるだろう。しかし、コンビニやファストフード店の店員に、一流のサービスを求めるのは酷なのではないだろうか。そしてクレームを言う人たちに気が付いて欲しい。そのクレームは回り回って自分たちの元に帰り、自分たちがこの社会を窮屈にしているのだということに。

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