夢見る引っ越し。
周期的に引っ越しがしたいという気持ちが湧きおこる。
現在のわが家は、リビングのほか一部屋と、キッチン、シャワー付きトイレ、ベランダ、とかなりコンパクトな方だ。正直、二人と一匹で暮らすぶんにはさほど不都合はないのだけれど、人というものは「あとほんのちょっと+α」を求めてしまうらしい。
(ちなみに、周りの所帯持ちの友人たちの家を訪問した限りでは、うちより狭い家はまだみたことがない)
まず、キッチン。ガス台と小さいシンクと、その間のまな板がやっと一枚置けるスペースですべての料理をする。余分な空間がないので、食器や調理器具が溜まらないように料理をするはじから洗い物をしなきゃならない。シンクから三歩ほど離れたところに置いた小さいダイニングテーブルや、折り畳み式のちゃぶ台も総動員だ。
料理をする人ならわかると思うが、料理はいかに手の届く範囲で広いスペースを使えるかが効率のカギだ。「食器洗浄機があれば時間短縮に伴って生活の質が驚くほど上がるよ」と勧められたけど、そもそもそんなもん置くスペースがあれば、少なくともキッチンでの生活の質は向上していると思う。
そんなとき、ふと思う。ああ、あとほんのちょっとだけ広いキッチンのある家に住めたら。
そして、部屋。当初は大きい部屋をリビングに、小さい部屋をベッドルームにしていた。ところが同居人はテレビを観ながら寝落ちしないと眠れない。本人曰く、日夜交代の出勤時間のせいで睡眠障害が生じてしまったという。リビングにしかテレビがなかったので、彼はほとんどベッドルームを使わなくなった。私は私で、ノートパソコンを広げて仕事する場所がリビングしかなく、つけっぱなしのテレビのせいでいつも気が狂いそうだった。
妥協案として、ベッドをリビングに移し、ベッドルームだった部屋に机とパソコンと本棚を設置したら、いろんなことが解決した。結局、小さい部屋はほぼ「私の仕事部屋」となり、その他の食事、娯楽、休憩、睡眠などの生活の営みはすべてリビングでなされるようになった。
長所は、掃除をいっぺんにできてラクなこと。短所は、これ以上モノを増やせないこと。幸い二人ともモノをやたらと買う方ではないので、今までのところそれほどごちゃごちゃせずに暮らせてはいる。ただ、もっか一番の悩みは本で、リビングに置いてある同居人の本棚も私の部屋の本棚ももういっぱいだ。本当に本好き(または仕事上本が必須)な人なら、本棚からあふれた本を床にどんどん積んでいくのが普通なのかもしれない(?)が、性分的にそれが我慢ならない。本棚をもう一つ置きたいのだが、どこをどう動かしたとしてもそのスペースが確保できない。そんなとき、ふと思う。
ああ、どんなに小さくてもいいからあと一部屋あったら、本棚を置けるのに。
もちろん、引っ越したいと思うのは広さのせいばかりじゃない。昔から、ある種の「あこがれの暮らし」のイメージを夢想しがちだった。なんというか、よくあるナチュラルな暮らし系の雑誌に出てくるような。すっきりとシンプルでいて、ほどよく年季の入ったセピアな家具とグリーンに囲まれているような。いわゆるハッシュタグ「ていねいなくらし」が必ずついていそうな。
ここよりももう少しだけスペースがあって、もう少し内装を自由にできる家に引っ越せたなら。木製の大きなテーブルを置こう。「収納のため」ではないオープンな棚に、街中でみつけた素敵な陶器やガラスを飾ろう。広い壁の一面には仁寺洞で見かけたチョガッポ(麻のパッチワーク)をさらりと垂らそう。もし余裕があれば、猫のためにキャットウォークを備えよう……。家でふとスイッチが入ると、とめどなく妄想に走ってしまう。気づけばメジャーを手に取って妄想上の机を測ったりしている自分がいたりする。
恥ずかしながらそんなあこがれを胸に秘めて、人生ずっとそういう暮らしを夢見てきた。そんな話はあまり人にはしたことがない。普段の私のイメージとはかなりギャップがあるかもしれない。
いまの家での暮らしも8年目に入った。引っ越しが異常に多い首都圏では、長く住んだ方だ。今年こそは…と夢想は広がるけれど、なんせ韓国の不動産状況は厳しい。いっときに比べるとかなり落ち着いてきたもののまだまだ思い通りにはいきそうもない。独特な韓国の住宅事情についてはまた別の機会に。
とりあえず、今日も無意味に不動産ポータルサイトを開いて間取りを眺めては、妄想を広げている。