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2020.8.1 世界で初めて100万人の民を束ねる大帝国を創った男

紀元前から続く支配の秘密道具

時を遡って、紀元前1800年頃の中東地域。

ここには2つの国が存在し、この両国には多くの共通点がありました。
どちらも王が君臨し、強靭な兵士たちが国を守っていました。

さらに、どちらの国も肥沃な土地、水源、食料に恵まれ、また金や銀、ルビーといった宝石など、有り余るほどの富を持っていました。

しかし、この両国にはたった一つだけ大きな違いがありました。

両国のうち、一方は数万人程度の国民しかおらず、かつ争いが絶えない都市のまま。

もう一方は100万人以上を超える人々がどんどん集まり、争いのない大帝国に。

一体、何がこの違いを生んだのか?

そこには、数千年の時を越え、支配者たちの間で現代まで受け継がれる、秘密のツールとも言われる統治の秘密が隠されていました。

この大帝国の名はバビロニア帝国。
人口100万人を超える人々と豊かな食料、金や銀、宝石など、ありとあらゆる富を持っていた。
さらに、巨大な神殿をはじめ、何層もの階段上に様々な種類の樹木や植物が植えられた。

また、“バビロンの空中庭園”と呼ばれる建造物までもが建っていた。

その王として君臨し、これほどまでの大帝国を創り上げた男…

その名はハンムラビ王。
文明も十分に発達していない当時、田畑を耕したり、まだ人々が鉄製の武器を使っている時に、彼は、これほどまでの大帝国を如何にして創り上げたのか…?

近隣の都市国家の勢力が強い頃、彼は、ただの小さな都市を治める弱小領主の息子として生まれたに過ぎなかった。

そして、彼の代になり、近隣の小都市と同様、少しずつ荒れ地を豊かな土地へと変えていく。
さらに、城壁の強化や兵士の育成をすることで、富国強兵を地道に進めていった。
とはいえ、ここまでは他の都市や帝国でも行われていたこと。
大帝国になるほどの差を生むものではなかった。

では、この大帝国だけにあったものとは何だったのだろうか?
何が違いを生んだのだろうか?

その秘密はある一つの法典にあった。

それこそが『ハンムラビ法典』である。

この時代、豊富な食料や強靭な兵士、有り余る宝石があるだけでは大帝国を創り上げることは不可能だった。

なぜなら当時、自分と同じ民族以外の「他人」は信用ならないものだったからだ。
豊かになればなるほど、“豊かさ”が争いの原因になり、他の少数の都市や帝国の王は人々を平定できずに滅んでいった。

互いに信用することなく、争いを生む複数の民族…。
彼らを一つにまとめたのが『ハンムラビ法典』だった。
“目には目を、歯には歯を”という「やられたことは同様にやり返す」復讐法の原則が世界的に有名な法典だが、しかし、あくまでもこの法律の内容自体は枝葉に過ぎない。

なぜか?

そもそも、決まりなどを創ったところで、誰も信用し守ったりなどしなかった。

いまも日本でいえば、
「大阪府の独自ルールをどこにいても全国民が守って下さい!」
と言ったところで誰も守らないだろう。

同様に、ただ決まりを創っても、同じ民族の間だけでしか信用できない…。
それでは数千、数万程度の同族が集まることしかできなかった。
ただの法律では100万人を超える人々を統治するなど不可能だった。

では一体、ハンムラビ法典の何が優れていたのだろうか?
実は、ここにハンムラビという100万の人々を統治する支配者を創り上げたカラクリがある。
ハンムラビ法典には、もう一つ現代の教科書では決して教えてくれない重要な大前提が書かれている。

それは、冒頭のページ。

「ハンムラビ王は神によって指名された王である」
という部分。

これの一体何が重要なのか?

ここで、神という存在が登場する。
この当時、神という存在は絶対であり、目に見えなくても触れられなくても人々の間で広く受け入れられたものだった。
それをハンムラビは、初めて上手く利用した。

「神々によって指名された男:ハンムラビ」
「神が指名した男の言うことは全て正しい」
「ハンムラビは絶対だ」と。

だが、普通に考えればそんな訳はないだろう。
「神に指名された男」というのは真っ赤なウソだ。
ハンムラビは神ではないし、神に指名された男でもない。
そこにある事実は「ただの1人の人間」。

しかし、彼は人々が盲信する『神』という存在を使い、
「ハンムラビは神に指名された男だ」
という神話とも言えるフィクションを創造した。

そして、この一つの教えを他国の情報を遮断して刷り込んだり、時に口伝で、時に粘土板に書いた文字を使って人々に広めていくことで、
「ハンムラビは絶対だ。そして法典も正しい」
と人々に信じさせ、彼は人々を支配した。

大帝国を創り上げたのは全て1人の想像力、神話といえるフィクションによるものだった。
ちなみに、ハンムラビの死後もこの神話は引き継がれ、大帝国は200年以上も栄えることとなった。

当時、世界初の大帝国建設の原動力となったのは、たった1人の支配者が作り出した“強力な神話”にありました。
そして、これは単なる昔話で終わる話ではなく、現代まで引き継がれる重要な教訓を私たちに教えてくれています。
ハンムラビは「自身は神に指名された男だ」というフィクションを創りましたが、現代の世界にも、その後に現れた支配者たちの創った神話が無数に息づいています。

代表的なもので言えば、

「お金」はただの石や紙切れに支配者が信用を与えることで、広く流通するようになりました。

宗教についても、多神教に次いでユダヤ、キリスト、イスラムなどの神教が生まれ、熱心な布教活動を通して爆発的に広がっていきました。

これらは、どれも初めから存在したわけではなく、神から与えられたわけでもなく、各時代の支配者たちによって創り上げられたものです。

「神話(フィクション)」つまり、嘘の話を信じさせると言うと、あまり聞こえは良くありませんが、事実、人類は1万年前のホモ・サピエンスの時代に、虚構を信じる力を手に入れたことで団結し、勝者として生き残ってきた経緯があります。

それ自体に良い悪いはなく、歴史の教訓を辿れば、良い神話を作り、民を1つの方向へとまとめ上げた支配者は勝者となる一方で、間違った神話によって民を誤った方向に導いた、あるいは導けなかった支配者たちは、敗者となる道を歩んできたという事実があります。

この神話(フィクション)を現代に言い換えると、大国や支配者たちが使う「戦略の階層」と言われるものの最上位に置き換えられています。
1万年単位の歴史の教訓を辿ると、この上の段階において優れている国(支配者)は他国を圧倒し、如何に下の段階において優れた能力を持っていたとしても、上の段階において劣る国(支配者)は常に敗者になっています。

このことは、私たち日本の問題にも関わっています。
なぜかというと、日本は第二次世界大戦で敗者の側に立ちました。
そして今も、失われた30年とも言われる低成長で道を失い彷徨い続けています。
その原因は優れた神話を創り出せていないこと。
さらには、その神話に基づく一貫した戦略の階層が存在しないことにあります。

一方、先の大戦で勝者の側に立ち、世界の覇権国家であり続けるアメリカには強力な神話があり、一流のシンクタンクが、その神話に基づく一貫した戦略を立て、政府や政治家がそれに沿った行動を取っています。

歴史の教訓を見れば、そのような戦略的な国に政府や政治家、国民がそれぞれバラバラに行き当りばったりに動いている国が勝てるわけがありません。

しかし、日本には世界一長い歴史と優秀な国民がいます。
支配者たちが使う「神話の秘密」と「戦略の階層」を理解し、もう一度優れた神話を掲げた時、日本は必ず復活し、勝者の道が開けてくると拙生は信じています。

日本が、そして私たち自身が勝者になるためのビジョンを描くためにも…。

今も昔も、支配者の使う神話(フィクション)というツールが、世界情勢に大きな影響を及ぼしています。
このツールが、どのようにして現代の世界の力関係に影響を与えるのか?

現代の大国の支配者たちは、どのようにしてこのツールを利用し覇権を争うのか?
次の時代で勝者となるのは、どのような神話を創り上げた国なのか?
そして、日本はどうすべきか…。

人類の誕生から現代まで、1万年単位の歴史から紐解いた“不変の法則”を知らないと、世界で起きる出来事は、まるでランダムに何の法則性もなく起きているように見えますが、このフィルターを通してみることで、過去から現在、現在から未来へと点と点が繋がって一本の線となり、今後、今までと同じニュースを見たとしても、見える世界がガラリと変わってくると思います。

そして、世界各国の支配者たちの動きの意図や背景が見え、不安を煽り立てるメディアに騙されることも無くなります。
点でバラバラの、ただ起きた出来事だけを伝えるメディアの報道にモヤモヤを感じることもなく、
「これを信じさせたいのか」
「人々をこう動かしたいのか」
といった繋がりが分かるようになり、面白く感じられことも出てきたりするかもしれません。

今回は、今の日本では、なかなか知ることのできない1万年単位の人類史と勝者(支配者)の法則を題材に、分厚く難易度の高い歴史書を何冊も読まなくても、幅広く世界を見渡す視点、分析する力を身に付けられる機会を作ることができればという点と、今までの生活では感じたことのないような世界が広がる体験を味わうきっかけになればと思い記事にしてみました。

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