「不思議な薬箱を開く時」
薬種・薬剤編
「マンドラゴラについて・2」
さて、みなさん。
前回の続きでございます。
採取に際し、
マンドレイクは、
地面から引き抜くことで、すさまじい悲鳴を上げます。
この凄まじくもおぞましい、苦悶の叫び声を聞きますと、
心身ともに著しい衝撃を受け、正気を失い狂気に憑り依かれます。
この性質からマンドレイクの収穫にはかなりの危険を伴います。
危険性は拭い去れませんが、
マンドレイクの採取方として知られている手法がありますので、
順を追って説明いたします。
用意するもの
1.白犬から生まれた黒犬
2.新鮮な羊肉
3.耳に詰める布と蝋
4.麻紐
5.処女の尿か経血
マンドレイクの収穫期は、季節的なものではありません。
絞首刑が行われる地域であれば、わかりやすいのですが、
現代において、公開絞首刑などの非人道的な慣習が残されている国家は、
なかなか見当たらないものでしょう。
私的な制裁や、見せしめとしての公開絞首刑が行われているのであれば、
そこが収穫地として、最適であることは確かです。
ただし、
すべての受刑者が”断末の滴り”を大地に落とすとは限りませんので、
長期の滞在を覚悟しましょう。
刑の執行後、
吊るされた男の足下に、
マンドレイクが芽吹いているようであれば、
まさに幸運の極み!
採取者は、早速、禁欲的な生活を
約半年間、続けましょう。
その間、全身が純白の母犬から誕生した漆黒の犬を手に入れてください。
大地から芽吹いたばかりのマンドレイクをよく観察いたしますと、
肩まで土に埋められた醜い小人の様です。
あなたは、マンドレイクに向かって、
性的に興奮させる下世話極まる言葉ではやし立てながら、
その首の辺りに麻紐を巻き付け、黒犬の尾と繋ぎます。
あなたは、用意しておいた羊肉を持ってその場から離れてください。
布を耳に詰めて、溶かした蝋でしっかりと耳を塗り固めます。
呪わしい悲鳴が入り込まない様に、しっかりと。
そして、羊肉を振って、黒犬に見せて呼び寄せます。
黒犬は、羊肉を目指して走って来ます。
その勢いで、マンドレイクは大地から引き抜かれるでしょう。
布と蝋で耳を塞いでいるあなたには、
精神を破壊するおぞましい悲鳴は聞こえないはずですね。
この方法は、イタリアの著述家ヨセフスによって記されています。
マンドレイクの苦悶の断末魔で、黒犬は死ぬでしょう。
マンドレイクの採取法としては、黒犬の犠牲のもとに成り立つ、このやり方が主流なのです。
さて、ここで、首尾よく抜いたとしても、気を抜いてはいけません。
マンドレイクは、走って逃げることがあるのです。
その際に必要なのが、処女の尿あるいは経血です。
マンドレイクは、それらをかけられますと、動きを止めるのです。
さあ、首尾は上々?
命と正気を失うことなく、
マンドラゴラを手に入れたなら、
早速、薬種として必要な製剤とされるまで、
大切に保管しておきましょう。
さて、次回は、もう一種の「マンドラゴラ」についてのご説明です。