3月読んだもの記録

 自分の作品を書いていて、そのあいだはあまり読めなかった。ストレスもかなり溜まった。まだ希死念慮が抜けきっていないが、きっとゆっくり抜けているとおもう。

『坂下あたると、しじょうの宇宙』町屋良平
 誰でも読めて文学の良さが分かってしまうスーパー小説。小説すばるで第一回を読んでから自分も詩を作り始めた(結果は推しバンドのパクリ歌詞みたいなシロモノだったがそれはもういい)ともかく青春のテーマに乗せて純粋な創作のよろこびが溢れており、やっている身としては共感で嬉しくなることが多かった。「おれがおまえにXXXXのXXXXをXXてやる」といって、やることが教室でXXをXXまくってXXにXられるっていうのが最高。しかし身の回りにはもう読書じたい一切やらない人間が多い。職場には老人も多い。町屋作品は若さのエネルギーがすごく、老人たちにどう勧めたらいいのかわからない。プレゼン能力を磨きたい。あと、詩をやると小説もうまくなる、なった気がする。伝えたいことと書きたいことは違う。そこのあたりがわかってきたと思う。

『サブリナ』ニック・ドルナソ、藤井光
 グラフィックノベル。ネタバレ厳禁。すごく高いがその価値ある。社会にふれながらフィクションに接続するのは難しいことだがサブリナは現代のSNS社会をフィクションに接続しており、しかもその方法と加減がぜつみょうに上手い。そして絵柄はシンプルなのになんか怖い。読んだら調子悪くなった。マンガと思わずもう少しゆっくり読むべきだった。

『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』大前粟生
 中~短編4作品。『回転草』『鰐』ではフィクション色の強い独特な短編ホラー作家の印象だったが今回はジェンダー小説と帯にもあるごとくフィクション要素がやや薄めで重苦しい雰囲気もあり、作者の隠れていた叫びと読んでもいいのだがしかし改めて読むと小説としての色づけもしっかりとなされておりアート。白城がいい。白城すき。4作めの「だいじょうぶのあいさつ」は前作までの雰囲気に比較的近いのだがこれまで読んだ大前作品全ての中でも五本指に入るくらい好み。この本についてはあとでもうすこし語りたい。

・文フリで出す予定だった、仲間の書いたヤツ!
 面白い。同好の士がいると勇気が出る。照り返して、じぶんがどういうものを書きたいと思っているのかだんだんわかってきた。宮元も頑張る、まだまだ。しかしそろそろ違う雰囲気のものも書きたいな~と思っているので、文学合宿やってた仲間で秋文フリに応募しました。2サークル往復マンになるのでよろしく。現場で会いましょう。

『インターネット2』にゃるら、岩倉文也etc.
 前回文フリの戦利品今更読んだその①。アウトサイダーアートとして参考資料にしたかった気持ちは正直あり、特にニックランドの木澤氏が本もツイッターも面白かったので読んでみたかった。めっちゃ頭のいいオタク。存在するだけで世界の呪いを引き受けてくれており毎日感謝しているが、じぶんには後を継げそうにない。それはそれとして、他の作者を含め内容も面白い。今も確かにあるオタクというマイノリティの切実さもあるが、微妙に感情的な理由で実現できなさそうなインターネット2というユートピアのアイデアがよく、その周辺をいろいろなアプローチで徘徊している。実は友だちに勧められて『素晴らしき日々』をやったことがあるが構造的に面白く、なるほどね~と言いながらクリアした。上から目線。オタク失格。

『2020年東京オリンピック新種目』破滅派
 戦利品今更読んだその②。思ってたより露骨に社会派でフィクションの薄い作品が多め。ノンフィクション作家もいるっぽい。しかしじぶんは佐川恭一で笑おうと思って買った。佐川、笑いのプロだった。最近のじぶんの発表作品がお笑い系統なので勉強のつもりで読んだ。笑いやホラーやエロといった生理的反応を通奏低音にするとき、それを素直にちゃんと与えられる作品を作りたいな、と思った。しかし別にそうしなくても(=そうした通奏低音に対し批評的なスタンスをとることで?)ちゃんとした作品は作れる。時代の空気の問題かもしれないし、多分こだわりすぎないほうがいいが、少なくとも消費者としての自分は素直なタイプに比較的よくなびいているな、と思う。むしろ少しずらして作るのがいいのかも。いま思った。

『改良』遠野遥(『文藝』収録)
 なんか単行本はちょっと違うらしいというウワサなのだがとりあえず読みたかったので手元にあった文藝で読んだ。すごいことがおきているのに語り口が遠く突き放しておりソリッド。密着した語りとこの物語の組み合わせだったらありふれた小説になってしまったとおもうのでやはり語りは大事。ある意味一個上の「批評的なスタンス」の極致がこういうものになるのかも。そこにおいて、この物語にフィクション的要素がほとんど挿入されないのは何かを意味しているのかも。夢と現実? しかし語りと物語の両方をコントロールするのは1+1とはぜんぜん違くてめっちゃ難しいのだ。こういうのを読むとじぶんに新人賞はまだまだはやいと思うが、いつかは。

『ニムロッド』上田岳弘
 暇つぶしにカラオケで歌うことが多くなり、手数を増やすためにSpotifyデビュー。People in the boxをおすすめされてききはじめ、そういえばと思って読んだ。「people in the boxラジオ」がBGMとして全然じゃまにならない、親和性がすごかった。小説が出てくる小説をじぶんが毎回書いてしまうので「こういうのはまあ書けちゃうよね~」などと言いながら読んだ。失礼すぎる。しかし小説には不可避的に小説が登場してしまうもので、それをどう捻じ曲げ、物語に合わせるか、詩に合わせるか、というところが大事なのかもしれない。ここまで「物語と詩」とか言ってるとなんだか心身二元論めいてちょっと不気味? ニムロッドはむしろ素直に読めるところ、駄目な飛行機が好きなところや彼女がかわいいところなんかがよくて、だから想像の果てにこのエンディングにたどり着いてしまうのが最高なのだ。少し泣く。

『ボーダー 二つの世界』ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト、山田文、他
中~短編集。11作。めちゃくちゃおもしろいのでもっとたくさんの作品が翻訳されてほしいのだがスウェーデン、スウェーデン語。英訳ならたぶんあるので英語で読もうかな……ラヴクラフト・チルドレンの一人だといっていいと思う。いや、何にでもラヴクラフトを感じるのはよくない癖なのだが……しかし読みすすめることもまたある種の冒険でありワクワクなのだと思い出させてくれる、明確にSFではないものの非常に「ハヤカワ感」のある本。あと古典的な翻訳ものの語り口、西洋的自意識の語りがやっぱり好きでスルッと入ってくる性分なのだが、この国ではそういう魂もまたマイノリティだということを実はちゃんと考え直さないといけないかもしれない。生きることの不可避なオタク性。なにそれ?

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