Ted Talk要約、共有します☆

私の勉強方法:
1:Ted TalkのYoutube Channelで、再生回数の高いものから順番に視聴する。
◎最初は字幕なし→英語字幕あり→理解に不安があれば日本語字幕
という感じで、内容を(できるだけ英語を通して)理解し、知らない単語はメモして調べる。

2:アウトプットすることが大事だと思っているので、要約を作成。内容だけでなく、プレゼン手法についても学べる部分を探してみる。また、自分が苦手な「批判的視点、批判的思考」を養うため「総論」として、自分だったらどういうプレゼンにするか、等等コメントとしてまとめる。

3:これは公開したりシェアしたりする予定なかったのだが、Twitterのスペースの話の流れで、シェアしてほしいというお声をいただき、Google documentをそのまあシェアしてしまうとメルアドに載っている本名がTwitterに公開されてしまうのでNoteにはりつけた☆

4:目標→2023年末までに100個!(いま20)


#1 Tim Urban: Inside the mind of a master procrastinator (2016, 50M) 29/12/2022 ☆☆☆☆☆

内容:Procrastinator(何でも先延ばしにしてしまう癖のある人)についての心理分析。スピーカー自身も含めて、procrastinatorは多くの短いデッドラインについてはパニックモンスターが現れて対処することができるが、デッドラインがないタスク(より重要な人生を左右するタスク)についてはパニックモンスターは出てこない。人生の短さを意識して、今日から始める必要がある。

プレゼン手法:
◎誰もが経験したことのあるエピソードから始める
◎ギャグ(意外なことを言って、うそでした、と落とす)
◎手書きのイラストを使って、親近感を演出
◎上から目線ではなく、同じ問題に取り組む同志という立ち位置で話す
◎ラフな空気感から始まり、徐々にシリアスに、ただ最後の肝の部分は非常に短く伝える(説教臭くなっていない)
◎ダミーとしての結論(サルとモンスターの理論)を軸にプレゼンを進めて、最後にもう一段階深い層のメッセージを発して締めくくる
◎オーディエンスに考えさせる、感じさせる、内省を促す

総論:
おもしろい、まさに引き込まれるプレゼントはこのこと。まるで居酒屋で数人の友人に向けて話しているような語り口で始まる。リラックスした雰囲気なのだが、本当に困っているとか、心から伝えたい、という熱量を感じる不思議なテンションでもある。構成も見事に練られている。笑いどころも多い。最も参考になるのは、スピーカー自身がオーディエンスと同じ目線の”procrastinator”で居続けるということ。最後の最後、彼なりの「悟り」を伝える部分では、その友人感覚が崩れないよう、細心の注意を払っているように見える、そこからの “not today”という最後のギャグにつながる。顔芸も秀逸。

#2 Bill Gates: The nest outbreak? We’re not ready (2015, 37M) 30/12/2022 ☆☆☆☆

内容:
以前、人類にとって最大の脅威は戦争だったが、いまや疫病である。しかし人類は疫病に対する対抗システムを有していないことは問題だ。エボラを例にとると、医療従事者の活躍と、そして都市部に蔓延しなかったという幸運によって、それは沈められた。しかし次はどうだろう。戦争というリスクに対して、各国は常備軍や、戦争に関する知識の蓄積を行っているが、疫病に対して、体系だった準備を行っていない。R&D, 軍事と医療の連携、ITシステムの活用が求められている。確かにコストはかかるが、パンデミックによって失う金銭的価値と人命を考えれば、その投資は妥当だと言えるだろう。疫病は待ってくれない。始めるなら今だ。

プレゼン手法:
◎ドラム缶(地下シェルター用の食糧庫)の実物で開始時のインパクトを出している
◎エボラ出血熱のケーススタディを根拠として、現在の問題点を提示
◎最悪のシナリオを、センセーショナルに提示する(ここがプレゼンの肝)
◎パンデミックに対しての巨額投資という、コロナ以前(2015)においては一般的ではない話に対して、戦争に対する備えと対比することで、人類がいかに新しい脅威に対して脆弱か伝えようとしている

総論:
コロナ前にパンデミックに対しての現代社会の脆弱性を予見していたという意味で興味深いし、そこは流石としかいいようがない。(そしてコロナ禍でしっかり儲けてるんですよね)。その先見の明から多くの人が視聴したと思われる。内容については、本番のコロナを経験した人類からすると非常に凡庸に聞こえるが、繰り返すがこれはコロナの5年前。パンデミックという未知の、イメージのわかない敵について、未だエボラすら遠い国のことのように考えている聴衆に対してどのように説明するのかという課題に対し、軍事を引き合いに出すというのは面白い。プレゼン開始でも、皆が知っている核の脅威や冷戦といった「共通地点」から議論をうまくスタートさせている。しかしながらやはりゲイツという地位や彼の年齢がそうさせるのか、プレゼン全体を通して大きな熱量や勢いは感じないのは残念。パンデミックの結果どういった不幸や不便が一人一人に生じうるのか、という点をもっと掘り下げるとよかったのかもしれない。

#3 : Julian Treasure: How to speak so that people want to listen (2014 36M) 31/12/2022 ☆☆☆☆

内容:
話す内容について、まず7つの罪を避けること(gossiping, judging, nagativity, complaining, excuses, lying, dogmatism)それから、話す際の正しい態度「HAIL 」(honesty, authenticity, integrity, love) を提案する。三つ目に、声(sound)を整えるtool boxを紹介。どこから声を出すか、register (throat or chest), 声の質、timbre (rich, smooth, warm)、声の調子、propspdy (don’t be monotonic), 速さ、pace (speedy, slow, silence), 高さ、pitch, 音量 volume
大事な場面の前のwarm-upの方法を紹介: practice deep breath、 “BA BA BA”, lalala…, rrrrrr, weeeeee。締めとして、意識的に自分の発する音をデザインすることで人に聞いてもらえる、というコアメッセージをシェアする。consciously, create idea, designed sound shoes  

プレゼン手法:
◎プレゼンの冒頭で、人の声を一つの美しい(美しくあるべき)音と捉える自身の見方を提示する。
◎理論や概念は後回しにし、とにかくすぐに実践でき、誰もが納得できる(逆に言えばやや陳腐な)ハウツーを提示してゆく
◎tool box, warm-upの紹介では、オーディエンスを立たせて実践する
◎最後に、’consciously design sounds and environment’という最も伝えたかったテーマをシェアして終了
◎核となる主張を正面からぶつけるのではなく、「ねえ、こんな簡単なことなんですよ、どうしてやってないんですか?それってあなたの怠慢ですよね?」ということを、オーディエンス自身の気づきを通して伝えようとしている。
◎オーディエンスに内省を促して変化を狙っている点は、手法は違えど#1とよく似ている(説教臭くならずにいかに相手の行動を変えるか)

総論:
テーマは、誰しも悩んだことがある内容であり、とっつきやすい。オーディエンスは問題意識がクリアなはずであり、だらだらと持論を並べるよりもまずハウツー(浅いレイヤー)から、ハイスピードで提示していく。ブラックジョークも多い。中盤のツールボックスの説明では、目新しさはないものの、なるほど、と思わせる内容が多い。ウォームアップはオーディエンス参加型。プレゼンの最後に、「自分のアイデアを伝えるためには、それと伝えるサウンドを意識的にデザインすることが重要」というキーメッセージを伝えている。オーディエンスの多くは、ここでさらに一段深いレイヤーの気づきを得る。これらは簡単なこと、全て自分が知っていたことなのに、なぜいままでやっていなかったんだろう?と。おそらく我々の多くは、「話すこと」はライブだと思っているが、実はそれは周到に準備、デザインできるものであり、そのデザインの善し悪しが伝わる、伝わらないを決めている、ということである。声という「音」のデザインに対する意識の低さを批判しているともいえる。

#4 Cameron Russel: Looks aren’t everything. Believe me, I’m a model. (2013 28M) 1/1/2023 ☆☆☆

内容:
10年間プロモデルを務めたスピーカー。着替えるパフォーマンス。視覚はパワフルだが表面的。視覚的情報は作ることができる。白人で容姿の良い女性であることの特権を認める。若くて健康である以外に、背が高い白人の女性。モデルになることは宝くじに当たるようなもので、キャリアパスとは言えない。写真は事実ではなく、構造物である。今子供たちは、自分の体や肌の色に自信が持てない。モデルの仕事は、常に自分の容姿を気にしていなければいけないので、つらい。ジェンダーと人種による特権を享受しつつ、それらに抑圧されていると主張するのは、非常に気まずいことである。

プレゼン手法:
◎出オチに近い。登場してモデルであると伝え、着替えて見せる。
◎特に尖った主張があるわけではないが、モデル業(ファッション業)の功罪について感じたところを率直に述べている
◎憎むべき事柄(人種や肌の色、容姿によって得られる特権、彼女自身それによってinsecuredな感情を持っている)と、それによって自分が最も特権を得ているという事実をありのままに話す。
◎特に笑いどころやトリックがあるわけではないが、正直に話している、人柄が伝わる話し方である。

総論:
微妙な気持ちで臨んだプレゼンというのは、聞いた方も微妙な気持ちになる。結局伝えたかったことは何だったんだろう?容姿主義の否定に関する何かなんだろうが、何故容姿主義がいけないのかという理由について、青少年に関するデータ(70%以外が自分の容姿に自信が持てない、等。でもこれって容姿主義というよりも大衆消費社会だったり思春期のせいでは?とも思う)と、自身が苦しんできた、という事実を述べるのみ。これを聞いた人は、「ああ、やっぱり白人の美人は得してるんだな」(無料で服をもらえた話など)と思うが、それって別に誰のせいでもないというか、致し方ないことだよね。彼女は行き過ぎた容姿主義を裏から見てきたという立場を利用して、もっと容姿主義にたいしてしっかり攻撃するべき。ちょっと正直すぎたか。言わなくてもよいことまで言い過ぎている感じがした。「作り物の美を叩き、本物の美を賞賛しよう」というテーマであればもっとパワフルなプレゼンになったかもしれない。

#5 : Robert Waldinger: What makes a good life? Lessons from the longest study on happiness (2016 23M) 3/1/2023 ☆☆☆☆

内容:
人生において、何が我々を幸せで、健康にするのか?多くの2000年代生まれの若者は、経済的成功や、有名になることを求めているし、多くの大人も実際に経済成功やachievementsを求めて日々仕事に取り組んでいる。スピーカーは調査プロジェクトの4代目のダイレクターであり、その調査とは700人余りの参加者に対して75年以上にわたって多くの項目について追跡調査を行っているものである。ハーバード大学の学生と、貧民街の若者が二つの大きなサンプルグループとして分けられた。結果分かったことは、良好な関係性は、人を幸せで健康にするということだ。その他の事柄は、幸せや健康とあまり関係が認められなかった。良好な関係性は、病気や、その痛みから我々を守ることが分かった。関係性とは、結婚しているとか友達が多いとか、そういったことは関係なく、関係性の質に他ならない。では我々は何故身近な人々との関係性を犠牲にし、経済的成功を追い求めるのだろうか?それは、Quick Fixを求めるからである。関係性の構築は、長い時間と忍耐が必要であり、それは生きている限り続く努力である。

プレゼン手法:
◎何が人生にとって重要か?という、誰しもが興味のある問いから始める。
◎現在の多くの若者はこう考えている、という事実を提示(この事実が、このアイデアに意味を持たせる)
◎研究デザインについて語り、結果について期待感を持たせる
◎結果について説明する
◎結果(関係性)と感覚(金銭)の間の乖離について、何故それが生じているのか考察を試みる

総論:
非常に重く、深いテーマである。プレゼン手法については、非常にストレートではあるが、しかし問いから初めて研究手法について説明してから結果を開陳するというのは、なかなかドラマ性がある。ほかのプレゼンにも言えることだが、「英語で話すときは結果から話す!」というのはステレオタイプであり、ある程度の期待感を増幅させる仕掛けは、やっている人はやっている。なぜなら、最後の部分、結論(関係性がいかに重要か)をもしも最初に話してしまったら、単なる説教になってしまうから。彼は、「説教臭くなる」ことを避けるために、自分の説教が、いかに事実に基づいて構成されたものか、ということを最初に伝えきっている。あるいは、その手法を伝える段階は、つまらなくなりがちだが、そこをいかにおもしろく伝えられるかが、このプレゼン準備の肝だったのかもしれない。もう一歩話を進めると、その関係性を、日常生活でどのように醸成していったらよいのかというアイデアがあればもっとよかったかもしれない.

#6 : Jon Ronson: Strange answers to the psychopath test (2012 24M) 4/1/2023 ☆☆☆☆☆

内容:
精神医学に対して疑問を持った彼は、自分自身が多くの精神疾患の定義に該当することを知って、精神医学に対して疑問を持つ。それから、嘘をついて精神病棟に入っているTonyに会いに行く。そして彼との対話を通して、精神疾患と認められることよりも、正常であると認められることの方が難しい、という現実を知る。正常な行動や発言でさえ、彼らは疾患のサインとして解釈してしまうのである。それから彼はサイコパス診断士の資格を取得し、サイコパスに関するジャーナリストになるが、その過程で、「現代社会における最も深刻なサイコパスは、企業やビジネスに関するものである」ということを知り、大規模なリストラ等による企業救済で名高い経営者にインタビューを行う。インタビューの過程で、彼は自分自身こそがサイコパス的行動をしていることに気づく、すなわち、対象の非常に極端な部分とサイコパスの定義を無理やり結びつけようと、宝探しのようなことを行っていると。それからTonyは釈放された、彼自身、トニーはサイコパスと健常者の間のグレーゾーンにいると思っている。彼は釈放後、普通の生活を歩んでいたが、ちょっとしたトラブルで1か月服役した。それから彼はTonyに飲みに行かないかと誘われたが、彼は行かなかった。皆さんならどうしますか?

プレゼン手法:
◎テーマである「サイコパス」は非常に刺激的で、多くの人が興味をそそられる。
◎彼自身のサイコパスに関する気づきの旅を追体験する形でプレゼンが進んでいく。
◎ギャグは多く、スピーカーがオーディエンスと同じ感覚を共有しているということを強調する効果がある。
◎前半は潜入レポートのような緊張感があり、後半は非常に考えさせられる内容。彼自身の活動への反省を通して、問いを投げかけている。
◎他のベストトークと同様、まったく説教臭くなっていないのがポイント
◎さらに最後には、「あなたならどうしますか?」という問いかけで終わっており、サイコパスに対して個々人や社会がどう向き合うかについて、明確な答えはないということを示している。
◎プレゼン全体を通して、「精神疾患の多くは精神医学が作り上げたものである」という論調で批判を行いながらも、最後にはやはり精神疾患(グレーゾーンサイコパス)の危険性についての自身の態度を示唆しており、最終判断をオーディエンスに委ねる形を取っている

総論:
自身の精神的な旅を追体験させている。まるでドラマを見ているように引き込まれる。追体験することによって、彼自身の気づきや問いかけが、非常にスムーズに伝わる。論理ではなく、出来事の積み上げでプレゼンを構成している。肝はやはり、「押しつけがましくならない」ということ。

#7 : Pamela Meyer: How to spot a liar (2011 22M) 6/1/2023 ☆☆☆

内容:
嘘は日常である。皆、物心ついた時から嘘を覚え、それはおそらく人類の歴史より古い。嘘は、やさしさから生まれるものもあり、夫婦や親子の間でも、嘘は普通に存在する。渇望があると、その渇望と現実のギャップを埋めようとするが、そこに詐欺師はつけこむ。もっと豊かに、もっと美しく、等、欲望や渇望は、詐欺をまねく。嘘は、社会悪でもある。詐欺行為により社会は多くのコストを支払っている。嘘は、だます人とだまされる人の共同作業によって機能する。嘘であふれた世の中で、我々はそれらにどう立ち向かっていくべきか。言葉、表情、しぐさに、多くの手がかりが隠されている。それらの一つ一つは疑いの芽に過ぎないが、それらがクラスターとなって観察された際には、それは相手を疑うべき理由となり、我々はより多くの質問を投げかけたりといった対応を取るべきである。情報であふれた現代社会では、だまされる機会もまた多い。今こそ、自分の道徳基準をしっかり持つべきである。嘘を見抜くテクノロジーの発展も待たれるが、それが日常生活で活用されるのはまだまだ先のことだろう。それまで我々は自分自身で詐欺から自身を守らねばならない。嘘を見抜くスキルを持ち、「自分は簡単にはだまされない、嘘に対して不寛容である」という立場を見せることが、有効である。

プレゼン手法:
◎「嘘を見抜く技術」、プレゼンの核の前に、このテーマがいかに普遍的で重要かということをしっかりと伝えている
◎「嘘を見抜く技術」の後には、さらに別の角度から、この技術がいかに価値のあるものであるか、ということを伝えている
◎「情報社会」「ツイッター」といったワードを出すことで、この技術が時代遅れではないどころか、まさに現代に必要な技術であると主張している

総論:
非常によくできたストーリー展開。単なる技術の紹介だと、「おもしろい」で終わってしまうが、その前後にしっかりとした前置きと、意義付けを行うことで、深みのあるトークとなっている。自分の持っているバリューをいかに「パッケージ」するか、という点で非常に参考になるトークである。定型:これから私の話すことは、普遍的で、歴史があり、日常的で、誰にでも関係があり、また社会的な影響のあることであるので、よく聞いてほしい。(本論)私が話したことは、現代社会に典型的なこのような(例えば情報があふれている)状況で、とくに有用であり、代替ソリューションは無いか、現実的ではない。

#8 : Amy Cuddy: Your body language may shape who you are (2012 22M) 9/1/2023 ☆☆☆☆☆

内容:
我々の態度や身振り手振り(非言語コミュニケーション)が周囲のあなたに対する考え方や感じ方に影響するということは、もはや自明である。我々は日々、非言語メッセージについてよく考えなければならない、(デジタル時代の絵文字も含めて)。スピーカーは、非言語コミュニケーション(ポーズ)とパワーの関係について研究しているが、その中で分かっていることは、専有面積を大きくすることは動物にとっても人間にとっても「力」を示し、それは例えばMBAの学生の教室での振る舞いにも見て取れる。その’Opening Up’のポーズは、我々のホルモン分泌にも影響を与えている。テストロテンを増大させ、コルチゾールを減少させている。つまり、自然界でいうところのアルファ雄のような、あるいは既存のアルファ雄の権力にチャレンジするような、そういった脳の状態にちかづくということである。一方、スモールパワーポーズ(体を小さくしたり急所を守る)では、その逆の事が起きる。実験を通して、たった二分間のポーズにより、ホルモン分泌状況はもちろん、リスクに対する態度や、他者への印象が劇的に変わることが証明された。ところで、テストロテンが多く分泌されている状況で、人は抽象的な考察を好み、その逆の状況では詳細なレベルの考察を好むという事実は、非常に興味深い。ではこれをどのように、意義ある形で活用するべきなのかというと、その答えは、ストレスフルな状況の直前、数分間、我々はパワーポーズを取ることによって、結果を変えられるのである。例えば面接や、スピーチ、そういった人生に大きな影響を与えうる状況下で我々は、”Fake”することができる。しかしそれはimposterということか、いやそうではない。Fake till becomeということが、交通事故を経験した彼女自身の答えである。

プレゼン手法:
◎前半は、非常にアカデミックな手法。現在までの学会の常識を伝え、それから自身の研究(新発見)結果について、その仮説と、実験手法を分かりやすく説明する。
◎中盤から後半にかけて、その新発見を、我々の人生にとって意義のある形でいかに活用できるのか、ということを説明する。
◎最後に、彼女自身の経験(交通事故のつらい経験)

総論:
前半から中盤は、非常にストレートなプレゼン手法である。すなわち、先行研究の提示、検証する仮説、実験手法、そして結果を分かりやすく伝えている。その後に検証結果から証明された命題「態度は、自身の自身に対する見方を変える力がある」をどのようによりよい人生を実現するために活用できるか、ということを伝えている。ここまででも十分に納得感のあるプレゼンとなっているのだが、最後のダメ押しがこのプレゼンを最高のものにしている。それは彼女自身の経験と、その経験からくる本研究への情熱である。この「自身の経験」はオーディエンスの大きな共感を生み出し、プレゼンは最高の雰囲気で最後を迎える。この最高の武器である自身の経験というパートを、プレゼン冒頭に持ってこないところが、このトーク最大のミソであり、彼女の研究者としての高いプライドを示している。前半の科学的な考察と、後半の主観的な部分をしっかり時間的に分けることがプレゼンの効果を最大化している。

#9 : Sir Ken Robinson: Do schools kill creativity? (2007 22M) 10/1/2023 ☆☆☆

内容:
教育についての、彼の基本的な考え方と問題意識を伝えるためのトーク。大きく分けて三つの部分からなる。ひとつめに、子供は無限の可能性を持つということ。子供は失敗を恐れずになんでもやってみる。常に失敗を恐れ、その準備をする大人とは違う。彼らのひらめきやクリエイティビティには無限の可能性がある。ふたつめに、現代の教育界の不当なヒエラルキーについて。現代の教育に関する組織はおおむね19世紀に作られ、産業主義の発展を支えてきた。あるいは、優秀な大学教授を輩出するために設計されてきた。よって数学、人文、音楽等、本来であれば優劣のつけ難い領域間に、確固たるヒエラルキーを形成してきた。本来であれば人間は全身を使う動物なはずなのに、学問で成功するということは、脳の、それも片側しか使わないことを当然とする、そのような狂った世界が現代の教育界である。しかし教育とは本来、予測不能な未来を作り出すためのものであるべきであり、例えば今年就学する子供がリタイアするのは60年後であり、その時に世界がどうなっているかなんて、誰も予想できないだろう。我々の未来を作り出すことが公共教育(public education)の使命なはずであるが、現在の教育制度はそうはなっていない。人間のクリエイティビティとは、本来多様なものである。例えば学習障害を疑われて精神科を受診した子供が、後に世界的な振付師として歴史を作ったこともあった。彼女は動くことで考える、そういったタイプの創造性の持ち主だった。画一的な教育は、そうした創造性を破壊してしまう。子供たちの創造性は、未来を切り開く鍵であり、それを包容する教育制度が、望まれている。

プレゼン手法:
◎教育者として、興味深い、心に残りやすいエピソードをちりばめながら自身の主張を展開していく。
◎主張自体はいたってシンプルで、「子供の創造性によって人類の未来を切り開こう、今の教育制度は改革が必要」といったものである
◎教育、という固いテーマだがブラックジョークも多く、オーディエンスを引き込む話術でひたすら最後まで突き進む

総論:
非常にシンプルなメッセージを、エピソードとギャグで肉付けしている。エピソードを通してオーディエンスの心を動かし、主張に説得性を持たせている。一方で、笑いどころも比較的多く、こちらはオーディエンスを飽きさせないための工夫と思われる。彼の話術と経験、ひょっとすると立場がなせる技であって、参考になる部分は余り多くない。もっと力強い数字やデータが披露されるべきで、教育界への提言は、もっと具体的であるべきだった。そうはいっても、抽象的な主張を強力なエピソードとジョークで肉付けする技術については、学ぶところが多い。力の抜けた話しぶりも、好感が持てる。

#10 : Brene Brown: The power of vulnerability (2007 22M) 11/1/2023 ☆☆☆☆

内容:
複雑な世界で情報を集め、整理することが研究員としての彼女のキャリアだった。しかしながら、満たされている人と満たされていない人の二種類に分けた時に、思わぬ発見をしてしまう。満たされない人とは、人とつながることができない、自分に自身がないので、人に見られたくない、愛し、愛され、つながる(帰属する)に値しない人間だと感じている人のグループ(Shame & Fear)であり、反対に満たされている人は、人とつながり、自分に向き合う勇気(courage)や、共感する力(Compassion, Connection),を持ち合わせていて、自分自身と他者を心から愛している。しかしながら問題は、その「満たされている人(Whole-heart)」のグループのもうひとつの共通項として、「弱さ(Vurnelability)」が認められたということである。これはなかなか説明のつけづらいことであった。なぜなら「弱さ」とはFear and Shame、つまりDisconnectionの源泉であるというのが彼女のそれまでの理屈であったからだ。それから時を経て、彼女はこのVulnerabilityについて、”Whole heart"な生き方を手にするにあたって重要なものであると位置づけるに至る。”Whole heart”は、弱さや傷ついていることを、しっかり認識している。そして、傷ついた時に、周囲の人々に助けを求め、そのために周囲との関係性に投資をする(関係性を維持する努力をする)。一方、多くの人々は現代社会において、このVulerabilityに対して麻痺している。借金、肥満、依存といった多くの問題に対して自身を麻痺させ、バナナマフィンを貪ることでそれらをなかったことにしようとしている。しかしながらこの「麻痺」という態度は、喜びや幸せにも同時に適用されている。悲しみや傷つくことや苦しみから逃げるために自身を麻痺させると、人生の豊かさや意味、喜びからも同時に自身を遠ざけてしまっているのである。自身が他者から影響を受けていること、自身が他者に影響を与えることから逃げ、対話を拒み、ひたすらに罵りあい、宗教のような完全な正義や正しさにすがるのである。では我々に何ができるだろうか。自分自身を愛すること、人とつながるに値する人間だと信じること、そして人生は完全ではなく、痛みをともなうものだが、我々はそれでも自分と他者を愛し、つながることで人生を豊かにできると思うことである。

プレゼン手法:
◎研究結果と自身の個人的な体験をリンクさせて、ストーリーに説得力を持たせている
◎ストーリーを、「Data with soul」と位置づける
◎すぐに結論を述べるのではなく、Vulnerabilityに関して自身が向き合った経過をオーディエンスに追体験させる形でトークを構成している
◎やや複雑なテーマであるが、シンプルなビジュアルを用いて飽きさせないようにしている。

総論:
シンプルだが意表を突くメッセージ。研究課程を追体験させ、かつスピーカー自身の体験もオーバーラップさせることで大きな共感を呼ぶ。自身の研究成果がいかに現代社会において普遍的な意義を持つかということを、最後に分かりやすく伝えているし、具体的な提案もある。前半部分がややつまらない理由は、やや説教臭く、最も重要な主張に関する部分(Vurnerability)にたどり着くまでやや時間がかかったからだろう。前半部分で彼女が信じていた二項対立(Shame & Fear vs Courage/Compassion/Connection)の図式が、やや分かりにくいし、また人々を二種類に分けるという最初の動作がやや唐突であり、冒頭にもっと強力な命題の提示があってもよかったかもしれない。内容自体は非常に素晴らしい。

#11 : Simon Sinek: How great leaders inspire action (2010 17M) 16/1/2023 ☆☆☆☆

内容
アップル、キング牧師、ライト兄弟はなぜ成功したのか?彼らは皆、競合と同じ条件下で戦ったにもかかわらず、なぜ勝利したのか。スピーカーは、成功者に共通するあるパターンを発見した。それはゴールデンサークルであり、中心のWHY、 次にHOW、そして外周はWHATで表される。我々の多くが、自分が何をしている(what)か知っていて、かつどのようにしているかも知っている(how)、しかしほんの少しの人々しか、自分がなぜそれをしているのか(why)、組織の存在している理由、事業の存在価値について知らない、あるいは語ることができない。例えばアップルは、Challenge the status quoというWhyあるいはbeliefから対話を開始し、多くの製品で成功を収めた。People who believe what you believeである。このゴールデンサークルの発想は、脳科学からも説明できる。すなわち、比較的新しい脳の部分、Neocoetexは論理、分析を司る、すなわちWhat やHowの部分である。それに対して比較的古い脳の部分、大脳辺縁系は、情動や感覚を司る。「言っていることは分かるが、なんとなくピンとこない」というのは、新皮質はYesと言っているが、辺縁系はNoと言っている状態である。人間は、大脳辺縁系で意思決定を行っているので、意思決定(購買)を促す際には感覚や情動に訴えかける必要がある。それはマーケティングだけでなく、採用についてもそうで、Hire people who believe what you believeなのである。有名なライト兄弟には実はサミュエルという競合がいて、ライト兄弟よりも条件的にはむしろ恵まれていた。しかし彼が成功しなかったのは、金や名声を目的としていたから、能力は高くとも、お金のために働く人しか集まってこなかったからであろう、一方ライト兄弟は、人類の歴史を変えるという、壮大なWhyを持っていた。人々の行動の変革(購買行動を含む)に当たって、2.5 -> 13.5 -> 34 -> 34 -> 16%という割合でイノベーションの受容度の違い、あるいはイノベーションを受容するタイミングの違いが見られる。一つ目の34%を獲得すれば、50%を超え、社会に変革をもたらすことができるが、この34%は、その前面の13.5%を見て安心してからでないと行動を変えることはない。そしてこの13.5%に影響を与える2.5%の人々が最も重視するのが、Whyである。例えば発売の最初の6時間にアップル製品を購入する人たちは、信条のために購入している。Tivoというサービスがあったが、彼らは機能ばかり売り込んだばかりに失敗してしまった。何故かを語ることに失敗した。キング牧師の演説に多くの人が集まったが、それはキング牧師のために集まったのだろうか?そうではなくて、聴衆は自分自身のために集まった、自分自身の信条のために集まったのである。そしてキング牧師は、I have a planといわずに、I have a dreamと語った。

プレゼン手法:
◎「ゴールデンサークル」という気づきのシェアが核であり、それを裏付ける例をあげていくスタイル
◎脳科学アプローチ、マーケティング理論(Innovation diffusion)のアプローチという理論的なサポート
◎及び、アップル、キング牧師、Tivo、ライト兄弟を例として挙げる
◎アップル vs Dell、ライト兄弟 vs サミュエルといった対比を挙げている
◎ビジュアルはスライドではなく、フリップチャートへの手書きのみ。

総論:
自身の理論「ゴールデンサークル」をいかに伝えきるか、ということに特化したトークである。しかしながら他のトップレーティングのトークと比べてやや劣るのは、そこに自身が介在しないこと。Simon自身は常に語り手であり、なので情動に訴えかけることができていない。プレゼンとしては完璧だが、やはり「自分自身の体験」を語ることのパワーを感じさせられるプレゼンであった。言ってしまえば、彼のプレゼン自体に「WHY」が欠如していたのかもしれない。

12: Susan Cain: The power of introverts (2012 15M) 19/1/2023 ☆☆☆

内容
スピーカー自身のサマーキャンプの経験。読書好きの家族の中で育った彼女にとって、初めてのサマーキャンプで接した外交的であることを正義とする文化は、非常に衝撃的で、それから読書好きということに代表される内向的という彼女自身の性質に対して、長年「Self-negating」(自己否定)的な態度を取ってきた。が、最近それが間違っていたと気づいたのでそれを世の中に著作を通してシェアすることにした。内向的(Introverts)はShy(恥ずかしがりや)とは異なる。Shyとは、社会的なジャッジメントに対する恐れの態度で、それは克服すべきものであると彼女は暗示している。内向的と外向的の二つの性質はひとえに、心地よいと感じる刺激レベルの強弱である。内向的な人は比較的静かな環境、小さな刺激の存在する環境において心地よいと感じ、能力やクリエイティビティを発揮することができる一方、外向的な性質はより多くの刺激(社会的な刺激を含む)に囲まれていた方が能力を発揮しやすい。
さて、世の中の三分の一から二分の一の人がいわゆる内向的であるとされていて、内向的な人々が抱える自己否定は実は、社会的に多くの損失を生んでいる。例えば学校や会社では常にコミュニティメンバーとして動くことが求められている。Good TalkerとGood Ideaが混同されてしまっている現実がある。しかし実際には、例えばリーダーシップについて考えてみると、内向的なリーダーの方が部下のクリエイティビティを発揮させるチャンスをより多く提供することが分かっている。外向的なリーダーはエキサイトを求めるが、部下の意見やアイデアは表面に浮上しづらい。実は、ガンジーや多くの優秀なリーダーは内向的であったということが知られている。また、外向的、内向的という二項対立的な理解も、間違っていて、誰しも両極の間のどこかに位置するのである。
コラボレーションやチームワークは必要であり、大きな課題を解決するために多くの人々が協力しなければならないことは否定しない。しかしながら一方で、孤独(Solitude)は、多くの価値を生み出す源である。キリスト、仏陀は孤独の中で真理を発見し(Revelation)、それを多くの人々に広めた。Solitudeは、クリエイティビティやユニークなアイデアを生みだすことを手助けするのである。
元来人間は、孤独な思考とチームワーク、それぞれの価値を知っていたはずであったが、Solitudeを軽視し出したのは、ごく最近のことである。19世紀までは、人格(Character)の醸成は非常に重視されていたが、20世紀に入って、都市労働やグローバル化が進むと、Personalityの時代になってしまった。村から都市へ移住する過程で、より強力に影響力を発揮できる個人のイメージ(やり手セールスマンのようなイメージ)が、皆が成功のために目指すべきものとしてライトアップされるようになった。
いまこそ孤独の中での思考の過程の重要さを見直すべきであり、内向的な人々は自己否定をやめるべきである。内向的な人でも、もし何か広めたいアイデアがあれば、それに突き動かされるように人前に出てくるものである。

プレゼン手法:
◎”Power of Introvert”という大きな主題について、いくつかの角度から議論を展開
◎サマーキャンプのエピソードから始めることで、オーディエンスをうまくひきつけている
◎冒頭のサマーキャンプの話と、最後の自身の祖父のエピソードをつなげる小道具として「スーツケースの中の本」を使い、ドラマ性を持たせている
◎ビジュアルは一切用いない

総論:
主張はシンプルだが、議論のストーリーがやや分かりづらいのは、ビジュアルによる概念の整理がされていないからだろう。一句一句は納得できるが、彼女の議論全体を俯瞰することは、一回聞いただけでは難しい。彼女自身が目指したストーリーは、卑近な事柄からはじまって、人類の発展というより大きく深いテーマまで掘り下げ、昇華させていくというものだったのだろうが、ついていけない人にとっては議論が輻輳しているように感じる。つまり、「何故内向的な人を救わなければいけないか」「今の内向的な人々を取り巻く環境」「何故このような世の中になってしまったのか」「解決するとどのような良いことがあるのか」「孤独な思考を見直そう」という、層を跨いだトピックが次々と話され、結局彼女の論理構造が分かりづらい。

13: Daniel Levitin: How to stay calm when you know you’ll be stressed (2015 15M) 30/1/2023 ☆☆

内容
雪の降る寒い日に夜遅く車で帰宅すると、家に鍵を忘れたことに気づいた。翌日はヨーロッパへの出張で、パスポートを取らなければならない。鍵交換業者を呼ぶよりも安いと思い石で窓を割って中に入ったが、寒さやらでなかなか眠れず、翌日空港に着くとパスポートを家に忘れたことに気づいた。このエピソードから始まる。ストレス下では、人はうまく思考できない。しかしPre-mortem (起こりうる失敗を予測するリスクマネジメント)のアプローチで、ストレス下でも、ダメージを軽減し、”Total Catastrophe”を回避することができる。まず、よく失くすものは、決まった場所に置く。または場所を定める。それから、ストレス下では、自分の最高の状態のパフォーマンスが発揮できないことを認識し、性急な判断をせずに、しっかり事実を把握することに務める。事実を理性的に評価するために、質問を続ける。例えば医者に薬を処方される場合には、それが自分にとって有効である確率と、副作用が発生する確率を尋ねてみて、その二つを冷静に比べてみよう。こういったPre mortemな態度は、すぐにできるものではないが、例えば彼はドアに鍵をひっかけるためのフックを用意した。このように、少しずつやっていくのが良い。

プレゼン手法:
◎前回のサマーキャンプのトーク同様、自分の逸話からはじめ、さらにそのエピソードは誰しも経験したことがありそうな者であるが故、オーディエンスをうまく引き込むことに成功している。
◎聴衆を引き込んだ後は、つまりストレス下でのパフォーマンス低下を認識して、冷静に行動しようというメッセージを、いくつかの例を通して説明する

総論:
冒頭のエピソードとタイトルは非常に秀逸で、前半はかなり引き込まれる。しかし後半の本論の部分は、もう少し整理するか、インパクトが必要であるように思う。主張や提案があまりにも普通過ぎて、彼の研究の独自性がよく伝わらなかったのは残念。

13: Kelly McGonial: How to make stress your friend (2013 14M) 31/1/2023 ☆☆☆☆

内容
ストレスは体に悪いと信じている人は、死亡率が上がる。ストレスに対する身体的反応は、有害なものではなく、来るべき挑戦に対する準備である。そしてストレスが有用であると学んだ人のストレスに対する身体的反応は、それが有害と信じている人とくらべて健康的である、例えば前者はストレスを感じた時に血管が開く(健康的な状態)なのに対して、後者は血管が閉じる(不健康な状態)。マインドを変えることによって、ストレスへの身体的反応も変えることができるのである。さらに、ストレスは人を社会的にする。オキシトシンは、人を助けたりといった社交的な活動を促進するホルモンであることが知られているが、オキシトシンは実はストレスホルモンでもある。ストレスを感じた際に分泌されるのである。危機的状況の際に、仲間にサポートを要請することを容易にしてくれる。またオキシトシンの受容体は心臓にもあり、心臓の細胞の再生を促し、ストレスによるダメージから心臓を守る働きをしてくれる。調査によれば、日ごろから他者を助けることをよく行っている人はそうでない人に比べて心疾患のリスクが低いことが分かっている。これもオキシトシンの作用である。ストレスに対しての考え方を変えれば、まずストレスに対しての身体的な反応が変わり、それを通して心臓を健康的に保つことができ、他者とつながることもできる。私たちは挑戦に対して立ち向かうシステムを持っているし、それを乗り越えるために仲間とつながることもでき、そしてそれは我々に健康をももたらすのである。

プレゼン手法:
◎冒頭の「告白」によって、自身に起こった考え方の革命的な転換、そしてそれを伝えたいこと、というトーク全体のテーマを明らかにすると同時に、オーディエンスを引き込んでいる。
◎ストレステストの実演も、オーディエンスにストレスを実感させることに一役買っている。
◎議論を進める中で調査結果、数字を上手く活用し、科学的裏付けによって説得力を持ってトークを展開している。
◎トークの構造はシンプルで、ストレスが悪いものではなく良いものである、という命題をサポートするためのデータをひとつづつ説明していっている。
◎最後の部分では、彼女の目的である「人々を鼓舞する」内容が語られるが、データに裏付けられた説明を聞いた後なので、入ってきやすい。
◎「ストレスによって心臓へアクセスする」など、医学に疎い人でも分かるように、言葉を工夫している。ビジュアルも有効に使用している。

総論:
個人的にはベストオブベストのTed Talkである。トーク自体の持つエネルギー、テーマの普遍性、科学的な裏付け、そして論理構造のシンプルさから、最高峰の出来となっている。反駁として、「もともとストレスを良いものと考えられるような前向きな人間は健康である確率が高く、またコミュニケーション能力も高いのではないか?」というのはあり得るが、彼女の自信に満ちたトークは、なんとなくそれを言わせない雰囲気があるし、何よりそれを一緒に信じてみよう、という気にさせてくれる。自信に満ちて、率直であるという彼女の人柄やスタイルが大いに発揮されている。

14: Esther Perel: Rethinking infidelity… A talk for anyone who has ever loved (2015 14M) 9/2/2023 ☆☆☆☆

内容
不貞行為は世界中で行われていて、しかも世界中で昔から禁止されている。こんなにありふれた行為であるにも関わらず、その本質についてはあまり研究されていない。男性はセックスについて誇張する傾向にあり、女性はそれを隠し矮小化する傾向があり、それは社会的にもそうで、現に現在でも9か国では女性は不倫を理由に処刑されている。彼女は世界中を回り、Infidelityについて研究してきた。
現代に置ける不倫(過去との対比)
現代では、Monogamyの本質が変わってきている。古くはMonogamyは一生に一人のパートナーという意味であったが、現在では、同時に一人、という意味になっている。不倫は、三つの要素から構成される、秘密と、感情的なつながり、そして性的な魔力である。性的な魔力とは、実は相手ではなく、自分自身の感じるスリルと、イマジネーションである。例えばキスや手をつなぐといった行為は、セックスそのものよりもイマジネーションを搔き立てる。
歴史的に、結婚とは経済共同体であった。古くから不倫はあったが、それは主に被害者の経済基盤を脅かすものであった。しかし現在は、結婚や一夫一妻制の感情面に焦点が当てられ、アイデンティティの危機や、人間不信につながるトラウマとして傷を残す結果をもたらすようになった。以前は、「もうあなたのことは信じられない」で住んでいたが、「もう誰も信じられない」となったのである。現代の人類は、自身の欲求を追及することが許されていて、時に奨励されている。欲求を満たすために努力し、選択し、人生を形成していく。結婚もそうであり、互いの果てることのない欲求リストを満たしていく仕組みであり、欲求そのものと、それが満たされることが現代人にとってはアイデンティティと同一視されることも多々ある。(補足として、またデジタル社会における不倫の発見が非常に生々しい形をとることも言及しておく)
不倫をする方もまた、自身の寿命や生命、人生といったアイデンティティの面から一線を越えることがよくある。必ずしも相手に執着しているのではなく、「自分は重要で、特別だと感じたい」という欲求が、不倫の直接の理由である場合が多いし、「このままの生活でよいのだろうか」という人生や寿命に対して意識的になった時の焦りが背中を押すことがよくある。よって、完璧な生活を送っていても、人は不倫を行うのである。そして既に結婚しているのであるから、その愛は手に入らないし、やってはいけないことであるから、そういった状況は欲求により燃料を注ぐのである。
では不倫の発覚からの危機から、どうやって抜け出すことができるのだろうか。それは、関係性の新しい形の発見のチャンスでもある。加害者は非を認め、被害者はアイデンティティを取り戻し、好奇心を捨てることが重要である。
あれこれと質問する代わりに、不倫の意味、理由、価値について掘り下げる方が、よっぽど将来につながる。不倫は加害者にとってどういう価値があったのかを明らかにすべきである。また夫婦の関係性において、不倫だけが加害の形ではない。不倫による被害者が、他の罪による加害者であることもある。不倫は、苦痛と裏切りという負の面と、成長と自己発見という正の面から構成されていて、善悪で論じられるべきではない。しかし不倫を推奨しているかというとそうではない。それは重い病気のようなものである。重い病気にかかることで自己を見つめなおし、再発見する患者は多い。そうはいっても誰も重い病気にかかるのを勧めないのと同じ理屈である。

プレゼン手法:
◎トピック自体にパワーがある場合、オーディエンスを引き付けるためのトリックは特に必要ない
◎同様の理由で、ストーリーが完璧に整理されておらずとも、オーディエンスのエネルギーレベルを維持することができる
◎事実を述べる→分析→評価という流れ。(不倫の状況はXXXXであり、それを分析するとXXXXという現象が見られ、私はXXXXXと思う)
◎個人名を出してのエピソードには、説得力がある

総論:
個人的領域にかかわるタブーを扱ったトークは、やはり人を引き付けるパワーがある。ブラックアンドホワイトではない、としながらも、最終的にはしっかり結論を導いている。(それは再定義の機会である)プレゼンとしては粗削りだが、内容は秀逸。

15: Celeste Headlee: 10 ways to have a better conversation (2016 13M) 21/2/2023 ☆☆☆☆☆

内容
インタビュアーの彼女による、会話に関するトーク。現代は、天気でも健康の話でも、旧来「安全」とされていた話題でさえ、論争を引き起こしてしまう。例えば気候変動の話題とか、ワクチンに関する話題とか。皆、両極化していて、自分が既に信じ込んでいる信条に任せて決断し、妥協や歩み寄りをしなくなっている。また、若者は一日に100件以上のテキストを送信し、おそらく情報量は会話から得られるよりも多い。21世紀において最も軽視されたスキルは、この会話のスキルであろう。誰もが聞いたことのある、目を合わせる、うなずく、繰り返す、このような会話のTipsは、全て無駄である。なぜならそれは、注意のある様子を装うに過ぎない、単に、注意して聞けば良いのである。彼女はインタビュアーとして、様々な人、嫌いな人や、同意できない意見を持つ人も含めて、相手にしてきた。以下は、10の、より良い会話のための方法である。

  1. 何かをしながら会話しない

  2. 尊大な話し方をしない。相手の意見を受け入れる

  3. Open Question

  4. 流れに任せる(次の質問や発言ばかり考えず、しっかりと聞く)

  5. 知らんなかったら知らないという

  6. 自分の経験を相手の経験と同一視しない

  7. 同じ話をしない

  8. 細かい話をしない

  9. しっかり聞く

  10. 短くまとめる

結論として、「びっくりさせられるのを期待する」という態度が寛容である。

プレゼン手法:
このトーク自体が、彼女のTipsを実践している。心地よいテンポ、10個にまとめる、など。そして自分のストーリー(子供のころの経験)は、最後に、ほんの少しだけ触れる。他のトークと同様、これからシェアする内容が現代の文脈の中でいかに重要なのかを、明らかにしている。また10個の方法をシェアした後、全てに通底するコンセプト「Prepare to be amazed」を伝えている。

総論:
話のテンポ、笑いどころ、全体のコンパクトさ(濃度)、どれも秀逸。「10個でまとめる」というのも、オーディエンスの注意を引き付けるのに有効である。

16: Angela Lee Duckworth: Grit; the power of passion and perseverance (2013 12M) 24/2/2023 ☆☆☆☆☆

内容
コンサルタントから教師に転職した彼女は、生徒の宿題の採点をしていて、「IQと成績は関係がない」ことを発見する。例えば数学の内容は、しっかり忍耐強く内容を読み、理解し、練習すれば誰にでもできるもので、決して不可能ではない。しかし、習得に至る生徒と、いない生徒がいて、それは能力には関係ないのである。教育にとって大事なのは心理学であると考えるに至り、心理学者としてリサーチを開始した。いったい何が人を成功に導いているのか、教師、生徒、スペリングビー、セールスマン、様々な人々に対して調査を行い、いったい彼らの何が - IQ、収入、幸福度等など - 成功しやすいグループとそうでないグループに分けているのか。浮かび上がってきた答えは、「粘り強さ」である。他の一切は、成功や高いパフォーマンスと関係ないことが分かった。粘り強さ(Grit)とは、長い期間にわたって情熱をもって努力する、持久力であり、マラソンのようなものである。失敗を恐れず、間違いを修正し続け、地道に成功へと向かうスキルである。これはGrowth Mindsetとも言える。ではこれはどのように得られるのか、残念ながらそれはまだ分かっていない。しかしながら、もし子供をGrittyに育てたいのなら、それにはまず自分自身がGruttyでいることが求められる。

プレゼン手法:
コンサルタントと教師という経験、そしてその外見の良さも手伝い、大変にこなれたプレゼンに仕上がっている。メッセージは非常にシンプルで、冒頭から結論まで一気に駆け抜けるイメージ。やはり美人というのは得をするなという印象。以前に彼女の著作を読んだことがあったのでTed Talkを観た際に特に目新しさは感じなかったが、これが初見であったら、非常にインパクトがあっただろう。

総論:
落ち着いて話すこと、しっかり発話すること、笑顔を絶やさないこと、堂々と話すこと、彼女の立ち姿から学ぶものは大きい。まさに目標としたいトークのクオリティ。

17: Judson Brewer: A simple way to break a bad habit (2016 11M) 1/3/2023 ☆☆

内容
例えば瞑想に集中するのは、なぜこんなにも難しいのか。人はすぐに違うことを考えたり、ツイッターを見てしまう。脳には、歴史的に形作られたパターンがある。例えば甘いものを見て、食べて、気持ちが良くなるという、Trigger, Behavior, Rewardというプロセスで、そのパターンを学習し、繰り返すのである。例えば喫煙についても、「自分がかっこいいと感じる」という報酬のために、パターン化されるのであり。本来であれば空腹を感じた時にだけ食べればよいのだが、ストレスを感じた時、嫌な気分の時にも、例えば甘いケーキやアイスクリームを思い出して、良い気分になろうとする。そうして人は何かに依存したり、健康を壊してしまうのである。このパターンを逆に利用するのが、彼の提案するMindfuness trainingである。自分自身の欲求と戦うのではなく、それを好奇心を持って観察する。そして、認知の力を高める。知識から、知恵に変換するのである。好奇心が満たされることは「気分が良い」ことであり、脳の性質を、逆に利用するのである。それは自身の中に小さな科学者がいて、次のデータポイントを待っている状態のようなもので、例えば喫煙したくなったら、たばこが吸いたい、という気持ちや身体的な変化を、好奇心をもって観察するのである。そして心と体の変化は、生じては消えてゆくのを繰り返すのである。これは自信を戦うことではなく、観察する態度である。だから、喫煙や過食をMIndfulな状態で行ってみるのも良い。そうするときっと、その行為に対して幻滅するだろう、そういったプロセスを経て、知識は知恵に変わる。骨身にしみて、より深く分かることができる。残念ながら前頭前野は、ストレス状況下では、オフラインになってしまう。しかしそうなったとしても、知識が知恵に昇華されていれば、悪習を断つことはできるのである。

プレゼン手法:
トピックはキャッチーであり、多くの人の興味を誘う内容である。若干わかりづらいが、Trigger, Behavior, Reward, Repeatという脳の特性を逆手に取って、そのプロセスを認知的に行う(そして認知モードでの報酬は、Curiosityが満たされることである)ことによって認知的制御の質を高められるという提案。ストーリーの組み立て方は、決してうまいとはいえない。比較的単純な人間の行動原理、即ち知る、やる、気持ちいい、繰り返すという「生存」に特化した行動原理から、認知、前頭前野、好奇心、知恵をベースとした「頭でっかち」な行動原理への移行を促し、かつTrigger, Behavior, Reward, Repeatという原理は保持するというのが彼の説明したいことなのだが、もう少し分かりやすく伝わる努力は必要だっただろう。

総論:
こういったある程度専門的で複雑なトピックの場合には、例えば①個人的なエピソード ②実例 ③キャラクターを設定する(サルと科学者、等) ④何か他のものに見立てる ⑤話の内容(対立構図)をビジュアル化する ⑥小道具を用意する等といった工夫が必要であろう。やはりプレゼンテーターのエモーションの波が小さいトークは、聞くのがしんどい。喜怒哀楽+分かりやすさを加えれば、もっと良いプレゼンになるはず。

18: Kang Lee: Can you really tell if a kid is lying? (11M 2016) ☆☆☆

内容
子供のつく嘘について一般的に信じられていることは、①小学生になってから嘘をつきはじめる②あまり上手ではなく、大人はそれを簡単に見抜くことができる③将来の病的な虚言癖につながってしまう、という三つが挙げられる。しかし実際には、4歳までに大部分の子供が嘘をつくことを覚え、それは典型的な発達過程なのである。嘘をつくために重要なスキルは、相手の反応を読むスキル及び自分が知っていることと相手が知らないことについて論理的に考える能力であり、もう一つは、心と体のコントロールに関する能力である。これらのスキルは社会を機能させるのに役立っている人間の能力である。そして彼らの嘘をつく能力は実際にどうなのか実験した結果、学生、社会福祉士、弁護士、警察官、そして本人の両親でさえも、子供の嘘を見抜くことは難しい、ということが判明した。子供たちは表情の裏に、不安、恥ずかしさ、罪の意識、あるいは嘘をつく喜び等色々な感情を隠し、嘘をついているのである。
人間の顔には、無数の毛細血管が通っていて、感情の変化により血流が無意識に変化することが分かっている。これは肉眼では観察できないほど小さな変化だが、Transdormal Optical Imaging (経皮光学)によって、低コストで、通常のカメラを使用して分析でき、それがここ数年彼が取り組んでいることである。
この技術を利用すれば、好き、嫌いに関するマーケティング調査や、政治家が演説中に感じている不安感、遠く離れて暮らす家族の心理状態や、教室で授業中に不安を感じている生徒がいないかどうか等、多くの分野での活用が期待される。

プレゼン手法:
最初に質問と挙手によりオーディエンスを引き付け、非常にわかりやすいデータ(それも笑いどころのある)、ビデオを使いながら非常に聞きやすいトークを進めてゆく。ビジュアライズ(写真やイメージのみ)はメッセージを明確に伝えるのに非常に有効である。

総論:
おそらくこのトークの目的は自身の製品、あるいはアイデア、Transdormal Optical Imagingの売り込みなのだろうが、Ted Talkという場を考慮し、最も広く注意を引き付けられる「子供の嘘」という切り口でテーマを設定したのだろう。テーマと、自身が伝えたい核心がまったくずれているので、ストーリーとしては散らかってしまっている。しかし最初からTransdormal Optical Imagingのアイデアを主軸にトークを構成していたら、きっとこんなに多くの人は観なかっただろう。彼は最後に謝謝といっているので中国人であることを誇りに思っていると思うのだが、かれのトークの構成そのものが、完璧主義を排した合理性を持ち、戦略的で、中国的だと思う。

19: Brian Little: Who are you, really? The puzzles of personality (11M 2016) ☆☆☆☆☆

内容
彼は心理学者で、人格心理学を専門にしている。一人ひとりが誰に似ていて、誰に似ていないのか、そういった研究をしている。馬鹿でも、つまらなくても、心理学者にとっては皆、一様に興味を惹かれる存在である。人格心理学では、OCEANという5つの指標に沿って人格を測ることができる。Openness to Experience (好奇心) Conscientiouosness (勤勉性) Extroversion (外向性) Agreeableness (協調性)Neuroticism (神経質)の五つの指標を通じて、その人格がどのようなタイプかを診断することができ、これは広く採用されている方法である。各項目は、その人の成功する確率や方法に影響を与える。その中でも「外向性と内向性」Extraversion and Introversionについて話していく。外交的であるということは、生体的及び先天的、社会的及び後天的、そして個人の特質の三点から説明することができる。まず生体的な面からいえば、外交的なひとはより多くの刺激を求める。カフェインの摂取、セックスの回数に至るまで、多くの、頻度の高い刺激を、心地よいと感じるのである。また社会的な面からは、フレンドリーな話し方、人にすぐあだ名をつけたがる、白か黒かはっきりしたい、具体的でシンプルな説明を好む。一方そうでない人にとって、フレンドリー過ぎる会話や態度は刺激が大きすぎて苦痛と感じ、また内向的な人たちは、回りくどい、はっきりしない説明の仕方を好む傾向にある。このように、人格心理学を通して、その人のタイプを知ることは比較的容易である。しかしながら、これはアイデンティティではなく、あくまでもタイプの話である。最後に、その個人に特異な部分について、説明したい。これは、個人の人生のコア・プロジェクト、といってもいい。子育てなのか、仕事なのか、研究なのか、それは人それぞれだが、皆、個人で何かテーマを持って、あるいはそれを探して生きているはずであり、その情熱は、上述のタイプ診断を超越するものである。例えば彼の情熱は、学生に、面白いこと、新しいことを教えることである。教えるということは、外交的な資質を必要とする行為であり、かれはそれが得意ではないのだが、得意ではない、タイプではないということよりも、人生のプロジェクトに対する情熱が上回るはずで、そのために人前に出て話すし、ギャグも言ったりしている。人生のプロジェクトを遂行するために人は、時として無理をしなければならないのである。しかしそうした無理をすることは、とても疲れることで、しっかりとした休養が必要である。

プレゼン手法:
非常に面白い内容であり、ストーリーも分かりやすい。OCEANとか、本筋から少しそれた話、笑いどころも作ってある。5つの側面を述べるが、その代表として外交性のみを取り上げたのは、ストーリー全体のバランスを鑑み、かつ彼自身の個人的経験と紐づけられるものに絞った結果であろう。前半部分(OCEAN)は彼の研究分野に関するものだが、最後の”Core Life Project”の部分は、OCEAN分析に、彼自身の人生経験や思いを加えた部分で、そのままオースティンへの問いかけにもなっている。つまりは、得手不得手はあるものの、本当にやりたいことがあるのであればしっかり無理をしながら進めなさい、ということである。

総論:
“Susan Cain: The power of introverts”と併せて理解するとより面白い。SusanはIntrovertsの特性を理解して、皆が住みやすい社会にしていこう、と比較的Inclusiveなストーリー展開だが、Brianは、分析そのものはSusanと同じだが、より彼のコンセプトは現実的で鬼気迫るものがあるというか、彼個人にしか出せない味や、長い人生を通してたどり着いた境地、といった凄みを感じさせる。こうした年の取り方をしたいものである。印象に残るトークには必ず、スピーカー自身の喜怒哀楽に満ちたエピソードがあり、それはその最たるものである。

#20 : Lera Boroditsky: How language shapes the way we think (11M 2018) ☆☆☆

内容
言語を通して人間はアイデアを人に時間空間を超えて伝えることができる。想像した内容、例え相手が目にしたことのないことでさえも言葉を使って相手の頭の中にイメージを作り出すことができる。世界には約7000の言語があり、文法や単語等あらゆる面で互いに異なっている。例えばオーストラリアのある原住民は身近な者を含めて全ての方向や場所を東西南北で示し、左右という概念は無い。なので物事を時系列に並べるときには、例えば英語であれば左から右、アラビア語であれば右から左となるのだが彼らの場合は自分がどこを向いているかによらず常に東から西に並べる。5歳の子供であっても自分が今東西南北のどこを向いているのか常に把握している。通常我々はこの機能を失っていると考えるが、実は生物学的には東西南北を常に把握することはできるということを彼らは教えてくれるのである。我々は物を数えるときに1から順番に数えていき最後に発した数の名前がその個数であるという数え方をするが、数の名前が無い言語もある。色に関して例えばライトブルーからダークブルーまで全てブルーと定義している我々に対して、ロシアでは異なる色の名前が存在する。なのでライトブルーからダークブルーに徐々に色を変えていくのを見せるとロシア人は色が変わったと認識するのに対して我々は単に色が濃くなったと認識する。名詞が男性か女性かというのも言語によって異なり、それは重要なことではないかのように感じられるかもしれないが、例えば橋を見て美しい、エレガントであると感じるか、大きくて力強いと感じるかという認識の差につながる。またHe broke the vase, the vase was broken、何を主語に取るかということも、同じ光景を目にした時の認識のフォーカスに差を生み出し、例えばそれが犯罪行為であった場合には懲罰に関する考え方にも違いが出る可能性もある。以上のように方向、順序、数字、色、性別、懲罰、といった非常に基本的な事柄の認識においてでさえ我々は自身の使用する言語の影響を受けている。さて世界には現在約7000の言語が存在するのだが、これは7,000種類の認識の世界(Cognitive Universe)が存在すると言え、人間の認知の多様性や柔軟性の源泉でもある。残念なことにこの多様性は今急速に失われつつあり、今後100年で約半分の言語が消失するという予測もある。例えば学術においては現在多くの分野で英語による研究がされていて、他の全ての認知のパターンを排除している。本当にそれでよいのだろうか。異なる言語による異なる認知は、自分と関係のない遠い世界の人々の話ではなく、異なる言語を学ぶことによって、思考の柔軟性を我々自身が手に入れることができるということを示している。

プレゼン手法:
非常に落ち着いた語り口でありながら、ビジュアルを多用し、中盤で話した内容を再度整理する、ミニゲーム等、聞きやすい内容となっている。全体を通して比較的さらっとしている。

総論:
魅力的なキャラクターであるだけに、自分自身の話をもっとおりまぜてもよかったか。それもあってか、大きな熱量を感じなかった。失われていく言語の多様性や各言語独自の認知の世界、現在の英語一極集中に対する警鐘というコンセプトはどれも同意できるのだが、その危機感の下で彼女が何をしていて、我々が何をすればよいのかがどうも見えづらい。①彼女自身の経験②未来につながるアクションを示すことができればもっと良いプレゼンになっていたであろう。


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