見出し画像

【全曲解説】Lianne La Havas『Lianne La Havas』①

2020年7月17日、満を持して5年振りのアルバムリリースとなったLianne La Havasを取り上げます。いつになく気合を入れて余すところなく全曲解説の意向、終わりの見えない連載企画始動とあいなりました。とはいえまずは、前提知識の整理。外堀から着実に埋めて参りましょう。周辺情報あってこそより理解度が深まるというものです。

セルフタイトル盤であるという点

The Beatlesがあるいはサカナクションが辿り着いた境地、セルフタイトル盤発売が持つ強大な意味合いについて考えます。前作『Blood』の充実ぶりに反し自身の作品への評価は意外にもドライなものでした。端的に「やりたいことが表現し切れなかった」。そこからデビュー盤のプロデューサーであるMatt Halesに白羽の矢が立ったというわけです。

つまり原点回帰的でありながら自分史更新的。例えば人気絶頂期だったAmy Winehouseがあえて『Back To Black』という名でアルバムリリースした点、過去に目を向けつつ決して歩みを止めない姿勢。これは晩年のプリンスのアティチュードにも通ずるでしょうか。新世代との融和、ジェンダーを超えたサウンドメイク。トレンドを柔軟に吸収しながらマスとは明確に一線画す。

自身3枚目のアルバムリリース。起承転結で言えば「転」にあたる局面で、ドラゴンクエストシリーズで言えば「Ⅲ」にあたる意義深いナンバリング。集大成として世に放つには、これ以上のタイミングはないということかも。「5年」というリリーススパンにもそうした必然性が反映されていると読み解くこともできなくはないのかな、というのが主宰の立場です。

死生観から輪廻思想へ

アルバムに先立ってリリースされたシングル「Bittersweet」では長年の憧れであるプリンスへ向けた、これ以上ない弔意が表現されていたと言えます。男女の別離を夏の長雨に重ねた歌詞は実に詩的で映像的な圧巻の内容。続いてリリースされた「Paper Thin」にも繋がっていきます。インタビューでも述べられていた通り「自然と植物のライフサイクル」に着想を得た世界観。

関係性の構築/溢れんばかりの充実感から、いつしかその関係性が終焉し、再び歩き出した主人公が苛まれる自由と寂寥感。MV中しきりに登場するフラフープのモチーフは、そうした時間軸を映し出しているとも言えます。つまり縦軸横軸に加え新たに奥行きという概念が加わったことで、平面性の音楽から立体性の音楽へと深化を遂げた軌跡が見えます。

死生観から輪廻思想への移行。近年で言えば山下達郎の「Reborn」が典型例でしょうか。デビュー50年間近の氏とてライフサイクルに焦点を当てた作風は21世紀に入ってから、特に「希望という名の光」後、10年代以降に顕著な印象。世相あるいは時代感覚の反映か。字数の都合割愛せざるを得ませんがしかし大いに多角的分析の余地ある観点と言えそうです。

トータルコーディネートの妙

彼女の音楽的特徴として挙げられるのは、ボトムスにフォーク、トップスにソウルミュージックをあしらったお馴染みのコーディネート。デビュー当時から首尾一貫しているスタイルです。RadioheadやAretha franklin。縦展開にも横展開にも長けたバランス感と柔軟性ある音楽性。上モノと下地が巧みに組み合わさることで無限の可能性を見せる芸事ならではの魅力。

先に例示した二者は、ライブでも実際にカバーアレンジで披露されました。楽曲で言えば「Weird Fishes」と「Say A Little Prayer」、氏が持つ音楽性の延長線上にピッタリと当てはまるような収まりの良さ。もろに影響を受けた二者であることはもはや自明でしょう。流行り廃りに決して左右されない、ライスサイズを地で行く彼女の強い信念が表れています。

2019年10月から12月にかけロンドン、バース、ニューヨークの3か所で敢行されたレコーディング。共同プロデューサーにBeni GilesとMura Masaを迎えより強固なサウンドメイクを実現しました。初期音源から歴史を辿って行くとそのグラデーションを節々に感じ取ることができ、興味深いと思います。人生が音楽として紡がれていく様を、この機会に是非味わってみて下さい。

ディレクターズカット版を手に取るべき

今作の特徴としてフィジカル盤/デジタルリリース版の2形態が用意されている点にも注目。後者にはボーナストラックが収録されており、作品を聞き終えた後の余韻感には雲泥の差が生じます。本編とディレクターズカット版の違いはあまりにも大きい。サブスクリプション全盛の時代、是非デジタルリリース版をお手に取って下さい。長年のファンからのお願いです。

Corinne Bailey Rae『The Heart Speaks in Whispers』デラックスエディションのリリースが、主宰にとってはその紛れもない証明でした。ある種裏ボス的に用意されたボーナストラック、そのあまりの完成度におもわず滂沱の涙。作品最大のクライマックスがまさかここに用意されているとは。国内盤向けにおまけ収録されるだけではあまりに勿体ない。埋もれたラストシーン。

未公開シーン収録なんてレベルじゃありません。作品全体を左右する重要なくだりが丸ごとカットされた可能性すらある。隠しトラックという遊び心でもってリスナーの忠誠心を試したか、主宰はまんまとトラップに引っ掛かりワーキャー騒ぐ始末。なんてったって5年待ち侘びた新譜ですし。次稿から本格的な楽曲分析が始動します。片手間にご覧いただければ幸いです。

(画像引用:Warner Music Japan)

この記事が参加している募集

私の勝負曲

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?