かって無い円安、はダメ!(連載:外から見る日本語第11回目)
バンクーバーの習い事教室STEP AHEAD LEARNINGです。
当教室にて、日本語教師歴25年になる矢野修三先生による日本語講師養成講座(初級編)がまもなく開講される予定で、日本語の面白さをもっと多くの人に知ってほしいという思いから 「連載:外から見る日本語」を執筆していただくことになりました。
長い長い日本語教師歴を通して感じた日本語のフシギを短いエッセイ形式でお届けします。
日本語を教えることに興味がある人も、単なる雑学としても、だれでも楽しめる内容となっております。
それでは はじまり はじまり。
コロナ規制もほとんど無くなり、何となくホッとしているが、昨今は、円安が激しく進行してまたまた大変。特に日本からの年金で海外生活している我が身にとっては一大事である。
先日、日本の古き仲間達とオンラインで話す機会があり、円安に関して、大いに同情された。そして、こんなことを問いかけられた。日本のニュースでリポーターが「かってない円安」と話していたが、「かって」はダメだよね、である。
この「かつて」の発音だが、「かつて」なのか「かって」なのか、確かに、ちょいとややこしい。実は、小生も日本語教師になる前は、恥ずかしながら「かって」と、促音の小さな「っ」で発音しており、先輩教師に注意された覚えがある。
さよう、正しい読み方は「かつて」であり、辞書や言葉のハンドブックなどにも「かって」は載っていない。でも「かって」と発音している人も結構多い。いろいろ調べてみると、昔は促音を小さく「っ」と表記する習慣がなかったようで、例えば「買ってきて」の場合でも、「買つてきて」と書き、それを「かってきて」と発音していたとのこと。
そこで、この「かつて」も、当然「かつて」と書いてあるが、発音する場合は「かって」だろう、と勝手(かって)に思う人が多く、方言なども絡んで、この言い方が広まった、と言われている。なるほど。大いに納得である。
発音に関して、こんな経緯があるので、「かって、この辺りは森だった」や「かってない世の中」など、仲間と話す場合にはあまり気にすることはないかも。
しかし、書くとなると、特にビジネス文書などには「かつて」と書かなければ間違いとされるので要注意。もし新聞の記事などに「かってない円安」などと書いてあれば大問題である。「かつて」の漢字は「嘗て」だが、確かに、ワープロに「かって」と入力しても「嘗て」は出てこない。でもこの漢字は常用漢字に入っておらず、ひらがな書きがふさわしい。やはり表記も発話もしっかり「かつて」と意識したい。
また、こんな例文「彼女はかつて男だった」など、かつてはとても考えられない表現だったが・・・、正に「言葉は時代とともに」を日本語教師として、強く感じる思いである。 「かつてない円安」に対して、個人的には全く何もすることができず、「もう勝手にして !」と開き直り、おしゃべりをお開きとした。
本エッセイを執筆された矢野修三先生が、4月16日からバンクーバーの弊社STEP AHEAD LEARNING のオフィスにて、0から日本語教師を目指したい人向けに日本語教師養成講座(初級編)を開講します。
最初の1日は無料とオリエンテーションになっているので、興味がある人は奮ってご参加下さい!
詳細はこちらから。
https://stepaheadlearningcanada.com/japaneseteacher/
本エッセイは執筆者である矢野修三先生から許可を頂いて転載しております。
執筆者プロフィール:
矢野アカデミー元校長
矢野修三先生
矢野アカデミーのサイト:
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?