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黙ってくれシリアルキラー

幽霊は存在する。

なぜなら俺の目に見えるからだ。

こうして昼下がりの街を歩いていても自然と目につく。

俺の左前方にある電柱の側でぼぉっと突っ立っている男がそうだった。
虚ろな顔つきに反して折れ曲がった両腕と血に染まった胴体が一際目立っている。
そんな特徴的な外見でありながら、反応を示す者は誰もいない。
足もとに花束とお供えが置いてある。交通事故の被害者だろう。
彼は常人の目に見える生者ではなく、俺のような特異な人間の瞳にのみ映る死者だ。


「そこのあなた!」
幽霊に意識を向けていると、繁華街の客引きのようにうざったい奴が声をかけてくる。が、無視をする。俺も忙しいのだ。

先程から一ミリも微動だにしていない幽霊の方に歩を進める。
ちょうど対面の距離になった頃合いで彼と目を合わせる。

――もういいだろ。ここはおまえの居場所じゃない。

そっと呟く。
瞬間だけ彼の目が得心したかのように光が宿り、そして音を立てずに徐々に消えていった。
死を自覚し、成仏したのだろう。

「おっ、優しいんですね!その優しさを僕にも分けてくれるといいな!」
無視。


霊というのは基本的に凪のような連中だ。意識のないオブジェに過ぎない。


ただし何事にも例外は存在する。
さっきから俺に話しかけてくるうざったい奴がそうだ。
「やっとこちらを向きましたね」

端正かつ柔和な顔つき、明るい茶色の髪、腹が立つほど爽やかな笑み。
だが、両手で数え切れないほどの命をその手にかけていた。

連続殺人鬼・久々里 想介。
そんな男が死者になっているのは俺が命を奪ったからだ。
それ以来ずっと付き纏われている。

「用件はなんだ?」
我慢できなくなって声をかけてしまった。
「どうやら僕の模倣犯がでてるらしいんですよ」

彼が指を指した先の、電気屋の店先のテレビ画面にはニュース番組が映っていた。

『また連続殺人の被害者か 〇〇区で男性殺害 首に特徴的な傷』


「そいつも僕みたいに殺してくれませんかね?」

つづく


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