一つ目巨人の眠る地で

「準備はいいか?」
「ああいいよ」

遠くから馬蹄の音が聴こえる中、
俺の問いかけにグレイの髪を風にたなびかせてエルフの女が応じた。美しい顔にはしる傷痕を笑みで歪ませながら。

俺たち二人の冒険者は荒野にいた。辺り一面、赤茶けた土に覆われた地面が延々と続く不毛の地。

そこにひとつ巨大な骨が鎮座している。かつてこの地に棲んでいた一つ目巨人のものだ。通りがかった旅人を喰らっていたこの
巨人はある英雄によって討伐されたという。
巨人の死骸は時をかけずに腐り落ち、風化していったというがその骨は悠久の時を経て尚も荒野に居座っている。
俺たちはその陰で時機を伺っていた。彼女が骨の上に乗り出しているのに対して俺は馬に騎乗していた。彼女の馬は少し離れた位置につないである。


依頼の内容はシンプル。この荒野を通るある馬車ーーこの地方に根を張る秘密教団のものを襲撃し、その貨物を強奪しろというものだ。
事が無事に済んだら懐の転移石を作動させて瞬時にその場をおさらば。
邪神を信奉し、生贄を捧げる血腥い教義から各国から邪教として認定されているカルト集団。
そんな奴らが後生大事に運ぶ物は何かわからないが、俺たちには関係ない話だ。


「来た」

彼女の声。
視線のずっと先の荒野を突っ切る一本道に馬車の姿が現れた。この距離からだとぎりぎり視認できる大きさに見える。
前方と後方に騎馬の護衛がついている。

ーーそろそろいい頃合いだ。
俺が合図するとエルフが弓を構えた。しかしそこにつがえるべき矢はない。いや、今から作り出すのだ。
彼女が一言呪文をぼそりと呟くように唱える。手元が青白く発光するし、光の矢が現出した。
エルフは血中に流れるエーテル量が多く、人間より遥かに魔法に長ける。
そんな彼女の放つ魔法の矢は前方の護衛の駆ける5メートル前に着弾、爆破した。


抜剣し、馬の腹を蹴る。
でかい音に怖気付かないいい馬だ。砂煙を巻き上げながら突進する。
さあ、戦闘開始だ。

つづく

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