路地裏

Hit&Subdue 俺たちスーパー暴力マン

ーーなんで俺がこんな目に!

ビルとビルの狭間の人気のない狭い通り道で一人の男が逃げ回っていた。
迷路のように入り組んだ路地裏を、土地勘のない男はただ無闇にひたすら走っていた。
男は上裸だった。

「おい待ってくれよ!悪いようにはしないからよー!」
男を追うのは栗毛色の髪に整った顔のスカジャンを羽織った若者。
ただ彼の手には鉄パイプが握られている。

ーー止まったら殺される!
男の足がさらに速まる。
ただひたすらに路地裏を駆ける。

しかし目的地のない逃避行はそう長くは続かなかった。

何かに引っ掛かったと思ったら、いつの間にか地面に転がっていた。
地べたを這う男に、数瞬もしないうちに若者が追いついてきた。
あれだけ走っていたのに息を荒げた様子がない。
「物の見事に引っ掛かったなー」

罠?男が目をやるとちょうど足首のあたりにロープがぴっしりと張ってあるのが見えた。

「単純なトラップだったが、人間焦っていると足元が疎かになるものだな」

もう一人、今度は真面目そうな風体の青年が建物の陰から姿を現した。

「長木裕治。別れた元カノとヨリを戻すために魔人と契約。転化した後、彼女の今の交際相手を半殺し。合っているな?」
「討伐士かお前ら」
「その通り!俺たち討伐士でーす!てめえをぶちのめしに来ました」
軽い口ぶりで栗毛が言う。

討伐士、魔界の住人により人外の力を得て転化した者を討伐し無害化させる、今の世の中にありふれてしまった仕事だ。

「ああもういいか殺そう殺そう」

長木が諦めたかのように呟くと、その瞬間彼の纏う空気が一変した。瞬時に何かが彼の体を包んだ。視認できる程真っ黒な霧だ。
霧が男の形を全く別な物に変えていく。
数秒もしないうちに霧が消えていく。その場に残っていたのは上半身が蝙蝠の化け物になった長木だった。


「おっしゃ転化!気合い入れてぶちのめすぞ!」
栗毛の緊張感のない声が路地裏に響いた。

つづく

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