hollyhock ─birthday─ 後編

「柊ちゃん、他の姉妹にはあおいさん会わせたの?」
詩季さんが柊司くんに尋ねた。
「あおい、末っ子の夏耶(かや)には会ったよな?」
「うん、結婚のご挨拶の時にご両親と一緒にいた女の子よね。」
夏耶ちゃんは小柄だけと柊司くんに似て目鼻立ちはっきりした女子高生だった。

「二番目の姉の秋穂(あきほ)と、俺の二つ下の妹の椿綺(つばき)は実家を出てるから、まだ会わせてないんだよな。」
柊司くんが腕を組んでいる。
「秋穂ちゃんは社会人、椿綺ちゃんは大学生なの。実家にきょうだい5人いた時は、とても賑やかだったわ。」
詩季さんが懐かしそうに話してくれた。
「早く皆に自由に会える世の中になると良いんだけどな…。」
いつも明るい柊司くんが、しんみりしている。

私は家族との縁が薄いから、柊司くんの寂しさがどのくらいかは分からない。
でも仲の良い家族なら会いたいよね。

「ねえ、柊司くん。スマホ貸して。
今日せっかく詩季さん家族といるんだから、柊司くんの家族に画像送ったらどうかしら。
私、撮影するから。ねっ!」
私は大きなお腹がテーブルに突っ掛からないようにゆっくり立ち上がった。

レストランの外に出て、建物の前で詩季さんと旦那さんであるシェフと赤ちゃん、そして柊司くんに並んでもらった。
「はい、笑って~。」
とても素敵な家族写真が撮れたわ。

私がレストランの中に戻ろうとした時、シェフが私を呼び止めた。
「あおいさん、貴女も『家族』だろう。
今度は僕が撮るから、貴女も写って!」
シェフにそう言われて、私は泣いてしまったわ。

「僕、何か気に障ること言ってしまったかな?」
私はシェフを狼狽えさせてしまった。
「ごめんなさい。私のことも『家族』って言ってもらえて嬉しくて。」
私はポケットからハンカチを出して目を拭った。

私はシェフにスマホをバトンタッチして、柊司くんたちの方に向かった。
すると柊司くんが私の肩を抱き寄せて、
「ありがとう、あおい。家族になってくれて。」
と言ってくれたの。

撮影の後、シェフの美味しい料理をお腹いっぱいいただいて、私達は帰路に就いたわ。

「柊司くん疲れてない?運転替わろうか?」
私の申し出に、柊司くんは「大丈夫、疲れてない。」と答えた。

コンビニの駐車場で休憩をとっているとき、外にいた柊司くんが空を見て何かを見つけた。
車の中にいる私の方に駆け寄ってきた。
「あおい、今日は満月だ。」
私は車のドアを開けて、座ったまま夜空を見上げた。まん丸な月が煌々と輝いていた。
「わあ、綺麗!」
私は自然と笑顔になった。

柊司くんが私の顔の高さにかがんで、頬にキスをした。
「あおい、誕生日おめでとう。」
私は嬉しくて柊司くんに口付けした。
「ありがとう、柊司くん。私、貴方と家族になれて幸せよ。」

来月には、お腹の子も生まれてくる。
私達、貴女も幸せにするからね。


【完】

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