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紫陽花の季節、君はいない 26

そもそも、俺は自分のことを話すのが得意ではない。
俺には趣味も特技もない。
「つまらない人間ね。」と義母に言われたこともある。
誰も俺に興味など持たないし、俺も誰かに興味がない…はずだった。

『こんにちは!アナタ、毎日見かけるよ。私、アナタと友達になりたいな。』
八幡宮で紫陽から俺に話し掛けてくれた。
彼女を通してなら、つまらなかった世界も意味のある世界に思えた。

紫陽花の精霊である彼女には、花の時季しか会えなかったけど、彼女が眠っている間のことを話すと喜んでくれた。

柊司と出会ったのは、紫陽が眠ってしまったことを知らずに会えなくなった時だった。
食欲が無くなり、隣人である柊司の部屋の玄関前で倒れてたのを助けてもらったのだ。

それ以来、柊司とは友人になった。
柊司の彼女だったあおいさんも、俺に良くしてくれる。

紫陽がいなくなってしまった今、俺にはこの世で彼らが大切なのに。
災厄が彼らにふりかかる前に、離れなければならないのに。
自分がつまらない人間なせいで、就職すらままならない。

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