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風の季節ほか

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「紫陽花の季節」スピンオフです。 「風の季節」「hollyhock」「白梅の薫る頃」「紫陽花の季節、君はいない」完結しました。 「夢見るそれいゆ」「紫陽花の花言葉」連載中です。
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2020年8月の記事一覧

夢見るそれいゆ 38

夢見るそれいゆ 38

「私…紫陽が羨ましい。
夏越クンやクレハにこんなに愛されていて。」
私は思っていたことを無意識に呟いていた。
クレハや御葉様が私を見ている表情で、私は声に出していたことに気付いた。
私は戸惑いを隠せなかった。

「ご…ごめんなさい。
私は邪気を祓ってもらっても、こんなに『黒い気持ち』が存在している。
何てイヤな人間なんだろう。」
私は爪が食い込む程、自分の手を握り締めた。

すると、クレハは私の手

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夢見るそれいゆ 37

夢見るそれいゆ 37

「紅葉、ちょっと落ち着いて下さい。」
御葉様がクレハを窘めた。
「いけない、取り乱してしまったわ。」
ゼーハーとクレハは肩で息をしていた。

「先程、邪気を境内側に引き込む為に紫陽花の森の結界を弱めたので、結界を張り直します。二人とも息を調えて下さい。」
御葉様が鈴を構えた。
私とクレハは、深く息を吸って吐いた。

シャン!
御葉様が鈴を鳴らすと、地面から光が溢れ返り、紫陽花が激しく揺れた。
光が

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夢見るそれいゆ 36

夢見るそれいゆ 36

「ひなた、いったい何があったの?
邪気に目をつけられるなんて、ただ事ではないわ。」
クレハが真っ直ぐ私を見つめている。

私は、ちなっちゃんに絶交された経緯、両親や夏越クンが励ましてくれたのに闇に飲まれそうになったことが恥ずかしいこと、昨日見た夢のことを打ち明けた。
思い返すのも怖かったけれど、クレハや御葉様は、とても真剣に私の話に耳を傾けてくれた。

「ひなた殿、勇気を出して話してくれてありがと

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夢見るそれいゆ 35

夢見るそれいゆ 35

「ひなた、あと少しで闇に飲まれるところだったのよ。」
クレハが私を心配している。
「私…いつの間に八幡宮に来たの?」
私は学校にいたはずなのに。

「ひなた殿、貴女は邪気に呼ばれたのです。」
巫女さんが口を開いた。
「えっと、貴女は誰?」
「申し遅れました。私はこの八幡宮の御神木、御葉付き銀杏の精霊『御葉』(ごよう)です。」
「ひなた、御葉様はこの八幡宮で一番偉い精霊なのよ。」
クレハがひとこと付

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夢見るそれいゆ 34

夢見るそれいゆ 34

人が来たので、私は体育館を後にした。

友達だった1年とちょっとが、こんなに簡単に壊れるなんて思わなかった。
そもそも友情なんて、彼女は私に抱いてなかったのかもしれない。

どろどろした感情が、私を支配していく。

大好キッテ思ッテイタノハ、私ダケダッタノ?
嫌ワレタ原因ヲ作ッタ國吉先輩スラ、今ハ憎イ。
嫌だ、こんな私。
コンナキモチ味ワウクライナラ、恋ナンテ知ラナクテイイ。
昨日、あんなに夏越ク

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夢見るそれいゆ 33

夢見るそれいゆ 33

昇降口にちなっちゃんがいた。
「おは…」
私は挨拶しようとしたけど、完全に無視された。
想定内とはいえ、心が痛い。

休み時間になると、ちなっちゃんは何処かへ行ってしまう。
話し掛ける隙を与えてくれない。

そんな感じで、放課後になってしまった。

私は、最終手段「部活先に押し掛け」た。
私の所属する手芸部は、文化祭でずっと忙しかったので今日は休みである。
ちなっちゃんはバスケット部なので、体育館

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夢見るそれいゆ 32

夢見るそれいゆ 32

翌朝、ママがしとしと雨の中、傘と制服を持ってきてくれた。
「おはよう、ひなちゃん。昨日夏越君から連絡もらった時はびっくりしたわ。あんなどしゃ降りの時は、パパの真似なんかしちゃダメよ!」
夏越クンは、ママに心配をかけまいと機転を利かせて、説明してくれたみたいだ。

夏越クンが、朝食にトーストと目玉焼きを焼いてくれた。
「夏越君、本当料理出来るようになったわよね。私なんて、こないだトースト黒焦げにしち

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夢見るそれいゆ 31

夢見るそれいゆ 31

喉が渇いたので、夏越クンを起こさないよう、そうっと台所に行って水を飲んだ。

テーブルの上におにぎり2個とメモが置いてあった。
パパの字で、「元気が出るようにおにぎり握ったので、きちんと食べること!それと、ママの妹は6/30の夕方に来ることが決まったので、夏越に伝えといた。」と書かれていた。

ママのきょうだいは女性なのか。
どんな人なのだろう。
外国人のハーフって聞いてるけど、少しはママに似てい

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夢見るそれいゆ 30

夢見るそれいゆ 30

──夢の中、私は八幡宮にいた。
しかし、雨でも夜でもないのに空が暗い。

大きな茅の輪の向こうに、夏越クンの後ろ姿を見つけた。
夏越クンは膝から崩れ落ち泣いている。

やがて、空に大きな光の輪が輝き出した。
すると、羽衣を纏った髪の長いワンピース姿の少女が光の輪から現れ、ゆっくりと降りてきた。

大地に降り立つと羽衣は姿を消し、少女は泣いている夏越クンの元に歩み寄った。

すると、夏越クンが私には

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夢見るそれいゆ 29

夢見るそれいゆ 29

「どうしたら、仲直り出来るかな。」
私はぼうっとした頭で考えてみたものの、友達に戻れる気がしなかった。

「ひなたの友達の中で、國吉への執着にけりが付かないと難しいだろうな。
それこそ、ひなたが言うように『ちゃんと國吉と向き合う』とか、『國吉を忘れる位に彼氏を好きになる』とか。」

やっぱり、仲直りは絶望的なのか。

「でも、『どうしたいか』はひなたが決めていいんだよ。
仲直りせずにフェードアウト

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夢見るそれいゆ 28

夢見るそれいゆ 28

私は体を起こした。
差し出されたコップの中身は、ホットミルクだった。
「体、冷えてるだろ?これ飲んで、温まりな。」
私は黙って頷くと、コップを受け取った。
「温かい…。」
ホットミルクも夏越クンも。

「ひなた鍵持ってなかったから、ひなたのウチじゃなくて俺んちに連れてきたんだよ。
仕事中のあおいさんに連絡して、あおいさんに着替え頼んだんだよ。さすがに俺が脱がすわけにはいかないし。」
あぁ、ママにも

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夢見るそれいゆ 27

夢見るそれいゆ 27

私は豪雨の中、傘も差さずにふらふらと帰り道を歩いていた。
いつも乗っているバスが何度も私を追い越していく。
制服が雨を吸い纏わり付き、スニーカーはぐしょぐしょ音をたてている。
頭がぼうっとするし、足取りがどんどん重くなっていく。
とうとう道端に座り込んでしまった。

様々な色の傘の群れが流れ過ぎていくのを、ぼんやりと眺めていた。
意識が閉じていくなか、私のよく知っている人が私の名前を呼んだ。
ゆら

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夢見るそれいゆ 26

夢見るそれいゆ 26

「ご馳走さまでした。」
國吉先輩は紅茶白玉だんごを完食した。

「この衣装、ひなたさんが作ったんだって?
すごく良く出来てるね。」
國吉先輩が私の衣装の袖をそっと摘まんだ。
「ありがとうございます。」

その時、私は後ろから視線を感じた。振り返ると、ちなっちゃんが休憩から戻ってきていた。
いや、隠れていたのだ。

文化祭が終わってから、屋上に続く階段の踊り場で私はちなっちゃんを問い質した。
「ちな

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夢見るそれいゆ 25

夢見るそれいゆ 25

休憩時間が終わるので、お皿を片付けていると、弓道着姿の國吉先輩が入ってきた。
「こんにちは。」
挨拶しただけなのに、教室の雰囲気がざわついた。
高等部に行っても、存在感は変わらない。むしろ、大人びた分オーラが増している。

「いらっしゃいませ。お席にご案内いたします。」
私は國吉先輩を空いている席に案内した。
「ひなたさん、久しぶり。」
「中等部卒業式以来ですかねー。ご注文は?」
「先程、ひなたさ

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