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さくらゆき
2020年11月4日 19:28
その桜は、もう数百年もその丘に立っていた。 しかし、その村の者は花が咲いたところを誰も見たことがなかった。 村の伝承によると、江戸の頃、桜の下で心中をはかった男女がいて、その事件があって以来、蕾すら付けなくなってしまったのだという。 村人は花が咲かなくなった木を何度か切ろうと試みたが、その度に災いが起こった。 そのうち、誰もその不吉な桜に近寄らなくなってしまった。 彼女たちが現れる
2020年11月11日 22:45
「ただいま~。」 池上栄子は玄関の引き戸を開けた。木造2階建ての家にカラカラと音が響いた。 両親は働きに出ていて、不在である。 栄子は中学のセーラー服を着替えないまま、2階の南の部屋に向かった。「お姉ちゃん、ただいま。」 そこにいるのは、8歳位の小さなコドモ。栄子は少し陰りのある瞳で彼女を見つめた。 お姉ちゃん、と呼ばれたそのコドモは、ベッドから上半身を起こし、こちらを見ているものの
2020年11月18日 21:30
8年前、池上家はこの村に引っ越してきた。家を買ったので、両親も姉妹もとても喜んでいた。 村を探検していた姉妹は、当然の如くあの桜のある丘に登った。新参者の彼女たちが村の伝承など知っているわけもない。
2020年11月25日 06:38
それは、本当に一瞬の出来事だった。花も葉もないその木が強い光を放ったかと思うと、桂はその場に倒れこんだ。「お姉ちゃん、どうしたの?」 栄子は桂に駆け寄った。桂は眼を開けたまま、虚空を見つめている。いくら桂の体を揺すっても、もう彼女は何の反応も示さなかった。