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出版社はどう変わる?未来戦略の話

 電子書籍やWebtoonの出現など、環境が大きく変わってきている出版業界は今後どう変化していくのか、未来戦略を代表にインタビュー。 


IPファクトリーとデジタルを活用した経営基盤

ーー出版業界は今後どのように変化していくと思いますか?

 「IPファクトリー」を目指していくことになると思います。サクラス設立当初、10年前くらいは出版業界で先見の明がある方は出版社は「総合メディア企業」になるとおっしゃっていた方がいて、私も大いに共感しました。例えばリクルートのように紙からwebへ切り替えてプラットフォームをつくっていく姿や、ベネッセのような会員型の総合メディア企業になるかなと。しかしこの10年で状況はまた大きく変わり、GAFAがプラットフォーマーとして予想以上に成長し、メディアをつくっていくのは難しいと思っています。この10年の間、アメリカでも分散型メディアが流行り新しいメディア企業ができていましたが、現在成立しているのはTikTokくらいですよね。一方で原作としての出版物、特に漫画分野ではその役割が大きくなってきていると思います。

ーーその中で、デジタルの変化はどう出版社に影響を与えるでしょうか?

 国内国外問わず多様なメディアに対応する経営基盤が必要になってくると思います。例えば2020年に週刊ヤングジャンプで連載開始した『推しの子』はその後アニメ化し、大ヒット作品となりました。その経済圏はいくらなのか?また仮に「第二の『推しの子』を作りたい」と思ったとき、出版社はどういう基準で次の作品を選んでどう評価していくべきでしょうか?出版物が紙しかない時とその指標は変わってきていると思います。新連載の時から連載先がグローバルな電子アプリになっているかもしれませんし、そのアプリでアンケートを取っているかもしれません。環境が変化していく中で投資のためにIPを評価する時、デジタルを活用する必要が出てくると思います。

ーー経営判断に必要というわけですね。サクラスってそこに関係してくるんでしょうか?

 積極的に貢献していきたいですね。投資の意思決定をするのはクライアントですが、その時に正しい意思決定をするためには正しい情報を収集する必要があると思っています。そこは当社が得意としてきたことです。今までも出版業界などで何百万ある会員データから顧客の属性行動分析などしてきました。名前は出せませんがオウンドメディアやヒットコンテンツを楽しんでいる人たちの分析なども行っています。今後は全世界・全メディアに対し、テーマによってより広く深く統合的に分析していく必要があり、そこは当社のお手伝いできるところだと思います。

ーーデジタル化により分析対象がより広くなりますね。サクラスが携わる良さってなんでしょう?

 ありがたいことに、今まで意思決定する人とお仕事してきたので、目的からデータを見ていって正しいデータをとることができてきました。例えば新しい作品を作った時に、どういうニーズがあり、どういう人にどう刺さるのか?と仮説を検証するような形でデータを集めるようにしています。データを分析するときに、担当範囲を超えて全分野を把握している人は多くないと思います。私たちはその全体像を見るようにしています。私自身も前職の経験から作家さんの活動を近くで見ていて、作家さんの目線も読者の目線も、一般のマーケティングの会社と比べたら持てているという自負があります。どれだけできているかわかりませんが、作家目線、作品目線、読者目線は持っていたいですね。デジタルだから、海外だからと手段に囚われないで活動を続けたいです。

IPファクトリーの存在意義

ーー出版社を介さなくてもSNSや電子書籍などで作品を世に出すことが可能になってきていますが、IPファクトリーとしての存在意義は何でしょうか?

 出版社が提供している機能は大きく3つあります。

 1つ目は、作者と読者がマッチングする場としての、いわゆるメディアとしての役割です。現在SNSで漫画をアップする人が増えていますが、読者にとっては好きな作品が集まる場、作者にとっては漫画ファンの集まる場としてのメディアパワーはまだ出版社にあると思います。

 2つ目は編集です。編集部は作家さんとは別の角度で、読者にどうやったら受け入れられるのかを考えています。そういった作品づくりのノウハウを持っていると思います。

 しかしYouTuberに対するMCN各社の結果などを見ると、マッチングと編集だけでは少し不安かなと思っていて、存在意義の3つ目としてファイナンスの役割が重要になってくると思います。作品ができるまでの制作費は誰が持つのか?という先行投資視点で、日本は海外、例えばWebtoonなどに比べると弱いですね。ここが高まっていくと企業が業界に果たす役割、個人ができない役割が明確になっていくと思います。他の業界だと芸能業界はこの先行投資モデルで成功していて、韓国は才能ある人の生活費やレッスン代を事務所が持っています。そしてBTSなど世界で活躍するアーティストを生み出していますよね。アメリカも脚本家の生活費を2年分持つなど先行投資しています。

ーー漫画業界だとWebtoonは先行投資しているんですね。

 そうですね。Webtoonは1作品あたりの制作費が大きいですね。大規模な資金調達も行っています。そのかわりに権利を日本の出版社より多く取っています。日本は印税を作者に多く払う仕組みになっているので、作者は売れるまでのリスクを取りますが、売れた場合にはハイリターンでもあります。

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ーー日本の出版社もこの先行投資の動きに続けそうですか?

 今は売上に応じて宣伝費が決まるという仕組みで、これから販売する作品に対して宣伝費をかけるとなると仕組みを変える必要があります。環境の変化によって今までやってきた仕組みを変えるのは結構難しいことですが、必要なことだと思います。

ーー例えば他の企業がこのファイナンスの役割に乗り出してきた時の出版社の生存戦略はどうなるでしょう?Amazonとか。

 編集の力が差別化になってくると思います。質の高い作品作りのノウハウを持っている編集部ですね。また、作品を作る前もですが、作った後も作者に寄り添ってIPを共に拡大・運用する立場になっていければ存在意義が増していくと思います。

ーー作品に寄り添ってきた編集ならではの立ち位置がありそうですね。この先外国の作家さんなどが出てきた場合、編集の力をグローバルに利かせるためにはどうしたらいいんでしょう?言語の壁など。

 日本独自の手法でいい気がします。食でいうSUSHIみたいな存在で、一つの強いジャンル、個性として日本の出版社が存在していくような。言語も日本語というインフラがもしかすると大事かもしれませんし。カリフォルニアロールがあるように、どの程度ローカライズするかはあるとは思いますが。


 今回出てきた出版社の未来戦略として、今と変わらないことは「作者目線で寄り添う姿勢」。そこから生まれる編集の力と培ってきたノウハウは追従し難い確かなアドバンテージである。個人で活動するケースが多い作家さん、そして作品をファイナンス面でも、IP面でも始まりから終わりまで寄り添い続ける企業力が必要である。

(文/K.S)

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