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p.6|あなたにとっての青、わたしにとっての赤

8月です。

仙台は雨雲が去り、夏らしくなってきました。岩手県盛岡市・Cyg art gallery で毎夏開催されているART BOOK TERMINAL TOHOKU 2020が始まりました。私は2016年の開催時から毎年参加しています。

今日は、今年出品している新作のポストカード・ブック『あなたにとっての青、わたしにとっての赤』の紹介を。

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ポストカードであり、本。ページは袋状になっていて、切手を貼って使っていただけるポストカードが1ページに1枚、入っています。これまで発行したリトルプレス『ありふれたくじら』の表紙絵のイメージを、さまざまな海の色のドローイングに描き直しました。

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各地で集めた鯨の話も入っています。

以前、あるトークイベントの打ち合わせで、「鯨の祖先はもともと陸にいた。なぜ、海に戻ったのだろう?」という話になりました。

「孤独を好んだのだろうか?」と。

水中の生活は、想像することも難しい。約5,000万年前、最古の原始的クジラ類であるパキケトゥスは、蹄のある犬のような生き物で、水辺に棲んでいたと考えられている。パキケトゥスから現代の鯨までの間には長い長い進化の歴史があり、その中の個体のひとつひとつは、自分が陸で生きるのか海で生きるのかを選ぶことはできなかった。世代を超えてだんだんと、その体が海に適応していき、今生きている鯨がいる。海中で、鯨の祖先は重力から解放され巨大化した。骨はスポンジ状になり、そこに脂が入ることで浮力を得た。大きな時間の中で起きたことは、そうしてひとつの物語としてつながっていく。

けれど、想像してみる。その中にはひょっとすると、孤独を好んで海へ、さらに遠洋へと向かった一頭もいたのかもしれないということを。

「もともと、孤独な動物なのかもしれない。でも、ときに人を助けるような行動をとる。」

「音でコミュニケーションをとるから、お互い離れていても通じ合えるのだろう。人が考えるような孤独ではないかもしれない。」

現在の鯨からさまざまなことを想像して、物語は枝分かれしていく。

米国アラスカ州ポイント・ホープを訪れたとき、若い鯨猟師からこんな話を聞いた。

「数年前、兄さんの乗っていたボートが鯨にひっくり返されたことがあった。乗っていたのは3人で、鯨を追いかけていたらその鯨にひっくり返された。みんな厚着をしていたから沈み始めた。すると鯨がやってきて、他の2人を拾ってボートの表面まで運んだんだ。鯨はまた戻ってきて、兄さんを助けた。兄さんは水を飲み始めていて息ができなかったと言ってたよ。けれど何かに押し上げられているのを感じてそちらを見ると、鯨がいたんだ。その鯨は兄さんたちを水面に戻してくれたあと、3人の無事を確かめるように見つめながら円を描いて泳いでいたそうだ。」

北海道網走市を訪れたときは、40年間捕鯨船に乗っていたという人に会った。3、4歳の頃、九州の五島列島から同じく捕鯨船乗りだった父親に連れられ網走にやってきたのだそうだ。捕鯨船を降り、クルーズ船でホエールウォッチングのガイドを務めるその人は、ナガスクジラの不思議な習性を教えてくれた。ナガスクジラは船を仲間だと勘違いするのか、捕鯨船についてきて並んで泳ぐことがある。けれど船底が青いと寄りつきにくく、赤いと寄りついて来るのだという。だから捕鯨船の船底は鮮やかな赤色に、舷は水色に塗られているのだと。

「人の見ている世界」と「鯨の見ている世界」。どれほど違うものなのだろう。もしも同じことばをもっていたなら尋ねてみたいーーそんな空想を膨らませながら、作った本です。

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******以下にて販売中です******

ART BOOK TERMINAL TOHOKU 2020 : https://cyg-morioka.com/abtt/

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8月1日(土)〜8月23日(日)11:00-19:00/水曜定休/予約優先
※8月6日(木)〜オンラインショップにて全作品販売予定
ー感染症の対策として、入場人数を一度に5名様までに制限します。
予約優先となりますので、ご来場の際はWEBまたはお電話からのご予約をお勧めいたします。

予約フォーム:https://cyg-morioka.com/reserve.html
お電話:019-681-8089

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