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私たちにとって黒江真由とは何だったのか/『響け!ユーフォニアム3』感想

『響け!ユーフォニアム3』が完結した。今期、私はずっと黒江真由を恐れ、嫌っていた。そして12話で彼女の行動理由を知り、謝罪したい気持ちになった。私の中にあった「知らない人を嫌う傾向」。それは誇るようなものじゃない。けど、それがあったからこそ物語に深く感動した。だから、その前向き向きな意味を考えたい。

#ネタばれあり

●知らない人への自然な反応
「私は辞退したほうがいいのでは?」と尋ねる真由に悪意はなかった。でも私たちはそこに悪意を見た。もし真由を良く知っていたら「彼女はそんな奴じゃない」と思えただろう。でも文脈を欠いたまま登場した真由は、視聴者の誤解を招く格好のキャラだった。
集団は文脈に依存する。『響けユーフォニアム』のファンは、典型的な文脈依存集団だ。文脈を欠いた真由は、まず周辺でうろちょろして徐々に文脈を作るところから始めるべきだった。しかる後に「文脈のコア」である久美子や麗奈にアクセスすればよかった。でもそのプロセスを欠いた真由は「無礼なヤツ」というレッテルを背負った。なんだこの「ぽっと出」が!

●誤解の力と「謝罪したい情熱」
文脈集団に紛れ込んた「文脈無しの真由」は、無礼なヤツ的なポジションになる。一見、これは「よくない状況」だと感じる。イジメに発展する危険性もある。でもこれは「誤解が解ける力」を貯めている状況でもある。誤解がないところに、誤解が解ける力は発揮されない。よく知っているメンバーの中では「あいつ、そんな奴だったのか!」という驚きは得られない。私が感じた「真由に謝罪したい気持ち」は、土下座だって余裕で出来るものだった。普段発揮できないパワーが溢れてきていた。謝罪したい情熱。そういうものが存在する。

●罪と許しが同時に来る、黒江真由効果
今期のユーフォは凄かった。12話は特に忘れられない。その原動力の一つは、私たちの「真由への誤解の力」だと私は思う。再オーディション直前、真由の行動の理由がわかるシーン。そこで私たちに明らかになるのは「真由のことを誤解していた自分」だ。そして、真由をだれよりも理解していた久美子。「しょぼい自分」と「すごい久美子」。その二つを同時に知って「そうだったのかー(がーん!)」とショックを受ける。謝罪したい気持ちが溢れてくる。でもそれは「気持ちのいい罪悪感」だ。開放感を伴う罪悪感。土下座だってできる。なぜなら、自分のしょぼさを自覚したときに、その罪はすでに許されているから。罪の意識と同時に、許されている感覚。それはとても気持ちが良い。それが黒江真由の効果だと思う。

●黒江真由効果を上手につかいたい
集団の中に「文脈を欠いている人」がいると、私たちは容易に誤解することが出来る。努力は不要だ。私たちは自然に誤解する。そしてどちらかというと、悪い方向に誤解する。これは、ある面からみると「ラッキーなこと」なのだ。その誤解が解けたとき、私たちは「ちっぽけな自分」を自覚する。そしてきっとそのとき「謝罪したい情熱」が溢れてくる。そういうことで、活性が落ちていた集団は再び活性化したりする。そういうことが、私たちにとって「多様性の包摂」が本当に必要な理由なのだろう。

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