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本当の愛なんて信じていないけど、結婚してください。

「彼氏の家に泊まるのはやめなさい」

「なんで」

「まだ自己管理ができていないでしょ」

「もう20歳だよ」

「彼氏が挨拶しに家に来たら考える」

「この前来たじゃん」

「家に泊まって良いかなんて聞いてきてない」

「じゃあもう一回連れてくれば良いのね」

「そんな、彼氏のことペットみたいに言って良いわけ」

「別に、ペットだなんて思ってないもん......」

彼が私の肩に手をかける。その腕がすごく重く感じる。進もうとしているのに後ろに引っ張られるみたい。犬なんて飼ったことないし、犬なんて、絶対にこれからも飼わないと思うけど、犬を散歩するのってこんな感じかなと思う。

散歩するときに、すぐに家に帰ることができるように、私は自転車を持って行く。でも、自転車を持っているのに、押してだらだら歩くのは耐えられなくて、私はいつも、小さな加速度で自転車をこぎ始める。いつのまにか、彼を置いてけぼりにする。彼から私の姿が見えなくなるところまで置いてけぼりにして、ここまでくれば、彼が追いかけるのを諦めて、「なんで置いてけぼりにするの」って怒ってくれるかと思って。でも、全く焦らず追いかけてきて「すごく、置いてけぼり」とだけ彼は言う。あとで、「自転車をタラタラ漕いでいるのを見るのも好きだな」と言う。

彼は、怒らない。

完全に置いてけぼりにしても、めんどくさくなってデートを途中で放りだしても、自分のほうが待ち合わせに早く着くのはいやだからわざと遅刻していっても、あまり悩まない彼にイライラしても、それで議論でボコボコにしようとしても、食べるものも行くところも見る映画も彼に何がしたいかとりあえず聞いて出してくれた提案を全部却下してから結局私が選んだ物になっても、遊園地のアトラクションの列に並んでるときに喋りかけてくるのを振り切って本を読んでいても、彼は私のことを「ほんとに好き」って言う。私みたいな子なかなかいないって言う。会えて良かったって言う。ハグしてって言ったら思ったよりも強く抱きしめてくれる。痛い。私って天才なのかもなって思わしてくれる。好き。

社会学の先生が、「『本当の恋愛』っていうのは、相手に欲望されることを欲望することだ」って言っていた。「相手を、それ以外の自分の欲望の手段とするのは『本当の恋愛』じゃないんだ。相手自体が目的じゃないとホントノアイと違うんだ」って。

それなら、わたし、『本当の恋愛』をしていない。『偽物の恋愛』してる。彼は私の欲望の手段。手放したくないと思う。恋人でいたいと思う。私が木を倒すのに、こんなに素晴らしい『斧』はなかなか無いと思う。こんな文章を書いても、おもしろいと喜んでくれる。ハグしてくれる、私のめちゃくちゃな主張を冷静に聞いて反論してくれる、疲れたときに話を聞いてお疲れ様と言ってくれる、わかりやすい快楽を与えてくれる、ひねくれずに「好き」だと伝えてくれる。

彼も私のことを目的なんかじゃなくて、手段にしているから、できるんだ。

純度100%の恋愛っていうのが、相手から地位とか権力とか社会的要因をそぎ落としていったそのものを愛することだとしたら、何が残りますか。性格とか容姿だって、社会的要因だよね。そうやって一つずつ外していったら最後に残るのは、体だけなんじゃないのかな、

「先生、違いますか?」

人から社会的要因をなくすなんて無理なんじゃないですか。わたしは、そういう、真実の愛っぽいものを信じたいけど見つからない。だから苦しんでいるのに、社会を知りたいと思うのに。

相手の体が欲しい、それだけで良いんじゃないですか。体と言っても、イケメンとか体格がどうとかの話じゃあなくて、ただ、交わるときに感じるもの。

ごめんなさい、ほんとうは私にも、欲しい体がある。私のちっぽけな欲望の手段になんてならなくていいから、ずっと、欲しい体であって欲しい。求め続けさせて欲しい。そういう体がある。あなたのことだよ、読んでいますか。

それで、私があなたに欲望されることは、これからさきもう一生無理かもしれないし、そしたらそれはそれでいいかもしれない。ずっとそれを私は夢見ているのだけど、もし、私のことを欲望してくれるときがあるとしたらね。相手を手段にするよりも、相手に欲望されることを欲望することって、ずっと不安定なことだから、結婚して欲しい。相手に欲望されることを欲望し合うなんていう、不安定な関係は、そのままだと、すぐに離れそうで怖いから、法でつなげて欲しい。私と結婚して欲しい。それでバツがついてもかまわないから、だって本当は契約なんてどうでも良いから。

お願い、ってこのわたしが頭を下げているんだから少しくらい考えて欲しい。

結婚してよ。

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