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【石狩データセンター10周年-挑戦の軌跡-】クラウドプラットフォームとして更なる進化を目指す石狩データセンターの未来とは

さくらインターネット、広報担当の朝倉です。
2021年11月15日から連載を開始した【石狩データセンター10周年-挑戦の軌跡-】も、ついに最終回を迎えました。ご愛読いただいた読者の皆様に感謝申し上げます。
石狩データセンターの歴史上のトピックスを振り返る各回の記事に加え、10年分の歴史のつまった年表を公開し、これまでの歩みやそこで働く社員の奮闘ぶりをたくさんの方に知っていただけたのではないかと思います。
今回は、さくらインターネット代表取締役である田中 邦裕さんへのインタビューや、田中さんから事業戦略などを社内向けに説明する機会(モーニングミートアップ)を通じて私たち社員に語られた内容を再構成し、「石狩データセンターの未来」を描いてみたいと思います。

これまでのデータセンターと、未来のデータセンターの「在り方」の違いとは

田中さんに「今後の石狩データセンターの進化とは」とお聞きしたところ、「クラウドのプラットフォームとなるために変化していく」という回答がありました。
実はさくらインターネットは開所当初から石狩データセンターの特色を「クラウドコンピューティングに最適化したデータセンター」と謳っています。それまでデータセンターの候補地としては大きなデメリットとされていた「首都圏から遠く離れた場所」に、スケールメリットやコストパフォーマンスに優れたデータセンターを作り、インターネットを通じてサービスを利用していただくということは、当初から考えられていた石狩データセンターのコアコンセプトだったのです。

開所当初に制作された石狩データセンター紹介VTRより

では、これからの石狩データセンターに求められる「クラウドのプラットフォームとなるための変化」とは、具体的にどのようなことなのでしょうか?
その問いに対し、3つのキーワードを軸にビジョンが語られました。

ハードウェア中心の事業からソフトウェア中心の事業への転換

「データセンターという言葉について、従来はデータセンターという箱や、中に置かれたハードウェアを不動産業や通信サービスに近い業態で提供する『インフラビジネス』として捉えてきたが、これからはデータセンターを『ネットビジネス』の中心に置かれたプラットフォームとして捉え、その上に構築されたサービスを提供する『ソフトウェア中心の事業』へと考えを転換していかなければならない。」と田中さんは話します。

例えば、長らくさくらインターネットの主力サービスとして事業を支えてきた専用サーバーサービスですが、ハードウェアであるサーバー1台1台がお客さまの専用となっており、物理的な保守をすべて代行するサービスとなっています。
「リモートハウジング」においても、構築、保守、解約後の撤去にいたるまで物理的な作業をすべて代行しています。
お客さまのためのより良いサービスを目指して、それらのサービスは時間をかけてより「個別最適化」されてきました。

その結果、以下のようなランニングコストの負担が大きくなっていきました。

  • 主にお客様に代わって都度現地でのオペレーションを担う人員にかかる運用コスト

    • 多様なオペレーションを一定の品質で行うための手順書作成やトレーニングが必要であり、夜勤があることや他業務へのチャレンジがしにくいなどの問題も抱えていた

  • サーバーやネットワーク機器などの在庫保管(故障交換用の予備機や、モデルチェンジなどにより使われなくなり余った機材)

    • 在庫保管のための場所、固定資産税などの経費の精算や棚卸しなどの事務的な負担などもコスト

それでは、田中さんが理想とする「データセンターにおける『ソフトウェア中心の事業』」とはどのようなものなのでしょうか。
さくらのクラウドの場合を例に、ハードウェア中心の事業との違いを明らかにしていきたいと思います。

さくらのクラウドの場合は、設計が決まってしまえば一度に初期投資を行い、同じスペック・同じ設定のサーバーをたくさん使ってサービスが当面提供可能な分の構築を一気に行います。個々のお客さまがさくらのクラウド上のどのような機能をどう利用するかに左右されず、ハードウェアを組み合わせて作られた大きなシステムの中に提供するすべての要件を満たす能力が備わっています。
お客さまがさくらのクラウドを利用し始める場合やそこに新たな機能を追加する場合、お客さまの環境のスペックを上げる場合、いずれの場合もソフトウェアの設定変更だけで実現することができますし、設定変更作業はお客さまご自身で、好きなタイミングで行うことができます。

運用においても、よくありがちなハードディスクの故障交換対応やサーバー・ネットワーク機器等の交換対応をシステム全体の故障率などで判断してコントロールすることができるようになり、よほどのことがなければ緊急対応を必要としません。

もともと「クラウドコンピューティングに最適化されたデータセンター」として作られた石狩データセンターは、「ソフトウェア中心の事業」のプラットフォームとなるデータセンターとして最適です。
しかしながら、さくらインターネットが「ソフトウェア中心の事業」にシフトしていくための課題はまだ多く残っており、特に次に述べるビジネスモデルの変化に適応した「社員のマインドチェンジ」が必要であると田中さんは力説します。

世の中のビジネスモデルの変化に合わせた転換

これまでの連載や第9回の年表から、開所以降の10年でずいぶん世の中が大きく変化したことを改めて感じたところですが、クラウドとひとくちに言ってもさくらインターネットでは実に様々なサービスが生まれています。
クラウドの種類だけで言っても、さくらのクラウドやさくらのVPSはIaaSですし、画像変換・配信エンジンのImageFluxはSaaS、Webサーバーやメールサーバーの機能を提供するさくらのレンタルサーバはPaaSの領域に当たるでしょう。

ひと昔前であれば、インターネットサービスを行う事業者はサーバーを所有し、その保守管理もすべて自分たちで行う必要がありました。そのためにデータセンターにラックを借り、そこにサーバーを設置して、有事の時にはデータセンターに駆け付けるのが一般的でした。オンプレミスといって会社などにサーバーを置いてそこで運用することも非IT企業を中心に多くあり、その保守を請け負う人材派遣業も発展しました。

この頃にさくらインターネットがお客さまに提供しようとしていた価値は、コストパフォーマンスや性能に優れたサーバー、安心してデータを預けられ、高速なネットワーク回線が利用できる設備の整ったデータセンターなどの「モノ」中心であり、付加価値はお客さまに代わって設計のアイディアを提供したり、運用を代行したりする「人」中心でした。

世の中のビジネスモデルがクラウドの発展により変化していくのに従い、この10年ほどで「データセンター業界」の構図はどんどん変わっていきました。
「インフラビジネス」としてのデータセンター事業は、本業とも親和性が高く資本力のある不動産業や通信キャリアなどに集約されつつあり、一方で「ネットビジネス」であるIaaSなどのクラウドサービスは海外の大手企業がどんどん規模を拡大しています。

近年お客さまの求めるものは「占有ハードウェアの所有」から「ソフトウェアやインターネットを通じたデータの所有、リソースの利用」に移行しています。その変化によってデータセンターやクラウドサービスに求める価値も、より複雑化・高度化しています。
今後は、お客さま自身がサービスを柔軟に選択したり組み合わせたりできるソフトウェアの仕組みこそがカスタマーサクセスを実現する上で重要になってくると、田中さんは話します。
お客さまの「『やりたいこと』を『できる』に変える」ためのサポートは、これまでは「モノ」や「人」中心で行っていたところを、ソフトウェアによる仕組みの提供と、お客さまに仕組みを効果的に利用していただくためのトレーニング・技術情報の提供のサポートに切り替えていくということです。

例えば、停止の可能性が極めて低い高付加価値Webサーバーの機能や、逆にメンテナンスなどによる停止の可能性はあってもコストパフォーマンスに優れたWebサーバーの機能など、同じ領域のサービスでも複数のサービスレベルをお客さまが用途に応じてコントロールパネル上で選択したり、他のサービスと連携したりできるようにしていくことが考えられます。
しかも、それらのインフラは共通のプラットフォームとして構築され、サービスの違いによってハードウェアの変更を行わないことで、これまで運用や在庫管理等に多く割かれてきた人的リソースを利便性の高いソフトウェアを開発する方向や、サービスを利用いただくための情報提供の方向に振り向けることが可能になります。

ビジネスモデルの変化を考える時、上述したような市場動向の変化以外にも、投資と利益のバランスの変化についても注視する必要があります。
クラウドビジネスは初期投資がそれなりに必要ではあるものの、サービスの規模が大きくなっても運用に対するランニングコストなどの原価は大きく変化せず、利益率の伸びが非常に大きいということが特徴です。

クラウドサービスは初期投資分の赤字はあるが利益率の伸びが大きい

会社規模が小さい間は、ビジネスを行う上で経費の負担を抑えるために初期投資に慎重になってしまう面がありましたが、これからは、新たなクラウドビジネスを成功させるために必要な初期投資はしっかり行いつつ、従業員の手作業に依存した運用・サービスについてはやり方を変えていくことになるでしょう。

これによって「投資」に対する考え方も変わってくると田中さんは考えています。
これまでは、データセンターという設備そのものの在り方に対する試行錯誤のため、比較的細かい単位で設備の変更を行ってきた石狩データセンターも、クラウドに適したサーバールームの最適解を見出したこれからは、比較的まとまった単位で効率の良い投資を行っていく必要があるとのこと。そのために必要なのは、目先の売り上げではなく先を見据えた投資判断や、「お客さまのやりたいことをできるに変える」ための手段として「クラウドファースト」「ソフトウェアファースト」を念頭に考えるということです。

石狩データセンターは「働く場所である」

田中さんが、これからのデータセンターについて話をしていく中で出てきた3つ目のキーワードは「石狩データセンターは『働く場所だ』」ということです。
データセンターの最新鋭設備や、サーバールームのノウハウにどうしても意識が向きがちなのですが、石狩データセンターはさくらインターネットの北海道にあるひとつの「事務所」として機能しています。
自分たちが働く場所を、自分たちで良くしていってほしいと田中さんは語っています。

3号棟の事務所デザインは石狩データセンターで働くスタッフが中心になって考えましたし、過去にはそこで働く社員や出張者を始め、グループ会社やテナントとして常駐されるお客さま、社員の家族も招いての懇親イベントも年に数回開催していました。
そのため、北海道胆振東部地震が起こった際、社員家族が石狩データセンターを避難所として利用した時にも、何の違和感もなく社員と社員家族がそこで日常生活を送り、協力して炊き出しを実施していました。

コロナ禍となってからは、社員の健康を守るためにデータセンターへの入局制限などを行った経緯もあり、こうしたイベントは一時的に失われていますが、そこに所属する社員が生き生きと働いてコミュニケーションを生み出す「事務所」としての役割を、そろそろもう一度顧みる必要がありそうです。

おわりに

田中さんの石狩データセンターに対する熱意は、開所当初と変わらず非常に強いものであると再認識しました。
これからも石狩データセンターはさくらインターネットのシンボルとして、クラウドビジネスを支えるプラットフォームとして、社員の働く場所として、進化し続けます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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