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♪タンホイザー R.ワーグナー


この曲は1842年、ワーグナーが29歳の頃に構想が開始され、1845年に総譜が完成しました。

同年に初演されましたが、ラストシーンがわかりにくかったなどの理由で聴衆には評価されず、1847年に改訂が施されました。


この改訂版が、現在よく上演されている『ドレスデン版』と呼ばれるもので、
ほかには第1幕にバレエが挿入された『パリ版』というものがあります。

(こちらの全曲演奏の動画では『パリ版』が採用されています。)



単体では、《♪序曲》、第二幕の《♪エリザベートのアリア》《♪大行進曲》、第三幕の《♪夕星の歌》といった曲がよく知られています。



あらすじ

舞台は13世紀、ドイツ中部のテューリンゲンにあるヴァルトブルク城です。

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《世界文化遺産にも登録されている
ヴァルトブルク城》


おもな登場人物は次のとおりです(登場順)。

・タンホイザー
…騎士。婚約者がいる身でありながら快楽の愛が忘れられず、享楽の国『ヴェーヌスベルク』で長い年月を過ごしている。

・ヴェーヌス(ヴィーナス)
…愛の神。『ヴェーヌスベルク』の長。タンホイザーを翻弄する。

・方伯(ヘルマン1世)
…ヴァルトブルク城主。『歌合戦』を開催する。

・ヴォルフラム
…騎士。タンホイザーの友人。エリザベートに想いを寄せる。

・エリザベート
…タンホイザーの婚約者。方伯の姪。聖女として描かれる。



★第1幕

《♪「序曲」》


第1場 
騎士タンホイザーは、婚約者がいる身でありながら快楽の愛が忘れられず、長い年月を享楽の国『ヴェーヌスベルク』で過ごしていました。

冒頭のバレエのシーンでは、官能的な踊りや乱痴気騒ぎの群舞、それを鎮めるヴェーヌスの部下の様子が描かれています。

第2場 
タンホイザーは夢の中で故郷を思い出し、「今こそ目覚めねば!」と現世に帰ることを望みます。

ヴェーヌスは「あなたの救いの道は閉ざされているのよ!」と必死に引き止めますが、
タンホイザーは「私の救いは聖母マリアの中にあるのです!」と突き放して『ヴェーヌスベルク』を去ります。
第3場 
現世に戻ったタンホイザーは、羊飼いの少年の歌と、ローマへ向かう巡礼者の合唱に感動し、
自分が快楽の愛へ走ったことを激しく後悔します。

第4場 
ここで過去に仕えていた方伯(ヘルマン1世)、友人ヴォルフラムらと再会します。
罪の意識から皆の元へ戻ることを躊躇するタンホイザーですが、
ヴォルフラムの「とどまれ!エリザベートの元に!」の一言で思い直し、
一行はヴァルトブルク城へと向かいました。



★第2幕

《♪「エリザベートのアリア」》


第1場
タンホイザーの婚約者、エリザベートがヴァルトブルク城内の『歌人の殿堂(ホール)』で、
《♪エリザベートのアリア》を歌います。

第2場
そこへタンホイザーがやってきて、エリザベートと再開し、二人は愛の歓びを歌います。
エリザベートは「あなたの歌は、私の胸に
なんという新しい不思議な命を呼び覚ましたことでしょう! 」と歌い、
タンホイザーは「私の歌からあなたに語りかけ、
あなたのもとへ私を導いたのも愛の神なのです!」と歌います。

第3場
タンホイザーが去ったところに方伯がやってきて、これから行われる『歌合戦』についてエリザベートと話します。


《♪「大行進曲」》

第4場
《♪大行進曲》が流れる中、多くの王侯貴族が舞台に登場し、豪華絢爛な『歌合戦』が開催されようとしています。
この日のお題は「愛の本質について」。出場選手は、タンホイザーとヴォルフラムを含めた計4人です。

くじ引きで順番が決定され、ヴォルフラムや他の2人は愛を「奇蹟の泉」にたとえ、
「この泉を汚したくはありません。 けがらわしい心で触れたくはありません。 私は祈りのうちに身を捧げ、 命を喜んで捧げましょう・・・最後の血潮の一滴まで。」と献身の愛(騎士道のMinne)を歌います。

これに対してタンホイザーは「享楽の中にしか愛は見い出せないのだ!」と反発し、
陶酔しながら《♪ヴェーヌス讃歌》を歌います。

タンホイザーは聴衆の大ブーイングをくらい、エリザベートの訴えも虚しく、方伯は彼を追放処分にします。
「埃をかぶってひざまずき、 お前の罪を償うのだ!」とローマ教皇の赦しを得ることを帰郷の条件にします。
タンホイザーは巡礼者たちに加わりローマへと向かいました。




 ★第3幕

第1場
エリザベートがマリア像に向かって、タンホイザーの罪が許されるようにと祈りを捧げています。
そこへローマから帰ってきた巡礼者たちが通りかかりますが、その中にタンホイザーの姿はありません。
ついにエリザベートは自分の死をもって、タンホイザーの赦しを得ようと決意します。
ヴォルフラムがやってきて止めようとしますが、「私の進むべき道は天国で高貴な使命を果たすことなのです。」と告げてエリザベートは去っていきます。

第2場
ヴォルフラムがやりきれない気持ちで《♪夕星の歌》を歌います。


《♪ヴォルフラムのアリア「夕星の歌」》


第3場
ヴォルフラムの所へボロボロの巡礼者が1人でやってきました。その巡礼者はタンホイザーでした。

タンホイザーは、幾多の困難を乗り越えてローマへたどり着いたこと、教皇に謁見したこと、許しを乞うたが拒絶され破門されたことをヴォルフラムに語りました。

絶望したタンホイザーは『ヴェーヌスベルク』へ行こうとし、2人の前にはヴェーヌスが現れますが、ヴォルフラムの発した「エリザベート」という言葉でタンホイザーは理性を取り戻し、異界は消滅します。

そこへエリザベートの葬列が現れ、彼女が自分のために死んだことを知ります。タンホイザーは棺にくずれ落ち、息絶えます。
「この贖罪者にも恩寵が与えられた。至福と平和の眠りにつくのだ!」という特赦が告げられて、幕引きとなります。


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F.リストによるピアノ編曲版

ワーグナーが生涯をかけて尊敬し続けた数少ない人物に、フランツ・リストがいます。

(リストとワーグナーは芸術観が似ており、
19世紀のドイツでは、ブラームスなどの保守派に対して、革新派と呼ばれていました。)

リストは1848年、ワイマール宮廷楽長に就任すると、『タンホイザー』の再演に尽力し、
それと並行して、ピアノ編曲版を作曲しました。

この曲は超絶技巧もさることながら、音楽表現にも深みが必要な難曲です…。


《♪タンホイザー「序曲」(S442) (1849年)

その他「巡礼の合唱」「夕星の歌」「ヴァルトブルク城への客人の入場」のピアノ編曲があります》



また、リストの娘コジマはワーグナーの後妻でした。
(コジマとワーグナーが結婚するのは、この曲が作曲されたよりもっと後、1870年のことです。)

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《ワーグナーとコジマ》

(父親ゆずりの高身長、コジマとの身長差が目立たないように、写真の構図には気をつけていたというエピソードが伝えられています。)



このオペラで私が1番好きなシーンは、第2幕第4場の歌合戦で、タンホイザーがヴェーヌスを讃美する場面です!
この部分の高揚感には心を揺さぶられ、聴くたびに鳥肌が立ちます。(「ヴェーヌス讃歌」は、序曲にもメインのフレーズとして盛り込まれています。)

シチュエーションを冷静に考えて俗な例えをすると、婚約者の前で「めっちゃ綺麗なお姉ちゃんと遊んできて最高だった!」と熱唱しているので、
サイテーな男なのですが…笑

オペラというのは、インテリ層の恋愛の欲求の極致を表現する芸術という側面があるというので、
本当にその通りだなぁと思ってしまいました😅




最後まで読んでくださり、ありがとうございます🌸


さくら舞


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