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笑顔で笑顔

バスの一番前の席に座るのが好きだ。そこだけ他より高くなっていて、子どもは一人で座らせないで下さいとか、危ないので深く腰掛けて、とか書いてある。

よいしょと勢いをつけてそこに座る。この席に上ったり下りたりがスムーズに出来る間は、まだまだ老化していないよなと思う。

すぐに降りるので、降りやすいように一番前に座る(本当は立っていてもいい)のだが、今日は後から乗って来た人が、ぴったりと横に立った。私より年配のご婦人で、体温が感じられるほど近い。

降りる停留所が来たら、声をかけて退いてもらわなければ、席から下りることもできない。スッスッと行きたかったんだけどな。最初から立っていればよかったか。

ボタンを押して、停留所が近づく。

するとそのご婦人が、後方から来る人に通路を空けるためなのか、さらに座席に張り付くように立つので、
「あの、すみません、降りますので…」と私が高い所から声を発すると、驚いたように振り向いた。

そして、「あら、ごめんなさい、こちらからだったのね」と笑った。
なんだか、いい笑顔だった。

いえいえこちらこそごめんなさい、失礼しますと、私も笑顔になる。
笑顔を見て笑顔になるって、なんでこんなに気持ちがいいんだろう。

こういう時、仏頂面のまま道を空ける人は多いし、別にそれでも支障はない。なんなら舌打ちする人がいることだって想像できる。なのに、思いがけない笑顔だった。

咄嗟に笑顔になれるのは、心の余裕があるからなんだろうか。
心がけたいな、笑顔。