見出し画像

最小限のコスパでとても安いタロットカードを作った話。

 占い業界では、数年前から占いカードを製作する人が増えています。
 その背景には「自分だけのカードを使いたい」「自分の作品をみてもらいたい」「自分オリジナルの占いを広めたい」といった思いがあるのでしょう。

 私も実は約2年前にタロットカードを製作しました。
 表題の写真のカード「シンプルミニタロット」です。
 今回はこのタロットを作ったときのお話をしていこうと思います。
 もしかしたら、タロットや他の占いカードを作りたい人の参考になるかもしれません。


このタロットカードを作ろうと思ったきっかけ

最初は子供の「タロット占いやってみたい」の一言

 このカードを作ろうと思ったきっかけは、娘の「お母さんをみてたらタロット占いが気になってきた」という一言でした。
 占いに興味を持った娘に対して、「これカード買ってあげたとして、本当に続くんやろうか……」という心配がありました。やりたいことは後押ししたくても、占いに飽きたら出費が痛いなぁ……というのは、習い事をさせたことがある子供の親ならわかってくれるかもしれません。今日日誰でも持っているスマホやゲーム機のように、自発的に飽きさせない工夫がタロットカードにあるわけではないですし。占いとしての面白みは実際に占ったり勉強してみてわかるものなのですが、当時の娘は不登校児ということもあり占う対象があまりにもなく、教科書を見ると学校を思い出してしまうらしく勉強への意欲もないので「触ってもすぐに飽きてしまうんだろうなぁ」と予想がついてしまうのでした。

子供のタロットカード探し

 かといって、せっかく意欲が湧いたものをやらせないわけにはいかないので、「娘のためにタロット見つけてあげるかぁ」と、Amazonやいつも見ているカード会社のサイトを開いてみていたのですが、当時のタロットカードの相場は3000〜4000円ほど。

 (ここで「あなた占い師だし、あなたがカード買ってあげたらいいじゃない」と思う方もいるかもしれませんが、「自分がやりたいことに対して自分のお小遣いを出して買う、買えないくらいのものは貯めて買う、それでも無理なら親と相談」という家族ルールがあることを伝えておきます。)

 「子供のお小遣いで買うのに、3000円超え」は手が出しにくいなぁと思い、今度は占いの児童書をみます。

 価格は当時は800〜900円とちょうど良かったので手を出そうとしましたが、欲しいのはカードであってカード付きの本ではありません。それに、占い系の児童書をみて少し思ったところがあり……これは後ほど書きます。

 「カードだけの販売で安価なところはないか」と探っていたら、思い出したのがサン宝石。探してみたら、ありました。
 (当時は別のもので750円。それもフルデッキ)

 「このくらいがちょうどいいな」ということで、娘に提案し、娘はタロットカードを無事購入したのでした。
 ちなみに、娘は今もたまにサン宝石のタロットで占っています。

子供が買うにはタロットカードは「高い」し、まだまだ「女の子のもの」感が強い

 こうやって娘はタロットカードを自分のお小遣いで買うことが出来たのですが、親ながらにタロットカードを探していて思ったのは、「子供が買うにはタロットは高い」でした。安価なタロットは少ないのです。
 親が占いに好意的で、高くてもタロットを買ってあげられるような家庭ならいいのですが、占いに否定的な親を持つ子供だと自分のおこずかいで買うしかないので、直に占いに触れる機会は少なくなっちゃうんだろうなと思います。
 それに、児童書を調べてみていると、「占いは女の子のもの」感が強いなと感じました。上のAmazonから占いの児童書一覧を見ることができますが、イラストが少女漫画系がほとんどです。このタッチが苦手な子供もいるかもしれません。男の子でこの絵柄が苦手な子がこれを買うのは、勇気がいるかもしれません。

 可愛らしさはいらなくて女の子も男の子も抵抗なく使える、基本のタロット準拠で(使い慣れてきたら、スムーズにオーソドックスなタロットに移行できるようにしたい)子供向けの安いタロットがあったらいいな……と子供の親ながらに感じました。

 ……ないなら、もう作るしかないよな。

 書籍もネットも、どこを探してもないのであれば、インディーズでもいいから自分が作るしかないなぁと思いました。
 幸いなことに、私はなんとかイラストが描けます。
 うまくもないけど、下手でもない(^_^;)
 やろうと思えばできなくもない。
 ……じゃあやってみるしかない(^_^;)
 潜在的に、求めている人はいるかもしれませんし。
 
 目指すは、500円くらいで買えるケース付き・ウェイト版準拠タロットの完成と頒布です。

タロットカード、製作してやんよ

カードを製作する前に、タロットカードをいくらで作るのかを考える

 やると決めたら「よーし、カード作るぞ〜!」とすぐにデザインやイラストに取り掛かってしまいたいところなのですが、その前に考えなければいけないことがありました。
 このタロットを500円位で頒布したいとして、原価をいくらにすればいいのか。何部作りたいのか。作るために予算はどのくらい必要なのか。……といった、超現実的な問題です。
 同人販売はほとんど採算がとれない(むしろ赤字の)世界なのはわかっているのですが、「やるんじゃなかった」レベルまでの経理的ダメージは負いたくありません。せめて1部50円くらいは欲しいところです。

カード印刷って高いんだね

 最初に、「業者にカードの印刷をお願いした場合、何部ロットでいくらくらいになるのか」を調べました。カードを作るときにどのくらいの経費がかかるのかをイメージできると思ったのです。
 すると……1部印刷からすでに万を超える会社さん、ロットは10部〜50部の会社さんがちらほら。仮に10部依頼するとしても、販売価格は3000円以上にしないと採算がとれない金額です。

↑この記事を書くときにたまたま見つけましたが、やっぱりそうだよね……という金額です。

 そもそもカードのコンセプトがニッチなので、50部も100部も売れるかどうかがわかりません。高いクオリティを目指すなら印刷会社にお願いすればいいのですが、クオリティと引き換えに大赤字を抱えるのはさすがにダメだろうと思い、この手のカード印刷は諦めました。

 その代わり、上質な紙と印刷を印刷会社にお願いし、自分でカットを行うことにしました。カードになるような上質な紙への印刷は、さすがに業者じゃないと難しいと思いますが、自分でカットをしてカードを製作するならコスパは安いというか、実質タダになります。

 印刷はキンコーズさんにお願いすることにしました。

 売れたら部数を増やせばいいので、最初は6部だけ作ることにしました。
 超少ない部数ですが、なんとなくだけどこのくらいから始めたほうがいいかなと思いましたし、少ない部数の印刷なら経費としては全然痛くないと思ったので……。

 これで、印刷会社と製作部数が決まりました。

カードを作成する① カードのデザインを考える

 印刷会社と部数が決まったら、次はカードのデザインを考えます。
 カードのデザインは「ダサくてもいいから、わかりやすいものがいいな」と思い、あえてシンプルなものにしました。タロットの絵がすでに情報過多のようなものなので(タロットやってる人はわかるはず)、それ以外の情報はシンプルにしたほうが絵やカードのタイトルが入ってきやすいからです。
 カードのタイトルは、英語ではなくふりがな付きの日本語にしました。
 これは初めてタロットを触った小学生の頃の私が「英語読めない……」と困惑したのを思い出したからです。「The High Priestess(女教皇)」を「ハイpぷりゅりゅりゅryr……(読めない)」と言っていたあの頃が懐かしいです。

 カードデザインはCanva(もちろん無料)を使って作りました。
 一枚のカードの大きさと文字の大きさ、バランスを考えて。

理想の大きさよりやや小さめでできました

 理想のカードの大きさは名刺くらいだったのですが、やや小さめになりました。
  名刺を印刷をする際、A4の紙では名刺10枚分が印刷できます。大アルカナは22枚なので、A4サイズの紙が3枚必要になります。それだとちょっともったいないので、A4サイズの紙2枚の印刷で全カードが納まるよう、カードのサイズを名刺サイズより小さめに設定しました。

カードを作成する② カードのイラストを描く

 次はカードのイラストを描きます。
 シンプルにしたかったのでカラーではなくモノクロ調にしました。
 (色はあったほうがいいのかな?と思い、ネイビー×黄色のカードにしました)

皇帝と法皇のイラスト

 黄色の枠の中に納まるように、「法王」の手を斜め前に掲げたり。子供向けのカードのため、「恋人」の性器を衣類で隠したり。ウェイト版の本来の絵をみながら、変更を加えていきました。
 
 イラストはアイビスペイント(無料)を使用して描いています。
 イラストを作成したら、Canvaで作ったカードデザインにイラストをはめていきます。
 タロットカード本体はこれで完成です。

 タロットの背表紙(カードをシャッフルするときに見る側)も、アイビスペイントでチェック柄を作成し、Canvaに背景として画像貼り付けしています。

カードを作成する③ カードの箱ももちろん無料でデザイン作成

 カードの箱は、無料で展開図が作れるサイトを見つけたので、それを利用しました。
 (このサイト以外にも、商用利用OKで展開図を作れるサイトがあります)

 サイトの図面をアイビスペイントに移し、着色してCanvaに貼り付けます。

こちらはデータ版。データだけ買って自分で印刷してもらう版

 これで、カードと箱のデータが完成しました。
 本来ならこれらはAdobeのIllustratorを使って作成するべきなのです。アウトラインとか気にしないといけないし……気にしないとフォントの文字化けなどが起きてしまうのです。
 安価のタロットを製作し売るために、安価で仕上げることにこだわった結果、Canvaとアイビスペイントに行き着きました。高クオリティ・高価格のカードを製作したい人は真似しないでくださいね(^_^;)

では、入稿&見積もり

 カードのデータができたので、CanvaからPDFでダウンロードし、キンコーズに注文部数と用紙を伝えて見積を出してもらいました。
 サイトで見積額と校正のチェックを行い承認して注文するのですが、「6部じゃなくて10部のほうがいいのかな?数が中途半端だし、もすこし多いほうがいいかもな」と考えを改めて10部で見積を出してもらうことにしました。
 タロットカードA4両面印刷×2枚、カードの箱A4片面印刷1枚を10部、約7200円でした。
 ……ん???
 500円での頒布を目指していたに、1個原価720円だと赤字じゃん!!
 どうしようかな6部に戻そうかな。いやいや、売れて注文入ったらそれはそれで売るまでに時間かかるし(手作業で紙を切り取るから)。

 悩みになやんで、10部印刷にし、カードの価格を上げることにしました。
 1部売価850円にして。

物価はあがっても、今もこの価格は維持してる

 「申し訳なさがいっぱいあるけれど、この手のひらサイズで2000円のカードだってあるんだから許してぇ〜。1000円は絶対超えないから許してぇ〜。」という思いで、決めました。

印刷されたカードを切り取り、箱を作りカードを詰めていく

今思えばこの切り取り作業が一番苦行だった

 注文したものが届いたら、A4サイズの紙に印刷された絵を切り取り、カードにしていきます。定規とカッターで。すべて手作業です。
 箱も糊付けして組み立てていきます。
 カードは写真のように仕分けして、一枚ずつとり22枚+スペアカード2枚のセットにして箱につめていきます。
 詰めたものを封をして、ラッピングをして製品は完成です。

作ったあと

 作ったタロットカードを、BOOTHで頒布開始しました。
 製品としてのカード(上記のカード)だけではなく、データ版(PDF。自分で印刷して作ってもらう用)も頒布開始しました。
 BOOTHでカードは一応売れたのですが……よくよく考えたらBOOTHは20歳未満は利用できないので、大人の方には売れたけれど子供さんの手に行き渡ったのかはわかっていません。
 失念してました、BOOTHの年齢制限。なんというオチ……。

「安価でこどもに占いを届けたい」活動は続く

 そんなこともあったので、BOOTH以外で子供さんに買ってもらえるよう、SNSのDMでの受付やメルカリショップでも展開しています。もちろん、今でもBOOTHで上記のタロットカードは頒布中です。
 あと4部ほど残っています。
 
 タロットカードだけではなく、タロットの入門書の折本も作成しました。

データ販売、1部100円

 春・夏・冬休みには、BOOTHとコンビニプリントで、タロットカードと折本のデータを無料頒布しています。最近はタロットのみならず、ルーンのデータや入門書折本も作成し、タロットと同様、長いお休みの期間は一緒に無料頒布しています。
 それ以外の期間でも売ってはいますが、子供が買いやすいように、やっぱり安価です(といってもBOOTHなので買うのは大人なんですが……泣)。

 占いの道具も本も、物価高の影響で年々高くなっています。
 「占いやってみたいけれど、お金かかりそうだし無理かも」と子供が占いを諦める未来になってほしくありません。占いをやりたい子供を持った親の経験からも、占い師としての自分の思いからも、この活動は引き続き行って行きたいと思います。

安価でタロットを作れても……

 今回のこの製作は、紙と印刷代と送料、パッケージに使う袋とシール代、合わせて8000円ほどでできました。画材は無料のアプリで作っているので、0円です。
 10部の製作、ひとつの原価は800円です。売価が850円ですので「50円くらいの儲けがほしい」の目標は達成しましたが、それでも「売価500円くらいのタロットにしたい」の目標がかなわなかったのは残念に思いました。
 
 安価で占いカードを作る、やろうと思えば誰でもできます。
 今回はこのような方法をとりましたが、やり方は他にもあります。
 百均でも売ってる白紙のカードに絵と文字を書く原始的な方法もあれば、名刺サイズの印刷用紙を買ってきてデジタルで作るという方法もあります。
 でも、「それを人に売る」となると、紙の質や加工、紙の裁断のクオリティに気を使わないといけません。私のやり方は「人に売る」レベルの中でも最低限のことだけを行っています。高クオリティ・高価格のものを販売している大手同人市場では一緒に出品物を並べられないと思っています。
(だからこじんまりとやっていたりします)

 私の場合は「安いものを作り安く売りたい」という目的があったので今回のようなやり方をとりましたが、そうじゃなくて「ただケチりたい」だけで安価な方法をとるのであれば、やってみるだけやってみていいですが品質の保証はできません。

 既製に近い丁寧な製品を作り売りたいのであれば、安価なやり方はとらないことをおすすめします。

↓ここに出てきた、タロットはこちらから買えます


いいなと思ったら応援しよう!