表現 Express yourself
自分を伝えること
自分が何者だったかを忘れた少年は、どこにもいけず、何にもなれず。日々を無為に過ごした。
無為に過ごすことは悪いものではなかった。世間では目標を達成することや自己を滅して鍛錬することが価値あることとされたが。
少年は満足していた。
無為に過ごすことは悪いものではなかった。教え込まれた価値観から解き離たれ、最初の一歩を達成した。
何者かにならなければならないのか、どこかへたどり着かなければならないのか。
そんなことはない。全部他人のつくった世界だ。
自分の世界は自分のためにあるんだ。自分が意味づけを施した世界に僕らはいる。
その世界には他人の価値観が入り込んでくる。他人はあの手この手で僕らの心にアクセスして、情報を流し込む。あれがいい、これはまちがっている、こうするべきだ。
僕らはとりあえずその情報を飲みこむ。飲み込まないわけにはいかないのだ。なぜって僕らは何も知らないんだから。
そうやって飲み込んでいくうちに、僕らの世界は少しずつ他人の色に染まっていく。
自分の色の上に他人の色が塗り重ねられていく。
それも悪いことではないんだ。他人と関わる以上、他人の色を完全に拒むことは難しい。他人とうまくやるために、他人の色を取り込まなきゃいけないこともある。
でも、他人の色と自分の色があまりにも違うときには、問題が起きる。
最初はほんの小さなずれなんだ。でもそのずれが先に行くにしたがってどんどん大きくなっていく。同じはじまりを持つ二本の線が、伸びるほどに離れていくのと同じように。
色が違いすぎると、僕らの心は怒り始める。心を無視すると鬱になる。
無視するわけにはいかない。ぼくは僕の心に従いたい。従わずにはいられない。
僕は他人の色に埋もれてしまった自分自身の色を取り戻さなくてはならない。
確かに僕の一部、あるいは大部分は他人でできている。でも、僕の核にいるのはいつでも僕じゃなきゃいけないんだ。
そうしないと僕は僕でなくなってしまうんだ。これ以上、他人の色に犯されていくことを見ているわけにはいかないんだ。
もう、何も知らない子供ではないし、知らないで済ませてしまうには大人になりすぎた。
ほしいものがある。
他人には理解されないかもしれない。ぼくは、ぼくは。
何者かになりたいわけでも、何かを成し遂げたいわけでもないんだ。
ただ興味のあることを好きなだけ勉強して知識を蓄えて、自分なりの解釈をしてそれを他人に伝えたいだけなんだ。他人の意見を聞いて、自分の意見を話して、また新たな解釈や考えを生み出したいだけなんだ。
僕は、吸収し、交流し、意見し、伝え、創造することを望んでいる。
僕は人に理解されたいと思う。人を理解したいと思う。
それが僕の心だ。僕の色なんだ。
そしてそれを叶える手段が僕の興味のある分野だ。
吸収し、考え、伝え、交流し、創造する。
理解されるためには、伝えなきゃ。
伝えなきゃ。
ふさぎこんでいても、誰も理解してくれない。誰も手を差し伸べてなんかくれない。
僕は。
人を理解するために本を読み、
人を理解するために。
やろう。やれるだけのことを。
僕は伝えたい。僕は創造したい。
僕は学びたい。僕は他人とつながりたい。
他人に怯えたくない。他人を理解したい。
他人に理解されたい。
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