絵を描くのが嫌いなマンガ家

こんにちは。花巻です。

最近、自己紹介をする機会があり、そこで「マンガを描いたり、マンガのアシスタントをしたりしてます。」と話したら、
「じゃあ、絵描くのうまいんだ!」と言われました。

そんなことないです。

私は死ぬほど絵が下手です。
これについては様々なところでも言っておりますが、講師からお墨付きを頂くほど絵がヘタクソなのです。

そもそも私は、雑誌などに作品を掲載したことはなく、まだまだ勉強中の身で、アシスタントも作家先生に教えていただきながらやっているので、プロと呼ぶには程遠い存在なのです。
それを説明してもなお「そう言いつつうまいでしょ?」と言われます。
それはきっと、多くの人が
「マンガを描く人は絵を描くのが好きだ」
と思っているからです。

これは、編集さんやマンガ家さんもそう思っている人が多いですし、
実際にマンガを描く人の多くは絵を描くのが好きなんだと思います。

でも、私は違います。
専門に入学したてのころはむしろ絵を描くのが大嫌いでした。
そんな私がマンガ家になろうと思った理由は、「マンガ」が描きたかったから。
正確に言うと「コマ割りとセリフのある物語」が作りたかったからです。
どういうこと?って思いますよね。

私がどうしてもやりたかったのは、
話作りはもちろん、話をどこで区切るか、ストーリーを見せるにはどんなカットでどんな会話を入れるか、登場人物はどんな風に話すのか、その時の仕草などを考えることでした。
作業工程で言えば「プロット」と「ネーム」がこれに当たります。
これができるのがマンガ家という職業でした。

マンガ家という夢を持ち始めたのは幼稚園の年長さんの時でした。
アニ横にドハマリして、憧れ、絵を描いてみたら先生に褒められたからとかたぶんそんな感じです。
その頃は絵を描くのが好きでした。
家の壁中に落書きしてこってり叱られるほど、絵を描くのが大好きでした。

そんな私が絵を描くことを嫌いになったのは中学生の時です。
その頃の私は「将来はマンガ家になる」と家族や友人にも公言していました。
時間が空いていれば絵を描いたり、授業中にノートの隅に落書きしたり、マンガとは呼べない程度のマンガもどきを描いてみたりしていました。

中一のある日、仲のよかった友達Aちゃんとやっていた交換ノートで「このノートに絵描いてみてよ」といわれ、女の子の絵を描きました。
自分ではとても上手く描けたと思い自信満々に渡しました。きっと褒めてもらえるとワクワクしていました。
次の日、Aちゃんからノートが回ってきました。
そこに書かれていたのは
「これくらいなら私でも描ける。笑」という文章でした。
ショックでした。悔しい気持ちでいっぱいでした。
そこから自信はなくなり、絵を描く数が少なくなりました。
それでもマンガ家は諦めていませんでした。

時が経ち、中学3年生になってもまだAちゃんとは仲が良かった私は一緒に帰っている途中に進路の話になりました。
Aちゃんは小学校の先生になりたいから大学を目指してるという話をしていました。
「さきのはどうするの?」と聞かれ、私はその時久しぶりに「マンガ家になる」と口に出しました。
Aちゃんに絵を貶されたあの日から、言うのを躊躇っていた言葉を勇気を出して言ってみました。
Aちゃんは
「あの程度の実力じゃ無理だよ。」「現実的に考えたら?」
そんなようなことを言っていました。
当時の私にとってはかなりキツイ言葉でした。
泣きたくても友達の前で泣けなかった私は あはは、そうだよね。と笑いました。
Aちゃんと十字路で別れた直後、悔しくて泣きだしました。

大人になった今思えば、Aちゃんはずっと賢くて先のことを見据えて努力していたし、我慢もしていたはずですから、高校受験を控えているのに能天気に「マンガ家になる」なんて言った私にかなりムカついたんだと思います。
今の私がAちゃんと同じ立場でもムカつきますし。

これ以降、私は「マンガ家になる」という夢を口にしなくなりました。将来の夢を聞かれた時は「出版関係」と誤魔化すようになりました。絵も描かなくなりました。
高校にあがってからは前にnoteに書いた通りクソみたいな青春を送りながら、マンガ家にはなりたいけど絵を描くのは嫌い、そんな感情のまま生活していました。

そして、なんやかんやありまして
絵を描くのが嫌いなまま専門学校にあがり、マンガを描くことになりました。

うまれてはじめて描いたマンガは専門の課題として描いた、
たった2ページのレポマンガのようなもので、
右も左もわからず、ただ思いつくままに描きました。
講師からの講評で「絵は下手だけど、話はまとまってる」と言われました。
私はそれが話作りの自信につながると同時に、絵への苦手意識をますます強めることとなりました。

それでも、マンガの学校ですから、絵を描くことは必須でした。
周りの実力と自分を比べて、私なんて、と卑下することも多々ありましたが、嫌でも絵を描かなければいけませんでした。
毎週あったイラストを提出する課題では、うまい絵を見せつけられ、自分の絵が晒され、それに対し意見をぶつけられるというかなり辛い授業もありましたが、そのおかげで「人に絵を見られる」ということに慣れました。
次第に多少の厳しい意見にも耳を塞がず、傾けることが出来るようになりました。
そんなふうに徐々に徐々に苦手を克服していきました。

私が絵を描くことを楽しいと思えるようになったのはつい最近で、昨年の6月頃です。
きっかけは、とても単純なことで「成長を実感したから」たったのそれだけです。
私は模写と研究を繰り返しました。
そうしてようやく少しだけうまくなりました。
過去のイラストを久しぶりに見返した時に「あ、私うまくなった」と実感できました。自信がつきました。
それがあったから、私は呪縛から抜け出せました。

人の言葉はとても力を持つもので、それが良いことにも悪いことにも繋がります。
言葉はエールにも呪いにもなります。
私は中1のあの日Aちゃんに言われたことに7年も縛られていました。
きっとこの年月があれば、この月日を努力の時間に当てていれば私は今よりももっと絵を描くことが好きになれていたはずなのに、自信をもてていたはずなのに、自分を好きになれていたはずなのに。
とても無駄な時間を過ごしてしまいました。

私はこれから、7年失っていた好きを取り戻さなければいけません。
1度は大嫌いになってしまった絵を、もっと大好きになれるように頑張ります。

みなさんはこれから先、誰かの言葉で自分の好きを奪われないように
また、軽く発した言葉が誰かの好きを奪う可能性もある、ということを心に留めていただければ幸いです。

それでは、今日はこの辺で。

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