海暮らし 終わり
桜が咲いて、散った。
春が来るまでの旅と決めていたので、荷造りをして、街を出た。
約1ヶ月を過ごした部屋は、ものの数時間の片付けで、わたしが住んでいた痕跡をなくした。小さくて、四角い、日当たりの良い、わたしの居場所だった空間。
街のあちこちに、愛おしい日々のかけらが散らばっていた。
新芽を見守っていた街路樹。野良猫に出会えた小径。毎日外から眺めていたお惣菜屋さん。いつものスーパー。お団子を食べたベンチ。親切なお花屋さん。先月末に閉まってしまったお肉屋さん。遠くに海が見える河原。長く長く続く線路。晴れた日には良く光が差す大通り。
街はいつもわたしに優しくて、わたしはいつも一人じゃなかった。
人々のいとなみを感じて、あたたかい気持ちで大切な日々を過ごすことができた。
この街を選んでよかった。
毎日のように海を感じて、波の寄せ返りを見ながら自分を感じた。生きること、愛すること、幸せになることをたくさん考えた。なにかに影響を受けることなく、自分のこころと対話をして、意思決定をして、こころを良く知ることができた。
ありがとう。街も人も、わたしのこころも。生きる道に、また新しい風が吹いたように感じる。ありがとう。
さて、次はどこへ行ってみようかと、まだ見ぬ街に思いを馳せる。
希望ばかりだ。そして孤独ではない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?