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しあわせな日常〜木下百花「わたしのはなし 第3話 夜明けのピクニック編」のこと〜

2021年4月9日
恵比寿リキッドルーム
木下百花ちゃん主催ライブ
「わたしのはなし 第3話~夜明けのピクニック編~」(ゲスト/柴田聡子)
を、観た!

「夜明けのピクニック」って、見ただけでワクワクしてくるパワーワード。
子供の頃読んだ小説で、イギリスの全寮制学校の女子学生たちが、紅茶とパンとお菓子を詰め込んだリュック背負って、真夜中に寮から抜け出しピクニックする場面があった。月の光に照らされるティータイムの非日常感に憧れた気持ちを抱えて、恵比寿を歩いた。

この日は百花ちゃんが以前から「大好き!」と公言していた柴田聡子さんとの共演。
しかも百花ちゃんが初めて柴田さんのライブを観たのがここ恵比寿リキッドルームだったそう。

「もう、これって運命じゃない?!」とキラキラした笑顔で嬉しそうに語っていた百花ちゃん。
この日の百花ちゃん、ずーーーっとニコニコ×100していて、楽曲によってユーモラスな表情や鬼気迫る険しい顔も見せるけれど、全体的な印象として「笑顔」が強い。いつもどこかしんどそうで、この世界が居心地悪そうに見えた繊細な女の子が、全身で音楽を楽しみ、イキイキと笑う姿を見ていたら、
「あー、この笑顔……守りたい!どうかいつまでも笑顔でいて!」
と、謎の守りたい欲がムクムク湧いてきた。
あんなにも光り輝いて、自分よりもずっと生命力に満ち溢れた強い存在なのに、同時に「守りたい」という気持ちも起こさせる不思議。

柴田さんと百花ちゃんのインスタライブで、

「柴田さんのライブMCで『セ〜〜ンキュ〜〜〜(低い声)』ってゆる〜く言ってたのがめっちゃウケて…」

と、百花ちゃんが言っていた。
そしたら、ライブ当日も柴田さんが

「セ〜〜ンキュ〜〜〜」

と、何回も繰り返していたので、
「出たー!あの『センキュー』聞けた!」と嬉しかったな(単純)。
ずっと音源は聴いていたけど、ライブを観るのは数年ぶりだった柴田さん、めちゃめちゃ洗練されたポップスターになられていた!
以前に観たアコギ弾き語りライブも素晴らしかったけれど、その時に感じた泥臭くてわけのわからないヤバさは、消えたわけじゃなくバンドスタイルになった今でもそのまま存在して、やばい中身が透けた美しい水晶を見てるみたいだった。
『いきすぎた友達』はまさに柴田聡子節て感じのヘンテコなメロディー。金曜夜の疲れた脳みそに沁みて、少し泣いた。直後の『ワンコロメーター』で踊り狂って楽しかった〜!(情緒のアップダウンが柴田さんのメロディー並み)

いよいよ百花ちゃんライブが始まる・・・期待とともにソワソワ待つ場内に突然響いた、

「ちょっと百花!あんた、この前のテレビ見たわよ!何なのあれ?鼻にティッシュつめてテレビ出る人がどこにいるの?!」(母親らしき女性)
「お前まさか…変な薬とかやってないだろうな?」(父親らしき男性)

という声!
唐突に始まったミニ・ラジオドラマ。(※記憶で書いているため正確な台詞ではありません)
百花ちゃんテレビ出演時の態度を巡って、両親と百花ちゃんが言い争い、

「もう嫌だ!こんな家、出ていってやるー!」

と叫んだ後、フロア横から、ついに百花ちゃん本人(実体)が現れた!
客席の間を縫って登場した本日の主役に、ザワつく場内。そのままコント風味の動き(全力で走ってる風だけど進むスピードはゆっくり)で、やっとステージに辿り着くと、「いつの間にかジャングルに着いていました」という声と共に緑の木々がパァーッとスクリーンに広がった。既にステージ上にあった桜の木やテント、客席の椅子はいつものパイプ椅子でなくアウトドアチェア。百花ちゃんといっしょに日常から家出して、恵比寿リキッドルームは一気にピクニック空間に。
この冒頭ラジオドラマで、怒る母親へ百花ちゃんが向けた

「ママはどうせTwitterの情報しか見てないんでしょう、どうして本当の私を見てくれないの?」

という台詞。
コミカルな演出の中に、今まで何度も「SNSやネットは苦手だ」と言っていた彼女のシリアスな本音が差し込まれていた。
どうしても派手な見た目や華々しい経歴が注目されてしまうけれど、そればかりが話題になり、自分の音楽が届いていなかったら、たまらなく虚しいだろう。
でも、ライブという場所には、彼女の音楽を体験するために来た人しかいない。
フロアで目にした、みんなが自由に身体を揺らして、手を上げたり叩いたり、「ダンス」が生まれる直前の自由な動き。空間全体がひとつの生き物になって、音に合わせて蠢く様子、彼女の一挙手一投足に起こるリアルタイムの反応。
音楽が人を動かし、その動きを受け取った百花ちゃんが、雨上がりの植物みたいにどんどん輝きを増していく、ライブでしか起こり得ないエネルギーの循環が、確かに見えた。

テント越しの衣装生着替えのシルエットが生々しくてドキドキしたり、
『卍JK卍』で「ハイ、今からギターソロやりま〜す!」と宣言してからイントロを弾く馬鹿正直さにほのぼのしたり、
ウエディングドレスとボブヘアのウィッグで登場した瞬間の
「え?!か・・・かわいいいいい!!!」
という場内のため息交じりの黄色い声(大きな歓声は出せないけど、思わず漏れ出ちゃう小さめの声がかなりの人数分聞こえた。もちろん自分も出てる)や、
その後すぐ「これ邪魔やな」とウィッグを外しちゃって、「え〜〜〜(可愛かったのに・・・)」と、残念がる声。
感染予防策のため声出し禁止の今だからこそ味わえる、「観客が大声を出す」以外の形のコール&レスポンスが感じられた。


「アイドルに殺される」で、デビュー当時の百花ちゃんの写真がスクリーンに大写しになり、その写真と自分を交互に指さして「コレとコレ…ホンマに同一人物?!」と言う声が聞こえてきそうなコミカルな表情。

「わたしのはなし」のイントロのリズムに合わせ、観客が手を叩いている時、「あ〜〜〜もう、みんなずーっとここに居よう!一生この曲やってたらええやん・・・んなわけあるかーい!」という一人ツッコミ。
そして「ダンスナンバー」で見せる、フリースタイルダンス。百花ちゃんの踊る姿は、重心が下の方で猫みたいな全身の柔らかさがビシビシ伝わる。妖艶さと野性味あふれる動きは、冒頭言われた「ジャングル」のもう一つの意味、「無法地帯」を思い出させた。
柴田さんとのインスタライブで「バンドにダンサーを入れてみたい」と語っていた時に浮かんだ、渋さ知らズの白塗り舞踏集団や、昔見た大駱駝艦にも通じる踊り。
「踊り」によって解放される、人間の奥深くの、普段隠しているドロドロした何か。

終演後のアナウンスも百花ちゃんの声だった。デパートの閉店ご挨拶風のゆったりした口調の「毎日の皆様の幸せな日常を、木下百花は心よりお祈りしております」という言葉で、ピクニックは終わりを迎えた。

あんなに色々な要素を詰め込んでも、とっ散らかっていないのは、百花ちゃんの天性の自己演出力も勿論だけれど、「目の前の人を楽しませたい」という大きな柱がデーンと貫かれているステージだったから。
百花ちゃんが祈ってくれたから、つまらないいつもの日々でも「幸せな日常」になるじゃん!と思いながら、いつもの道を歩いて家に帰った。

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