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【だらだらエッセイ】アメリカ酒旅その5:そして新しい旅が始まる編

9月2日は溶けた。飲みすぎた翌朝というのは、起き抜けはなんてことないのだが、内臓が目を覚ますにつれて、あらゆるバグが生じ始める。毛布の中で身体を丸めたり広げたりしていたら、キッチンのほうから物音が聞こえて、拾えた音声だけで察するに、二人ともわたしと同じく飲みすぎたようだった。

いつもよりやや遅く家族たちが醸造所へ向かうのを聞き届けたあと、のろのろとリビングに出ると、Jakeの愛用しているマッサージチェアにはいのぼり、全身マッサージのコースを受けながら、将来お金持ちになったら絶対にマッサージチェアを買おう……と強く心に決めた。

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そして、寒い寒いと縮こまりつつ木蓋を外して温かい露天風呂の湯船に浸かり、将来お金持ちになったら脚を伸ばせる湯船のある家で暮らそう……と強く心に決めた。

あとはしょっぱい汁ものを食べて、コーヒーを飲めば大方整うだろうと、タイ料理店からオーダーした牛すじヌードルをランチに食べた。記憶はおぼろげだが、購入記録がないので、コーヒーは諦めたらしい。

Miekoさんからメッセージが届いていた。言い忘れていたけど、と着ていたブラウスを褒められ、お肌もツルツルだったし調子いいんでしょうね、と言われる。そういえばNorikoさんにも、肌艶がよくなったのを褒められた。要は日本生活を通して太ったのだが、そもそもアメリカ生活で5キロも痩せてしまったので、それくらいがちょうどよい。特に、帰国直前はげっそりとしていたから。

前の日の宴の時間に渾身のインタビュー(アメリカSAKEにまつわるシリーズ)が公開されたので、ソーシャルメディアでの拡散作業に勤しむ。そのあとは、寝てしまうこともできたが、結局トレーダー・ジョーズへ歩いて買い物に行った。

キッチンに戻るとJakeがいて、二日酔いを乗り越えた互いを励まし合った。ガレージの冷蔵庫に入っているとあるお酒は彼が知人からもらったサンプルで、わたしが先に飲んで感想を教えてほしいと言うので、「なるほど、毒見ね」と冗談めかしながら、喜んで頂戴する(あれだけ二日酔いのダメージを食らっておきながら、酔っぱらいは学習しない)。

夜は、二人目の大家さんとの会食があるかと思っていたけれど、ご主人の様子が芳しくないから難しいとのことで、わたしが明後日からのショート・トリップから帰還してからの実施となった。それなら、と二日にわたって消費することを前提として、またしてもBurma Superstarで、おかず二つと、初めてのテイクアウトカクテルを購入してみた。カリフォルニア州は、2020年3月のロックダウンでレストラン・バーが営業をできなくなってまもなく、テイクアウトで酒類を販売することを許可した。それまでは蓋の空いた酒瓶さえ持ち歩いちゃいけなかったのに。それにしても、そのお店でしか飲めないカクテルが小瓶に入って届くのはうれしい。

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Jakeにもらったお酒、トレーダー・ジョーズで買ったお酒、Burma Superstarのカクテルを並行して飲んでいたら、気持ちよく酔ってきたので、例によっておかずを半分くらい残して、冷蔵庫にしまった。記憶にも残らず記録にも残さないような日だったのが、どこかしらのタイミングでベッドに潜り、眠ったということだけが確実だ。

* * *

9月3日。以前問い合わせたビール醸造所からメッセージが届いていて、何かと思えばわたしが欲しかったお酒が入荷したとのことだった。問い合わせたときは「翌月に入荷する」と言われたので、てっきり日本に帰るまでに間に合わないだろうと思っていたけれど、わたしが問い合わせたのは8月末だったし、今日はもう9月だった。

対岸にあるオークランドの酒蔵・Den SakeのYoshiさんに会いに行く予定もあったので、ビールを購入してオークランドへ渡るルートにしようとGoogleマップを調べる。ビールを販売しているタップルーム&レストランはバスを二つほど乗り継げば行けるようだったので、とりあえずそこまで出てみることにした。

ターゲット近くの停留所からバスでマーケット・ストリートまで下り──降りる駅をひとつ通り過ぎてしまい、せかせかと早歩きで目当てのバス停へ向かい、フォース・ストリートを湾岸へ走るバスに乗り継ぐ。途中、とんでもない方向へ曲がったので、乗る車両を間違えたかと思ったら、ぐるりと回って目的のバス・ストップに辿り着いた。降りてスマホの指し示す方へ歩くと、工事中らしい橋のたもとにたどり着く。道路を挟んで向かい側にサンフランシスコ・ジャイアンツのオラクル・パークがあって、犬を散歩している男性が写真を撮っていた。

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キラキラと光る海をミッション・ベイ(埋立地?)へと渡す橋を歩き、お目当てのNew Belgium Brewingのタップルーム兼レストランにたどり着く。入り口を間違えてウロウロしていたら、ドアの注意書きを見て、ワクチンの証明書がないから諦めよう、と話している老夫婦を見かけて、そこがエントランスだと理解した。

アイラインをバッチリ決めたスタッフの女性が親戚の集まりらしい団体を席へ案内するのを見つめて立ちすくんでいたら、ひょろりと背の高い男性スタッフが近づいてきたので、ビールを持ち帰りで買いたいだけなんだけど、と申し出た。すると先ほどの女性が戻ってきて、彼が、いま土産売り場に誰かいたっけ、と訊ねる。誰もいないわよ。でも、彼女がお土産を買いたいそうなんだ。わかった、じゃあ私が数分で行くから。そんなやりとりのあと、やはりワクチン証明書を見せろと言われたので、杉並区が発行してくれた仰々しい書式を見せると、男性は苦笑して、これを見るのは2回目でね、と謎の言い訳をした。

お土産屋さんに通され、かわいらしいデザインのカップやらタンブラーやらに惚れ惚れとしたのち、冷蔵室の中に並んだお目当ての品を見つけて、わあ、と一人で歓声を上げた。その脇からは、ビールの醸造室が見える。New Belgium Brewingはコロラド拠点で全国展開しているが、サンフランシスコ限定の商品などもあるらしい。

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しばらくウロウロしていたら、ようやく女性スタッフがやってきたので、これを2本欲しいのだと例の商品を指差した。本当は3本か4本欲しかったけれど、思ったより大きかった(ワインボトルと同じ、つまり750mL!)ので、日本に持って帰る合計量を考えるとせいぜい2本程度で事足りてしまう。彼女はタブレットで値段を検索し始め、今日入荷したばかりでリストにないからと、同じ容量の商品の値段で会計をしてくれた。手間を取らせた分のチップを支払って、クレジットカードを切る。

せっかくだから併設のレストランで何か食べたり飲んだりしようと思っていたことも忘れて、飛び跳ねるようにお店を出る。ニューヨーク州ブルックリンの酒蔵、Brooklyn Kuraの山廃仕込みの酒粕を使って造られたビール!

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さて要も済んだしオークランドへ向かおうとバス停へ向かうも、Google Mapを見ていたら想像よりも乗り換えがややこしそうで、探してみるとより短いルートが見つかったのでくるりとUターンした。サンフランシスコ湾岸を走る路面電車をに乗り、セールスフォースのビルから出る本数限定のバスへ乗り換えれば、酒蔵のほど近くに辿り着ける、らしい。路面電車に乗るのは久しぶりだし、セールスフォースがバスの停留所を持っているとは知らなかったけれど、そちらのほうが楽しそうだ。

路面電車の駅は道路の真ん中にあるのだが、それぞれ車両に付されたイニシアルによって目的地が違うため、ここでよいんだろうかとキョロキョロしながら道路を横断しかけたところで、お目当ての電車が来た。ワタワタと小走りで車両に乗り込む。人は少なく、いちばん手前の車両にはわたししか乗っていなかった。

次の駅で、隣の車両の扉が開き、アロハシャツを着た車椅子のおじさんがスイスイと乗り込んで、こちらの車両へ移動してきた。わたしを見て、何か言うので、耳を傾げたら、服がおしゃれだと言ってくれている。アパレルで働いているの? と訊かれ、違うと首を振り、好きなひとつのブランドをしつこく買っているだけだと答える。

目的の駅で跳ねるようにホームへ降りる。道路の向かい側の埠頭にたたずむレストランは少しのあいだ付き合ったボーイフレンドががんばってステーキをご馳走してくれたところだった。ビル群のあいだを縫うように歩き、遠目からしか眺めたことのないセールスフォースのビルを目指す。

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コクーンタワーのようなビルが視界に入ってきたところで、あたりにバス停も見当たらないので、おそらくは建物の中にあるのだろう、とようやく見当をつける。電光掲示板のある自動ドアをくぐり抜けると、だだっ広い駅ビルの地上階らしい空間があった。見回してもバス停らしいものはなく、ここからどんなダンジョンが続くのだと想像して冷や汗が流れる。わからないときは訊くが早い、と、仕事用の黄色いジャケットを脱ぎかけたセキュリティの男性に、このバスに乗りたいんだがどこへ行けばいいのか、とスマホの画面を見せると、しばらく考えた後にはっとひらめいたようで、Bの20番ゲートだね、エスカレーターで2階へ上がって、左へ曲がるとあるよ、と教えてくれた。わかった、ありがとうと手を振るわたしがエスカレーターに脚を載せるまで、声を張り上げて、一個上がって、左だよ! と教えてくれる。いいやつだ。

エレベーターは3階まで続いているので、2階でよかったのか迷ったけれど、とりあえず曲がると、そこは新宿バスタのようなビル内の道路空間で、B20番台のナンバーが並んでいたので、ここだ、とほっと息をついた。奥を見やれば、まさにわたしが行こうとしている目的地を掲げたバスが停まっている。

念のため時刻表を見て、出発時間に間違いがないことを確認すると、バスに乗り込む。ICカードをタップしようとすると、機械に貼り付けられた紙に「今日は金曜日だから無料」と書かれているので目がまんまるになった。海を超えてオークランドへ渡るのは、Uberなどでもそれなりのお金がかかる。あまりにも大盤振る舞いすぎないかと思いながら、半分も埋まっていない座席のひとつに腰掛けた。

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バスが出る。高層ビルの並ぶビジネス・ディストリクトの空中をカーブしながら突き進む光景はちょっとしたアトラクションだ。高速道路はアルカトラズ島の浮かぶサンフランシスコ湾を走り抜ける。本当にタダで乗せてもらってよいのだろうか、と訝しんでいるうちに、だんだん車窓に映る建物の背が低くなってゆき、何度か訪れたことのある、ウェスト・グランド・アベニュー沿いに到着した。

あちこちにグラフィティが施され、車上生活用のバンがパラパラと点在し、ゴミが道のあちこちに散らばるこのエリアに来ると、いつも少し緊張する。この日、わたしは丈の短いグリーンのワンピースを着ていた──完全にスーツケース内の事情で選んでしまったが、悪意ある人の目につけば格好のターゲットになってしまうに違いない。加工前後の木材が積み重なるエコパークの脇をそそくさと通り抜け、Den Sake Breweryへと向かう──トタンの引き戸の前では、トラックに木材を積んだお兄さんたちが何かを議論していた。

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「こんにちは〜」と日本語で言いながら扉を開けると、作業中のYoshiさんがこちらを振り返った。おお、サキちゃん、おデスク脇の椅子に案内され、しばしば近況を報告し合う。聞けば、コロナ禍のもとでも業況は悪くなく、一回一回のバッチ(仕込み)の量も増えたという話だった。

それよりも、最近はオークランドの治安の悪さが気がかりだということだった。昨年の秋ごろからアメリカ全土で問題になったアジア人向けのヘイト・クライムはまだ収束していないらしく、夜になるとしょっちゅう近場で発砲音がするらしい。11月ごろ、Meiとやりとりをしていたころに、サンフランシスコ・ダウンタウンのバスを待っていたアジア人の女性二人が殺害された話を聞き、これはしばらくアメリカを訪れられなさそうだと震えたのを思い出す。Yoshiさんの奥さまのお母さんも別のエリアへ引っ越すことを余儀なくされたそうだ。

お酒を2種類購入させてもらい、そろそろ帰ろうと席を立つと、Yoshiさんがどうやって来たの? と訊ねてくる。そこに停まるバスがありましたというと驚いて、どうやって帰るの? と訊くので、Umami Martに行こうかと思っていたんですが、歩くと遠いですかねと言うと、渋い顔をされた。多分この浮かれたお嬢様みたいな格好が余計、彼を心配にさせたのだろう。最近このあたりで、大の男が、3人組に袋を被せられて、それでATMへ連れて行かれてね……という身の毛もよだつ話が始まり、やはりUberを呼んで帰ることにした。30ドルは軽く超えるが、日本のタクシーを考えれば安いし、行きはフリーだったし、命に引き換えればお手頃なものだ。

初めに来るはずだった車両がキャンセルになり、次の車両は10分ほど離れた距離にいるという。人気のない道で、そわそわと車を待つ。時間つぶしにスマホで写真を何枚か撮ってみたけれど、人目を気にしながらだったので、後で確認すると何を写したかったのかよくわからないものばかりだった。Uberが来て、そそくさと乗り込む。気候だけが原因かわからない汗をいっぱいかいたから、部屋に着いたら絶対にビールを飲むぞ、と意気込んでいたけれど、車を降りるとサンフランシスコは驚くほど冷えていて、途端にビール欲が雲散霧消した。

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部屋の前に、お酒が2本と、ワイン・スキンと呼ばれるプチプチ入りのバッグが置いてあった。明日からの旅先に届けるお酒を、Norikoさんが置いて行ったのだ。しずく取りのお酒と白麹のお酒は、クラブメンバー限定の製品で、わたしは飲んだことがないのでうらやましかった。

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洋服を緩衝材にして、お酒をどう詰めようか考えていたら、ドアがノックされて、Norikoさんからお酒についての言伝を受けた。ついでに、衛生を気にするこんな環境下で恐縮なのだが、と言って爪切りを貸してもらえないか尋ねると──数週間の旅ともなると爪切りは必須なのに、忘れて爪が何本か割れてしまったのだ──快く爪切りとやすりを貸してくれた。ありがたく切らせていただき、きちんと除菌シートで拭いてお返しする。

翌日は7時発の飛行機に化粧を完了した状態で乗るために4時台に起きることが決まっていたので、前の日のごはんのあまりを食べ、シャワーを浴びてさっさと寝た。

* * *

9月4日。自然と目が覚めたタイミングでそのまま着替え、化粧をして、最後の荷物を詰める。空港までのUberを配車しようとすると稼働数が少ないのか、目が飛び出すほど乗車料が高騰していたので、競合サービスのLyftを調べると、普段どおりの値段だった。ところが、支払いのために何度カード情報を入力しても、「クレジットカード情報を再登録しろ」というメッセージしか出てこない。10分ほど格闘しているあいだに、待てよと思ってふたたびUberのアプリに戻ると、運転手さんたちが働き始めたのか通常価格に戻っていたので、結局そちらを呼ぶことにした。Lyft、そういうところだぞ。

空港に到着すると、早朝の便とは思えないほど混み合っていた。国際線は閑散としていたけれど、Labor Dayを含むホリデー・シーズンとあって、国内はバケーションづいているらしい。アメリカの国内便は機内にお酒を持ち込めないので、アラスカ航空の場合は30ドル払って預けることになるのだけれど、頭上のコンパートメントから荷物を取り出すときの緊張感が大嫌いなわたしとしては、これは別に高くない価格だ。専用のモニターに個人情報を入力するとフライトチケットと荷物用のタグが出てきて、手前で貼り付けてから預けろという指示だったので頑張ってくっつけてみたところ、受付のお兄さんにぺろりと剥がされあっさり付け直された。

手荷物チェックのゲートを超え、搭乗案内を待つあいだに、Peet’s Coffeeでホットコーヒーとアーモンド・クロワッサンを買う。本当はしょっぱいものが食べたかったのだが、空港価格でサンドイッチが軽く10ドルを超えたりするものだから、前の人の真似をして選んだものだったけれど、杏仁豆腐みたいな甘いクリームが入っていて結構おいしかった。

デスクタイプの座席に座り、スマホやラップトップをいじりながらコーヒーを飲む。その間、背後の席のお兄さんは電話に向かってずっっっと陽気に話し続けていた。飛行機に乗り込み、座席に着くと、左斜め前の女性が搭乗時間中ずっっっと楽しげにお話をしていた。この国の人たちは、こと、よくしゃべる。世の中にそんなに話さなければならないことが存在するとは思えないが、ともかくしゃべるのだ。

うっすらと寒気がして、隣の席は離陸直前まで空いていたので、誰も乗らないのかと思って、エアコンの噴射口を閉じた。今回の旅の直前に買ったBluetoothタイプのイヤホンを耳に突っ込みうとうととしていると、ドアが閉まる直前、航空会社の関係者らしい、さらに言えばパイロットらしい白髪のおじさまが、息を切らせて隣の席にやってきた。

彼はふうふうと息を整えながら、エアコンが止まっているのに気づき、ダイアルを回す。わたしがイヤホンを外し、ごめんね、誰も来ないと思ったから切っちゃった、と謝ると、気にしないで、国際線からターミナルを全力で走ってきたからね、普段は寒がりなんだよと穏やかに笑う。たぶん、エアラインの関係者で、急遽無料で案内された余りのシートとか、そういうやつなのだろう。

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左斜め前の女性が変わらず話し続け、男性が息を整えているあいだに、飛行機は離陸した。少しうとうとして、目が覚めるころには、外の景色がすっかり変わっていた。見下ろす地上は土色をしている。

飛行機が着陸し、隣の男性に、また走るの? と訊ねると、いや、あとは帰って眠るだけだよ、ここは僕のホームだからねと彼は微笑んだ。接客慣れしていそうな、ダンディな男性だった。搭乗口が開き、乗客がコンパートメントの中から争うように荷物を取り出すのを、やはり機内に荷物など持ち込むものではないと、冷ややかな目で見つめながら降りる順番を待つ。

フェニックスに到着し、バッゲージ・クレームで小さなスーツケースを拾う。遅延も特になかったので、待ち合わせまだ時間はあった。空港の屋内は冷房が効いているけれど、一歩ドアの外に出ると、ともかく暑い。長袖を着てきてしまった。前回来たのは秋だったので、か夏にここまでサンフランシスコとの温度差があるとは思わなかった。

お迎えまでまだ余裕があったので、自販機で水を買おうとしたけれど、スマホのApple Payがうまく反応しない。試行錯誤しているうちに、最終的になにで成功したか覚えていないけれど、クレジットカードかキャッシュかで、結局、空港価格の4ドル近いオレンジジュースを買うことになった。

どの辺にいますか、という連絡が入り、この辺です、と返事をするけれど、どうもわからない、いったい互いにどこにいるんだ、というやりとりが続く。電話であれこれ説明をすると、向こうがこちらに気づいたらしく、「こっち来てください」と言われた。「こっち」がどこかわからず、キョロキョロとしていると、トラックのそばでキャップを被った男性が電話を構えているのが見えた。スーツケースを引きずり、パタパタと駆け寄る。

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以前乗せていただいたのは自家用車だったので、まさかトラックとは思わなかった。荷台にスーツケースを乗せ、エアコンの効いていない助手席に乗り込む。この日のためにエアコン直したんであとでかけますね、と、櫻井さんは言ってくれたけれど、車が走り出すと、窓の隙間から入りこむ風がそれなりに涼しかった。

車窓の外のサイドミラーに映る自分を見る。Arizona Sake・櫻井さんに会うべく、アリゾナ州へやって来た。今日からまた新しい旅が始まる。

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