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ウニへ

その日は中秋の名月で、8年ぶりだというその満月は、雲の狭間で輝いていた。 午後10時をすぎたころであっただろうか。仕事の関係でとある警察署に入ってすぐ、受付の片隅置かれた錆び付いたケージに気がついた。 「何かいるんですか?」 「拾得物で、ねこ!迷子のところをひきとられて、  一昨日来たばっかりでね。  ちょうど今日もみんなで、  飼い主見つかるといいねっていうとったんよ」 見ると、小さな黒い毛玉の塊がケージの隅で丸まっていて、顔こそよく見えなかったものの、寝息を立てて

    • 握りたかった寿司

      欲望というのはいつも不意にやってくる。 不意にやってきて、いつの間にか姿を消すこともあれば、ひとの心を勝手に掴み、簡単には離してくれないことだってある。 今回は後者だった。 勤務中、15時過ぎ。 一通り仕事を片付け、ボケーっとしていた時にそれは急にやってきた。 ………『 寿司握りたい!!!!』 どうしてそんなことを思ったのかはわからない。 しかしその欲望は、その後約5時間にわたり私の心を支配し続けたのである。 それからというもの、頭の中で寿司を握るイメージトレーニン

      • おばさん記念日

        お気に入りの手ぬぐいをポケットからいつのまにか落としてしまったようだ。 帰りのタクシーでそれに気づいてから、悲しみと静かな怒りが堰を切ったように溢れ出る。 なんでそもそもスマホを2個も持たなければいけないのか。名刺入れや社員証もすぐに取り出せるようポッケに入れておきたいし、そうなると何かがいつも気付かぬうちに落ちている。仕事中はだいたいせかせかと動いていて、先日も知らぬ間に名刺入れを落とし、警察署に取りに行った。 あーもう本当に仕事辞めたい、転職したい。しかし全然貯金がない、

        • 高校生日記

          あなたの青春ソングはなんですか。 日曜夜8時すぎ、行きつけのジャズ喫茶からの帰り道。明日からまた仕事かとげんなりした気持ちを引きずりながら何気なくマツキヨに寄った。 店に入るなり「これはもしや...?」と四つ打ちビートにじんわりと熱が込み上げるのがわかった。 『♪〜君を待った 僕は待った 途切れない明日も過ぎてって 立ち止まって 振り返って とめどない今日を嘆き合った〜♪』 やっぱりだ!!!!! ASIAN KUNG-FU GENERATIONのRe:Re:!!! 201

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