6月下旬発行予定の新刊紹介

6月16日以降に発行される、新刊についていくつか取り上げて紹介します。
上旬分はこちらです。

短歌集、音楽系の本で結構面白そうなものが多かったです。エッセイは相変わらず元気があるジャンルですが、その中でも、特にオルタナ旧市街「踊る幽霊」が注目です。

  • 6月17日発売予定

・クバへ/クバから(三野新、いぬのせなか座)
ジャンル:写真
・セザンヌの犬(古谷利裕、いぬのせなか座)
ジャンル:小説
・TEXT BY NO TEXT(橘上、いぬのせなか座)
ジャンル:戯曲

いずれも「いぬのせなか座」から発行。「いぬのせなか座」は、山本浩貴主催の「制作集団」であり、「言語表現」というキーワードをもとに文章や本を作ったり、レクチャーやワークショップなど多彩な表現を行っている。取引がしやすい版元でありながら、デザイン的にモノとして優れた本を作っているし、内容もおもしろいので独立系書店には結構置いてある印象。既刊の新版もいくつか今月発売予定になっていたので、気になったものから手にとることをおすすめします。

  • 6月18日発売予定

・山の観光史(高嶋修一、日本経済評論社)
ジャンル:観光
山登りには勝手に苦手意識がある。山を登ったからなんなんだという謎の反発を持っているのだが、この年になるとそういうものを収まってきて、自然の中に行ってみたいという気持ちも芽生える。でも、そもそも山ってみんないつからそんなに行きだしたの?そんな疑問への1つの答えが見つかりそう。目次を見る限り、山の観光化の歴史がかなり多くの事例をもとに語られているようで興味がある。

  • 6月19日発売予定

・地震と虐殺 1923-2024(安田浩一、中央公論新社)
ジャンル:社会
都知事選が近いということもありますが、あらためてより多くの人に読まれてほしいトピックです。あったことをなかったことにするのではなくて、あったことをどう考えて進んでいくかという立場にありたい。

・なぜBBCだけが伝えられるのか(小林恭子、光文社)
ジャンル:メディア
日本にいるのに報道の主役がBBCということが、近年立て続けにあったような気がしていて、世界的な事象が発生すると、BBCを開いたこともある。それでもなぜBBCなのか、そもそも他と何が違うのかはよくわかっていないので、この機会に読みたい。BBC万歳だけではなさそうなのも注目。

・名前を言わない戦争(ジェイソン・スターンズ、白水社)
ジャンル:政治
名前がある戦争だけでももうたくさんだという気分なのだが、「新しい戦争」はまだあるらしい。それがあるということを知っているかどうかだけでも身の振り方は変わると思って手に取る。

・ポピュラーミュージック大全(ケレファ・サネ、早川書房)
ジャンル:音楽
ポップミュージックの7大ジャンルを網羅して、50年史を描くなんて、正直そんなの1冊では無理じゃない?と思いつつ、600ページ越えの大著ということで、期待せざるを得ない。各ジャンル解説本でいいものが近年多いので、そこと比較したり、大きな潮流を把握するにも良さそう。

・国歌 勝者の音楽史(上尾信也、春秋社)
ジャンル:音楽
着眼点がかなりおもしろそう。国歌への思い入れは特にないのだが、海外の国歌を聴くと日本のものとはテイストも違うし、国によってかなり印象が異なるので、国によって使われ方や国歌と国家の結びつきにも差があるのだと思う。利用のされ方みたいなものが気になる。

・約束(デイモン・ガルガット、早川書房)
ジャンル:小説
イギリスの文学賞「ブッカー賞」の受賞作品。南アフリカを舞台にアパルトヘイト以前と以後の社会変化の影響を受ける家族の物語。海外文学の何を手に取るかは正直かなりフィーリングによるところが大きいが、英米文学や近年はアジア文学を手に取る機会が多いので、自分の中のバランス的に気になった1冊。

・サイバースペースの地政学(小宮山功一朗、早川書房)
ジャンル:政治
めちゃくちゃおもしろそう。結局回線とかデータセンターって大事だよなというのは仕事をしていても思うが、軍事的にもそれは同じで、でもどうなってるかなんてまず明かされない。そういうところに切り込んでいるのではという期待を込めて。

  • 6月20日発売予定

・AIは短歌をどう詠むか(浦川通、講談社)
ジャンル:科学
AIには短歌は詠めません、人間の営みなのです。みたいなことだとめちゃくちゃつまんないですが、どうやらそういう話ではたぶんない。著者は短歌を作るAIの制作者ということで、帯にある「AIにしかできないこと」ってのが短歌の場合には何を示すのかすごく興味がある。

・わたしは生きた(内藤礼、小池一子、畠山直哉、HeHe)
ジャンル:芸術
美術家内藤礼による同名の展示の書籍化。当時は完全予約制ということもあり見に行くことが難しかった人も多かったと思うので、この機会に作品と触れ合えるのはありがたい。

・ソフィアの災難(クラリッセ・リスペクトル、河出書房新社)
ジャンル:小説
「星の時」が大変すばらしい小説だったので、こちらの短編集にもかなり期待。「星の時」は、読んでいる途中でどこか知らない場所に連れていかれて呆然とする瞬間があった気がしていて、またもやそれを味わえるのかと思うとゾクゾクする。

・願ったり叶わなかったり(宇野なずき、短歌研究社)
ジャンル:短歌
ちょくちょくインターネットでこの人の短歌を見かけることがあったが、本作の帯の短歌の破壊力もまた凄まじい。著者いわく本作が「メジャーデビュー」ということなので、気になったらここから読んでもまだ追いつけそうです。上坂あゆ美、岡本真帆とかくらい注目されてもおかしくない。

  • 6月21日発売予定

・その猫の名前は長居(イ・ジュヘ、里山社)
ジャンル:小説
韓国文学には独特の魅力があり、とくに女性と社会についての関係をあぶりだすような作品の強さが際立っているように思う。今作もその延長線上で読めそうな短編が詰まった1冊だ。小山田浩子氏が推薦コメントを寄せているのもかなり信頼に足る。

  • 6月24日発売予定

・酔わせる映画(月永理絵、春陽堂書店)
ジャンル:映画
映画コラム集ではあるものの、そこに「食事」という角度が追加されると、よりとっつきやすく感じられる。映画の食事や食べ物の描写については、TBSアナウンサーの山本匠晃氏がラジオ内でかなり鋭い見解を述べていて面白いと思っていたので、映画ライターによるその角度に特化したものというので期待。

・なぜ人はアートを楽しむように進化したのか(アンジャン・チャタジー、草思社)
ジャンル:芸術
「アート」の楽しみ方に関しての本は近年いくつか出版されているが、そもそもなんで楽しむようになっているのかというのは1つ進んだ(戻った?)視点かも。著者はTEDで「脳はどのように美しさを判定するか?」という講演を行っており、神経科学などの世界的権威。

・非美学(福尾匠、河出書房新社)
ジャンル:哲学
注目の哲学者による最新刊。本格的なドゥルーズ論なので、私を含む門外漢にはなかなか難しい内容かと思いつつ、ゼロ年代以降の日本の批評に即した「否定神学批判」に関する記述もあるとのことで、日本の批評の最先端として、時間をかけて読む価値は大いにあると思われる。

  • 6月25日発売予定

・[図説]ナチスに盗まれた美術品(ジェームズ・J・ロリマー他、原書房)
ジャンル:芸術
ちょこちょこ見かける、ナチスによって略奪された美術品の返還に関するニュース。ナチスがそういった行為に及んでいて、なくなった美術品もかなりあるということは知っているが、具体的にどんなものがあって、現在どうなっているのかまではよく知らないので、気になった1冊。盗まれた美術品230点以上の図版が収録されており、盗難品の捜索・押収を行ったアメリカ陸軍による実録もの。

・「ビックリハウス」と政治関心の戦後史––––サブカルチャー雑誌がつくった若者共同体(富永京子、晶文社)
ジャンル:社会
70年代の若者たち=60年代の反動により政治に無関心というのが定説的に語られることが多いが、その点を「ビックリハウス」という雑誌から検証している1冊。個人的には、こういった言説を取り扱う際に「女性」や「マイノリティ」に関する内容をほとんど読んだことがなかったので、目次にそれがあるだけで、読んでみたくなった。

  • 6月26日発売予定

・ほんとうのことは誰にも言いたくない(ヤマシタトモコ、フィルムアート社)
ジャンル:エッセイ
有名マンガ家による全編語りおろしのインタビュー本。有名マンガ家であることは知っているのに読んだことのない私のような人にも、「違国日記」が公開されて話題のこの機会にこういう手にとりやすい本が出るのはありがたい。

・踊る幽霊(オルタナ旧市街、柏書房)
ジャンル:エッセイ
必読。文フリ・zineの盛り上がりの中でも突出していた書き手の1人による待望のデビュー作。今ならまだ間に合うので、早く読みましょう。

・缶チューハイとベビーカー(パリッコ、太田出版)
ジャンル:エッセイ
おもしろ酒場ライターによる子育てエッセイとはなんぞ。子育てしながら酒をどう飲むかとはまた新しい視点過ぎる。でも親だろうと好きなものがあって、それらがなければ生きていけないというのも当然であり、実際に子育てしている人にはかなり沁みる一冊になるのでは。

・日記から(坪内祐三、本の雑誌社)
ジャンル:エッセイ
日記ブームのさなかに丁度いい本を出版したことを褒め称えたい。坪内祐三による、さまざまな有名人による日記のある一日を取り出して論じた連載を単行本化。1回が1200字程度という読みやすさも◎。

・百年の孤独(ガルシア=マルケス、新潮社)
ジャンル:小説
なんかみんな話題にし過ぎじゃないですか。と思うくらいには話題になっていて、すでに事前重版もかかっているという、説明不要の名著の待望の文庫化。7月には早川から「百年の孤独を代わりに読む」の文庫も出るので、文庫になったのを機に両方読んでみていいんじゃないでしょうか。三宅瑠人による装画が素敵。

・わたしたちの担うもの(アマンダ・ゴーマン、新潮社)
ジャンル:詩
バイデンの大統領就任式やスーパーボウルで詩を朗読したことで、いまや世界的に有名な詩人となったアマンダ・ゴーマンによる作品集。日本に住んでいる自分にこの作家のつくるものがちゃんと理解できるのだろうかという不安もありつつ、訳者いわく「ショッキングな1冊」ということでそれをまずはそのままに浴びることが重要なのではないかと思います。

・<情弱>の社会学(柴田邦臣、青土社)
ジャンル:人文
IT系の仕事についていると、リテラシーが低い人に向けた気配りができているかを求められるので、そうした人を「情弱」とすることが多いが、そもそも情弱とは誰なのか。そもそも情弱だったら生きていけない社会というのは、これだけITが発達していたらおかしい気もするのだが、そんなことを考えるのに良さそう。

・お砂糖ひとさじで(松田青子、PHP研究所)
ジャンル:エッセイ
著者のこれまでの作品はどれも面白く読んでいて、特にエッセイ「読めよ、さらば憂いなし」「ロマンティックあげない」「じゃじゃ馬にさせといて」はどれも好きの熱量が文章からほとばしっていて爽快であり、こちらにも興味をもたせる力がすごかった。今作もそんなエッセイ集なのではと今から楽しみ。

・辺境のラッパーたち(島村一平他、青土社)
ジャンル:音楽
ラップミュージックに求められ、否が応でも垣間見えるのが「リアル」だとすれば、当然のように世界のリアルがそこにはあるはずで、世界中のラッパーから世界を考えるという試みがなされていなかったことの方が不思議に感じられる。

  • 6月27日発売予定

・左利きの歴史(ピエール=ミシェル・ベルトラン、白水社)
ジャンル:歴史
自分が左利きなので、この時代でも左利きってただそれだけなのに好き勝手言われるなあと思うことが今まで多々あった。ましてや歴史的にはさぞいろいろなことがあったろうと想像に難くない。ある種自分の先祖の歴史を見るようでぜひ読んでみたい。

  • 6月28日発売予定

・音楽雑誌と政治の季節(山崎隆広、青弓社)
ジャンル:社会
「ビックリハウス」から70年代を考察する本もありましたが、こちらは音楽雑誌や音楽批評から60年代後半から70年代社会を見るということで、クロスオーバーさせて読むこともできそう。こちらは国内的なものよりも、70年代のアメリカとの距離や関係性みたいなものがもう一つ貫いているテーマになっている。

・あおむけの踊り場であおむけ(椛沢知世、書肆侃侃房)
ジャンル:短歌
収録歌として書かれていた「恐竜って」で始まる歌がめちゃくちゃ良かった。紹介されているものだけかもしれないが、身体性というか、身体を意識するような歌がなんか多くておもしろと不思議が混ざる。装画がmillitsuka氏なのもよき。

・さあ、本屋をはじめよう 町の書店の新しい可能性(和氣正幸、Pヴァイン)
ジャンル:本屋
今月下旬の本屋本はこちら。本当の本屋の需要とかってわからなくなりますね。結構本屋もがんばってるんですが、みなさんはどう思いますかって聞いてみたくなる。どうって言われても困るかもだけど。

・K-PUNK 自分の武器を選べ(マーク・フィッシャー、Pヴァイン)
ジャンル:評論
著者のブログ「K-PUNK」をもとにした書籍の第二弾。第一弾は「K-PUNK 夢想のメソッド」としてすでに発売中。文化批評から資本主義批判へという感じですが、普通に文化批評がかなりおもしろいので、それ目当てでまずは読んでみてよいのではないでしょうか。もちろん、文化と政治が不可分であることをこの本から学ぶこともできると思います。

  • 6月30日発売予定

・空き地は海に背を向けている(浦部裕紀、ふげん社)
ジャンル:短歌
震災以降に建設された防潮堤やら伝承館などを岩手県から茨城県まで納めた写真集。震災以降に被災地を舞台とした写真は多くの写真家によって撮影されているが、この写真たちに収められたものの空虚さとやるせなさは自分の生活の中で目にするものと一体化して、迫ってくる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?