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日葡辞書にみる酒の表現

 日葡辞書は、イエズス会宣教師により1603年に編纂された 日本ポルトガル語辞書。長崎で出版。アルファベット順。総語彙数は25967語であり、ポルトガル語での説明があり当時の習俗がわかることはもちろん。発音がローマ字表記されているので、和文で記録していた語彙がなんと発音されていたかわかる利点がある。酒に関する用語についてもすでにこのころ完成していたことがうかがえる。
その後作られた日欧辞書の基礎となったが原本は世界に4冊しか現存しない。1995年に岩波書店から邦訳がでている。これは邦訳からひろった用語である。また、原本も写真復刻されており、オックスフォード版は東京都図書館で閲覧できる。

A.酒の種類

(1)新酒(xinxu,xinju)新しい酒(ataraxij saqe)。
(2)古酒(coxu)古い酒(furui saqe)。
(3)清酒(sumizaqe)澄んだ,漉した日本の酒。 清酒(xeixu)清酒(sumizaqe)に同じ。澄んだ, まじりけのない酒。
(4)濁り酒(nigorizaqe)濁ったような日本の白酒。 濁り酒(nigorisaqe)→ 濁醪(dacuro),白酒(facuxu) 。
(5)濁醪(dacuro) nigori saqe. 白く濁っている,日本,またはシナの酒。
(6)白酒(facuxu)xiroi saqe(白い酒),すなわち nigori saqe(濁り酒)。
(7)醪酒(moromizaqe)まだ搾っていない酒で,すで に酒の質に変化している米(もろみ)と一緒にまざっているもの。
(8)諸白(morofacu)日本で珍重される酒で,奈良 (Nara)で造られるもの。
(9)霰酒(ararezaqe)酒の一種。
(10)霙(mizore)中に米のから[cascadoarroz]のま じり物のある奈良(Nara)産の白酒。
(11)練酒(nerizaqe),練(neri)日本の白酒の一種。
(12)菊酒(qicuzaqe)珍重される日本の酒の一種。
(13)甘酒(amazaqe)まだ泡立っていて,完全な酒になりきっていない発酵汁,あるいは,甘い酒。
(14)葡萄酒(budoxu)葡萄から作った酒。
(15)焼酎(xochのたとえば椰子酒[vrraca=urraca, uraca]などのように,火にかけて作る酒。 焼酎こしき urracaをつくるランビキ(蒸留器)
(16)薬酒(cusurizaqe)薬用酒。
(17)桑酒(cuuazaqe)桑の木片を入れて煮立てた汁で つくる日本の薬用酒。
(18)枸杞酒(cucozaqe)拘杞(cuco)という木の一種の枝や果を入れて作った酒。

B.酒屋,酒造道具,製造工程など

(1)酒屋(sacaya)酒蔵,または,居酒屋,また,酒を 造ったり,売ったりする家。
(2)酒林(sacabayaxi)居酒屋の門口に取りつけるも ので,木の枝を束ねて箒状に作ったもの。下(ximo) ではほて(fote)と言う。
(3)麹屋(cojiya)酵母をつくる家,または,それを売る家。
(4)酒蔵(sacagura)酒を貯蔵する地下倉庫。
(5)酒米(sacagome)酒を造る米。
(6)甑(coxiqi)中に物を入れて熱湯の湯気と熱とで 物を煮る(蒸す)のに使う一種の道具。すなわち, 容器。
(7)麹(coji)日本で酒をつくるのに使ったり,ほかの物に混ぜたりする酵母。Coji-muro; Cojiya; Fitomoto
(8)麹室(cojimuro)酒造用の酵母を暖めるための一種の炉あるいは窯(のようなあつい室)。
(9)酒桶(saca uoqe)酒を入れるある容器で,桶または樽(barga)のようなもの。
(10)酒壷(sacatcubo)酒の壷 ,あるいは瓶。
(11)酛(moto)日本の酒を作り始めるもとになる最初の米(飯)。それは,あとからつぎ足される物が加わ って,次第に量を増し,勢いづいて行く。
(12)醪(moromi)(酒を作る時)すでに酒になっているが,まだ搾ってない米。
(13)酒の実(saqenomi)すでに酒になっている米(もろみ)。
(14)添へ(soye)日本の酒を作るために,すでに仕込んである最初の飯に,新たに次第にさし加えていく 飯。
(15)酒槽(sacabune)酒を造るもとになる米(もろみ) を入れて搾る大桶。
(16)上げ槽(aguebune)酒槽(sacabune)に同じ。その中で日本の酒を搾るのに用いる,木製の醸造用大 桶あるいは大樽。
(17)酒袋(sacabucuro)すでに酒になっている米(もろみ)を漉すための袋。
(18)荒走り,新走り(arabaxiri)日本の酒造場で最初に搾り取られる濁り酒。*
(19)粕(casu)葡萄の搾り澤のように,物を搾ったあとに残る物,または日本の酒や油などに残る澤,また は小麦などの糠。
(20)ささの実(sasanomi)酒の粕(saqeno casu)に同 じ。これは卑俗な婦人の言葉である。

C.酒の容器

これも大変種類が多いが,主なものを大きい方から順 に並べると,
(1)酒樽(xuson)酒の樽(saqenotaru)酒の大樽 [pirarote],または酒の入った樽[barga]。
(2)酒桶(saca uoqe)酒を入れるある容器で,桶また は樽[barga]のようなもの。
(3)酒甕(sacagame)酒を入れるのに使う壷。
(4)酒壷(sacatcubo)酒の壺,あるいは,瓶。
(5)指樽(saxidaru)ある種の箱または大箱で,通常は 漆塗りにした(vruxado)もの。
(6)半樽(fandaru)ある容量,寸法の樽,あるいは, 酒樽[pipa,ou barca]。
(7)酒枡(sacamasu)酒の枡(saqeno masu)。酒を量 るのに使う木製の量器。
(8)酒柄杓(sacabixacu)ココ椰子[coco]の形をした 一種の容器 ,柄がついており,酒を汲み取るのに使 うもの。
(9)錫(suzu)錫。また,酒を入れるのに使う錫製の徳 利,あるいは,筒形の瓶。
(10)鶴頸(tgurucubi)酒徳利の一種。青銅製でgalhetas 〔食卓用の油,酢を入れるガラス製の小さな容 器〕あるいはguindes〔インドの水差しの一種で, 口の狭い瓶〕の形に似たもの。
(11)瓶子(feiji)木製の酒徳利の一種。

D.その他 酒以外の発酵食品

(1)醤(fixiuo)よく搗き砕いて粉にした大豆(graos), 麦や塩などでつくる食品の一種。
(2)醤油(xoyu)酢に相当するけれども,塩からい或る液体で,食物の調味に使うもの。別名簀立(sutate) と呼ぼれる。
(3)簀立(sutate)日本で食物を調理し,味をつけるために非常によく使われる,小麦と豆から製する或る 液体。
(4)垂味噌(taremiso)漉した味噌。
(5)溜(tamari)味噌(miso)からとる,非常においし い液体で,食物の調理に用いられるもの.
(6)酢(su)酢。
(7)奈良漬(narazzuqe)香の物(Conomono)の代りにつくる奈良の或る漬物。

以上は、吉田元「外国人による日本酒の紹介」によるhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/88/1/88_1_56/_pdf

E.飲み方、米

(1)熱燗 Atcugan 非常に熱い酒
(2)醸した Camoxi, uru, ita 漉す。
(3)燗鍋 Cannabe 酒を入れて熱する小型の深鍋。
(4)酒 Saqe.
Saqeuo nomasuru 酒をのませる。Saqeo susumuru 酒を飲むようにすすめる。Saqeni yo. 酒にほろ酔いする。または、深酔いする。Saqeni choziru | fitaru 酒に長じる|酒に浸る。
(5)一献 Iccon 魚の数や酒の(飲む)回数の数え方。Icconuo moxi aguru(一献を申し上ぐる)貴人や高位の人のために酒盛りを催す。
(6)酔飽 Suibo Yoi acu.(酔い飽く) 過度にもうそれ以上は飲めないまで飲むこと。Suibo sureba cocoro qioran su.(酔飽すれば心狂らんす)酒に酔うと心が混乱する、あるいは正気を失う。
(7)飲酒 Vonju Vonjucai(飲酒戒)酒を飲んではならぬという釈迦(Xaca)の教戒のひとつ。
(8)古米 Comai Furugomeに同じ。古い米。
(9)ひね Fine 一年を過ぎた古い種子。
(10)ひね米 Finegome Furugomeに同じ。一年、または二年たった古い米。
(11)古米 Furugome | finegome 古い米。comai.

F. 味わい

(1)極味 Gokumi Quiamatta agiuai(極まった味はひ)極めてすぐれた味や風味
(2)無味 Mumi Agiuai naxi.(味はひ無し)味がないこと。比喩 Mumina fito. 面白味のない。つまらぬ人
(3)苦い Nigai. Nigasa. Nigo
(4)酸い Sui. Su. Susa
(5)うまい Vmai 味のよい、あるいは、おいしい(もの)
(6)塩はゆい Xiuofayui Xiuafayui 塩がきいて塩からい(もの)。または、塩味のある(もの)
(7)辛い Carai 胡椒、辛子などのようにぴりぴり辛い(もの)

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