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昭和少女まんが好きと、少年まんがで育った同級生が駄弁る 後編 【対談】

少女漫画と少年漫画。正反対な環境で育った平成生まれの同級生2人が、漫画についてとことん話してみました。少年・少女漫画の枠の広さや性差と嗜好についてなど、少女漫画を語っていたら平成という時代が浮かび上がってきました。

後編では子供時代の思い出から、少女漫画とは何かを探ります。
前編はこちらからどうぞ。

逆盥水尾:昭和の少女漫画が好きで読み漁っている。
     平成以降の少女漫画にはうとい。
みかづき:主に週刊少年誌を読んで育った。少女漫画全般にうとい。対談前に逆盥
     から聞いた少女漫画話で、漫画の区分は掲載雑誌の違いだと知る。


オタクが馬鹿にされていた時代

少年漫画好きだったみかづきさんは、オタクに対する風当たりの強さを肌身に感じていたという。一方オタク友達しかいなかった逆盥は同じ頃、周りは気にせずオタク街道をひた走っていた。

み:中学の時に流行ってたのが「君に届け」。ああいうほんとに純粋恋愛キラキラな、あれは何?
逆:あれ中学だったんだ。あれは少女漫画だよ。
み:あれはすごい流行ってて。キュンとするみたいな。小学、中学はファンタジー系とかのアニメや漫画を見るオタクを馬鹿にする風潮がマジで強かった。ファンタジーぽさが入るとオタクと馬鹿にされ、美少女でなんか男を釣るんでしょみたいな感じが空気があった気がする。


逆:「君に届け」は全然オタクじゃないよね。あれじゃない、萌えの概念があったから。そういう系はオタクのもので、青春爽やか系は漫画やアニメであってもそんなオタクじゃないというか。
み:実写ドラマができそうなやつは受け入れられたのかもしれないね、

逆:少女漫画の方がどっちかというと映画になりやすいし、ドラマにもよくなるっていうか。少年漫画の方がアニメが主流な気がする。
み:やっぱり現実離れしてるかしてないかの違いかなあ。子供の頃にさ、アニメなんて子供のものだから見るのやめましょう、みたいな。
逆:そうだった?
み:そういう風潮あると思う。「アンパンマン」も何歳まで観てるの? って。わたし好きだったから中学くらいまで見てたんだけど。でも幼稚園で卒業ね、というような印象はあった。アニメ=子供のもの、漫画=子供のものだからもう卒業ねみたいな、何となく圧力があったのかもしれない。今の時代はね、そんなことないけど。

逆:まだそういう時代の弊害があったんだねえ。
み:弊害けっこう感じてた。馬鹿にされてたし。同級生は、嵐のことばっかり話してたから。
逆:そうなんだ。言われてたんだと思うんだけどさ、何も気付いてない(笑)全然気付いてなかったけどそういう風潮も存在していたのか。
み:環境にもよると思うけどね。
逆:学校にもよるよね。

み:みんな前日見たドラマの話をして、俳優の誰々がかっこよかったとか。
逆:えーすごい、少女漫画みたい。
み:え、そうなの!?
逆:よく少女漫画でさ、「昨日のドラマ見た?」みたいな会話してない? で、そんな会話しねえだろって思いながら読んでた。
み:いやめっちゃそれ多かったよ、みんな話すことがないから前日のドラマの感想とかばっかだよ。
逆:それでその感想を言うためにそういうのを観るみたいな。
み:あ、そうそうそう。
逆:リアルだったんだ。
み:リアル、それリアル。
逆:フィクションだと思ってた。

み:逆に何の会話してたの?
逆:何の会話してたんですかねえ。友達はいたと思うんだけど。まあ部活の話とかはしたよね。部活の話と授業の話と。
み:学校の話だけ?(笑)
逆:あ、ボカロにハマり始めてからはボカロとかそういう話はしてた。
み:あーじゃあ元々気の合うオタク仲間というか。
逆:あ、そうだね、そういうのを喋れない人とは喋らんみたいな。
み:ドラマの話出ないね。
逆:出ない。
み:いいね。

逆:だからクラスの目立つ女子がHey! Say! JUMPにハマってるのを、Hey! Say! JUMPとは一体何だろうかと思いながら端から眺める。
み:ジャンプ雑誌の派生だろうかってマジで当初思ってた。
逆:(笑)距離がね、ちょっと。
み:違うよね。文化圏というか生息地がね。それは親のね、影響だと思う。

唯一のメディアがベネッセ

子供の時に得る情報には、家庭環境が大きく作用する。外界との接点が少なかった逆盥が生きてきた世界は、ベネッセと昭和でできていた。

逆:当時の流行はベネッセ経由の情報しかなかった。
み:なんでそんなベネッセが情報誌みたいになってんの。
逆:ベネッセに、勉強だけじゃつまんないよねというので、お楽しみ雑誌みたいなのがついてたから。で、そこでしか正直世の中との接点がなかったの。だから、「こういうものが流行ってるのか〜分からんなあ」と。
み:へえ〜、面白い。わたし今テレビが家にないから、X(旧twitter)とかで今こうなってるんだなって見るんだけど、そんな感じってことよね。
逆:そうね。メディアって感じ。
み:唯一のメディアがベネッセは、めっちゃ珍しいと思うわ。

逆:テレビニュースでも最近はこれが流行ってるとか言うけど、そういう道楽ニュースみたいなのはあんまり流れてなかったから。ベネッセを見て、世の中ではこのようなものが流行りなんだなと。
み:今ナウいんだと。
逆:小学校と家の行き来とその間の公園くらいしか行かなかったから。間に商店もないし、接点がないのよ。

み:もうあとはクラスの人の話を聞くぐらいしかね。そう考えると今ってやっぱり情報が得やすい時代だね。
逆:子供でも携帯持ってたりね。パソコンが中学校くらいの時に我が家にやって来て、そこで一気にサブカル系の情報が入って来て、こんなものが世の中にはあるんだーって。
み:一気に広がったね。守られてというか、色々シャットダウンされて生きて来てたんだね。
逆:そう、わたしの生きている世界は昭和って感じだった。親の趣味の世界で生きてたから、同世代の人たちがみかづきさんのような生活を送っていたなんて露知らずって感じ。

み:わたしはそれこそ少年漫画読んでたから。アニメ化したっていうのも「ジャンプ」に情報として載るんだよ。
逆:ああ〜。
み:だから「この時間にやるんだ、観たい」って思って観たりもしてたから、
逆:なるほど。

み:もちろんジャンプだったので、健全な時間というか、深夜アニメは観なくて。深夜アニメはエロいもんばっかみたいなイメージもあって、つけてると怒られそうだし。
逆:その時代はまだそういう風潮だったね。最近は時間を問わず観られるようになったから、深夜アニメもみんな観る感じになったよね。
み:そうだね。今はわたしアマプラでしか観てないもん、アニメ。テレビがないから。
逆:時間なんか関係ねえって。何時に放送してようが観たいもんは観るし。
み:そうそうそう。

女性向け、男性向けとは?

少女漫画と少年漫画の内容の違いとは何だろう。王道のものは物語の構造に特徴があるようだけれど、それを女性向け・男性向けと認識してしまう理由はどこにあるのか。話が行き着く先はやっぱり育った環境だった。

み:女性向けと男性向けの作品の違いについてこういう話を聞いたことがあるんだけど。女性向けは環境に縛られる。たとえば王族の娘だけど裏切りにあって、みたいなところから始まってその後結局王子に拾われるというようなシンデレラストーリーの流れ。男性向けはそうじゃなくて、自分の行動力で成り上がるとか勝ち上がるとかそういうのが多いって。そう考えるとわたしも自分の作品書く時に、環境ベースが主体だなって。
逆:あ、女性脳だということ。少年漫画読んで育ったのに?
み:読んでたけど、結局女性脳だなって思った。だからそこの殻を破りたいなーって思っている。

エドマンド・デュラックのシンデレラ

逆:成り上がってく系の話って多分少女漫画にもあるんだけど、どうしても少年漫画テイストになるというか、少年漫画っぽい話の運びで、絵は少女漫画だよね、みたいな印象を受ける気がするの。
み:うんうん、そうなるね。前提としてそういう知識があるから。
逆:少女漫画として読んでるけど、でも展開的にはこれ少年漫画っぽいよなーって。
み:思っちゃうね。そうだそうだ。

逆:何かしらの住み分けのようなものがあるよね。だからそれを少女漫画としても受け入れられるんだけど、でもちょっと違うところにあるよねって思っちゃう。何で何だろうね。
  物語の種類は結果的に何パターンかに集約できるという類型の分類の話があって。その中のこれは男性が好みがち、これは女性が好みがち、みたいなパターンが分かれてて、少年漫画と少女漫画はそれぞれそこのセオリーに乗っ取って描かれているってことなのかも。こっちの方がウケるからみたいな感じで。
み:そう、ウケるからはあると思う。
逆:女性向け男性向けというよりは、「こういうのがウケるよね〜」って蓄積されている感覚がみんなの中に何となくあって、作る時にそこからの選択になるのかなという気はした。

み:うんうん。でも昔の話をすると、妻は家庭を守って武士は成り上がってくみたいな状況だと思うので、そういうところからもきているのかな。
逆:虐げられてきた記憶というか、自分の力ではどうしようもできないみたいな。
み:そうそうそう。そうすると環境メインになる。
逆:少女漫画黎明期のお涙ちょうだいものなんてまさにそれ。親が死んでとか、おじさんが悪人だったとか、もう自分にはどうしようもできませんって。
み:シンデレラストーリーだよね。その方が共感できる、わたしは。

逆:多分ね、少女漫画って共感が一番大事だから、共感と憧れ。成り上がってく系の話って共感できないんだと思う。「頑張れー」と応援して、「自分も頑張んなきゃな」とはなるかもしれないけど、「あーそうだよね分かる」とはなかなかならないというか。
み:そうだね。そう、共感できないのは読みづらい。
逆:あれじゃない? 少年漫画はさ、働かせるために、出世目指して頑張るぜ、みたいなスピリットを支える。自分も頑張んなきゃってなる。
み:心の支えになってくれるみたいな。
逆:熱く盛り立ててくれるみたいな。
み:熱血的な。体育会系だね。

逆:文化系の男子ってけっこう少女漫画好きな人いるじゃん。多分メンタリティがバトル向きの人とバトル向きじゃない人といて、バトル向きの人には男性の方が多い傾向があって。
み:そうね。それは男性ホルモンの違いとかもあると思う。
逆:確かにね。あとは育ってきた環境とかね。
早:環境はほんとあると思う。

少女漫画たる所以はポエム

読もうと思えばいつでも少女漫画を読めるのに、敢えて読もうという気になれないのはなぜなのか。話すうちに、ポエムに共感できないと、少女漫画の物語世界に入り込めない実態が見えてきた。

逆:今からまた少女漫画を読もうという気はない?
み:今少女漫画を読むかと言われると、「ハチミツとクローバー」的なものが少女漫画であるならば、ちょっと読みづらいなとは思ってて。
逆:読みづらい。
み:それはやっぱり少年漫画っぽさがないというか、日常ものって読みづらいなって思っちゃう。現実に即しすぎてるとちょっと物足りない。わたしが過ごしてるのと同じものは別に見たくないので。

逆:多分ね、本質的なところではわたしたちすっごい似てると思うの。わたしは少女漫画でもSFとファンタジーが一番好きで、学園恋愛ものはそんなに好きじゃない。自分の日常に近いものは求めてないという意味ではとても近しいところにいる。ただその求める先が何かっていうのが違うだけで。
  例えば70年代とか80年代ってSFとかファンタジーの少女漫画もいっぱいあるの。もう乱立してるの。そういうのを、わざわざ読もうとは思わないんだよね?

み:少女漫画のSFものの、青年漫画とか少年漫画のSFものと違いっていうのは?
逆:あのね、ポエミー。
み:ほえ〜〜。
逆:詩的な文章と一枚絵で構成されているページがあって。詩と一緒に、例えば空を見上げている女の子がいて、背景に何となく木がさわさわ、みたいな絵が入る。これがSF少女漫画のSF少女漫画たる所以だとわたしは思っている。
み:あーなるほどね。わたし「ぼくの地球を守って」読んだよ、あんまり覚えてないけど。あれのイメージ。

逆:必ず抒情的なコマが入る。そういうのが入ってないSFの少女漫画っていうのは少年漫画っぽいのよ、バトルものだったりとか。これは少女漫画だなって誰もが読んで思うやつだと、そういうポエミーなページが入る。
  でそこがわたしは好きで、「なんとな〜くSFチックな世界観で夢見がちなこと言ってる〜」みたいなところが好きだから。みかづきさんはもっとこう、ストーリーを求めてるわけじゃん。
み:ストーリー大事。少年漫画の主人公ポエム読まない。
逆:だよね。あとヒロインが泣き虫とかさ、そういう設定だとやっぱり少女漫画だなって思ったりはする。
み:あ〜戦える女主人公じゃないね。
逆:追い詰められたら強くなるけど最初は泣き虫とかね。そういう主人公は多い気はする。
み:ああ、ようやく少女漫画が。ちょっと分かった

逆:みかづきさんはポエムがダメなのか。
み:そうなんだよ。多分わたしがポエムにあんまり触れてきてないのもあって。少年漫画にもゲームにもないんだよ。学んでこなかったから、ポエムの読み方を。読んで「あーすごい分かる」ってポエムは圧倒的に少なくて、読んでも「分かんないなー」と思ってスルーして入り込めない。
逆:あ、そうするとレトロな少女漫画は一生読めない気がする。
み:そうかもしれん。

逆:絵が少女漫画っぽいのは多分読めるんだけど、メンタルが少女漫画っていうのが。
み:メンタルが少女漫画ね。分かるわ。ダメかも。何か強くなっていく過程があると読めるけど、ポエムがあるとその世界観に入りづらい。世界観に浸れないね、ポエムがあるものは。
逆:なるほど。それは少年漫画で育ったからなんだろうね。逆にわたしは少年漫画が読めなくて。昔は絵柄ももう全然ダメだったの、全パスって感じで。
み:育ち方がもう英才教育みたいになってんだけど(笑)

逆:だけど最近は少女漫画に限らず、まんが図書館とかで色々読むわけ。
み:あ、いいじゃん。
逆:少年漫画とか青年漫画とかでも気になってたやつを手当たり次第読むと、色んな絵柄に強制的に触れることになるから、そうすると読める絵柄が増えるのよ。
み:おめでとうございます。なんか箱庭から出てきた(笑)面白いね。わたしも少女漫画を強制的に読むことがあれば。
逆:そう、強制的に読まされ続けていると耐性ができて読めるようになるかもしれないけど。

み:もうちょっと若い時にやりたかった。
逆:受け入れられる態勢がないとね。でさ、わたしは今ひたすらまんがを研究したいから多少無理をしてでも読むみたいなところはあるの。ちょっと好きじゃないけどまあでも読んどこうかなって。どうしてもこれはまだ無理っていうのはもちろんあるんだけど、ずっと読んでるとそこももしかしたらいけるようになるのかもしれないみたいな。だけどみかづきさんはそこまでの無理をする必要が全くないわけじゃん。娯楽として読んでるから。
み:そうだね。

逆:そうすると少女漫画のところにはコミットしてこない。
み:そうだね、触れないね。
逆:で、もしかしたら世の大半の人はそうなのかもしれん。

成長する中で育まれてきた個人の価値観と、何となく周囲の人々と共通してもっている価値観。そのバランスをどう取るかは各々に任せられています。
残念ながらみかづきさんは今後もあまり少女漫画の世界に来ることはなさそうですが、「自分がどういうものを好み、なぜそれを好むのか」を知る作業の意義を感じる時間でした。


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