フォローしませんか?
シェア
宮田みや
2021年8月1日 23:26
昨日俺は確かに会社を無断欠勤した。何度も震えたポケットの感触や、留守電に残された番号の記憶は真新しいと言っても過言ではないほどに。なのに、昨日、俺はなぜか会社に出勤したことになっていて、あろうことか周りの同僚たち——上司や後輩を含む全員である。——も俺が出勤していたとそう信じ込んでいるようだった。俺は、まさしく狐につままれたような感覚に陥った。現実に、こんなに俺にばかり都合のいいような
2021年8月2日 23:54
ばたばたばた、目まぐるしい日々なのです。楽しくて、浮かれて、走り回って、息切れして。正直酸欠でもう前が見えないくらいなんだけど。貧血起こして解像度下がった視界みたいに、耳鳴りでよく聞こえない世界みたいに、どこか遠くに見える目の前の景色。ああ、一生忘れないんだろうな、なんて無責任に考える。永遠の約束も、絶対の誓いも、全てはユートピア。いつか蜃気楼みたいに消える。消えなかった時にだ
2021年8月3日 22:29
お気に入りのマグに入れたコーヒー、少し濃いめで、苦くて酸っぱい。お湯で薄めてアメリカンにしたり、はちみつを垂らしたり、ミルクをたっぷり入れるときっと、ちょうどいい。月が落っこちて来そうな夜。ひとり、静寂に包まれる。こういう時はなんだか、テレビやラジオの音はやけにうるさくって、だのに消したら静かすぎて居心地の悪い。コーヒーは苦くて、熱い。座り込んだソファにずぶずぶと沈む。沈んで、
2021年8月4日 21:37
夏の雲は、なんだか美味しそう。ふわふわしてて、もっこもこで、なんがむっちりしてるから!あっちにあるのは入道雲、あんなに大っきくて、あんなに目立ってるからきっと、寂しんぼだ。私たちに見つけて欲しくて大っきくなったから!遠くから見るとすごく立派なくせして、近づくととビリビリ大泣きだもの。私はせっせとてるてる坊主こさえて、明日の天気を祈ります。祈っても祈りきれないほどぴーかん照りの毎日だけ
2021年8月5日 23:49
『全員に好かれようだなんてどだい無理な話だろうに、どうしてそんなに嫌われるのが怖いのさ。』アーサーは私にそう言った。アーサーというのは、異国の友でもなく、金髪碧眼の王子でもなく、私がまだブサイクでつるっぱげな赤ん坊の頃から一緒にいるクマのぬいぐるみのことだ。アーサーは口うるさい。すごくうるさい。私の思春期のちっぽけな悩みなんて全部正論でぶっ飛ばしてくる。優しさなんてかけらもなくて憎たら
2021年8月6日 23:48
等級−1.5の水星、ここからは見えない光。遠い遠い宇宙の彼方、思いを巡らせる。いま、なにしてる?あなたはどこで光ってますか?怒っているのか、踊ってるのか、それともめそめそ悲しんでるか、お腹抱えて大笑いしてるか?望遠鏡覗き込んだ先に見えない景色を想像します。僕の頭の中では、衛生写真で見たはずのあの景色からさらに脚色されたド派手な世界が広がっていて、まだ見たことも、聞いたこともない地球
2021年8月8日 00:07
ちくちく、ちっくん。針で縫う。白い布にカラフルな糸。どんな景色を刻みましょうか。あの日あなたがくれた花。それともあの夜ふたりで見た月?ちくちく、ちっくん。糸で刻む。ちくちく、ちっくん。針で紡ぐ。祈りを込めて、希望を込めて、あなたに明日がきますように。明日天気であれますように。どうかあなたの進む道が、ほんの僅かでも健やかであればと。祈りを紡ぐ、祈りを刻む、想いを込めた糸で
2021年8月8日 23:31
傘は台風にさらわれた。暴風雨吹き荒ぶ空、ひとり彷徨いながら傘は思う。このままどこに行くのだろうか。ばさりばさばさ風受けて、ひらりひらひら飛んでゆく。途中、何本か折れた骨はけれど、ちっとも痛くなんかなくて。正直、自分のことさらっていった台風が怖くないと言えば嘘になる。姿の見えない風を抜いて、広い空にひとりきり、心細くないって言えば嘘になるそれでも、そんな些細なことなんて、全部吹っ飛ばさ
2021年8月9日 23:50
眠れないから言い訳に、あなたのこと想像してみる。目を瞑る言い訳にあなたを思い浮かべてみるの。瞼の裏側、真っ暗闇にあなたは中々来てくれないから、あたし少しだけ焦ったい。あたしに笑いかけてくれたあの日こととか、一緒になって喧嘩した時のこと思い出す。唇から覗く八重歯が、とってもキュートであたし、いつも少しだけ注目しちゃう。あなたの声も、あなたの匂いも、今はもうなんだかぼんやりしちゃって、いつ
2021年8月11日 00:17
“あの星の下で、いつかまた。”なんて、遠い昔にした約束。君はまだ、覚えているだろうか。忘れたくても忘れられない、あの満点の星空の下、一番輝く赤い星に、二人で誓ったいつかの約束。どれほど時間がかかっても、どれほど遠く離れても、二人のこころに刻まれた、永遠に繰り返される消せない約束。僕は、この約束で生きているけど、君はこの約束で縛られていないか、それだけがいつも不安であって、そんでもって
2021年8月11日 23:50
地球に迫りすぎた太陽が、海を沸騰させるくらいの温度で空を覗き込む。アスファルトの照り返しと空からの熱気でぼんやりする頭を抱えて、街を歩く。眩しいくらいに真っ青な空。ビルの隙間から覗く雲が真っ白で、目が痛い。やっと入った日陰で佇む。煩いくらいに蝉の鳴き声、耳いっぱいに広がって、世界にひとり立たされた気分。後ろから通り抜けた自転車で、すぐに現実に引き戻される。あ、そうだ。冷蔵庫にスイ
2021年8月12日 22:40
マラソン、走り続けて、なんだか足の感覚なくなったよう。むり、とか、むりじゃないとか、そういう話でなくて、ただ、進まなくちゃいけなくて、見えない力に背中をおされて、ひたすらにまえと思う方向へ進んでる。きっと、僕がその先をまえと思ったから。まえであるのだとひたすらに信じ込んだからいま、こんなにもわき目も降らずに走れているのだろう。とおもう。流れる汗が風で散っていく。涙なのか、汗なのか、それ
2021年8月14日 06:45
時々、長い夢を見る。あまり夢を見ない方がだけど、その夢は何故か覚えてて、なんだかすごくドラマチックだったり、壮大なストーリーだったりする、その夢では、登場人物のひとりだったり、神さまだったり、その時によってまちまちだ。同じ夢を何度もみる。でも、同じだけど、同じじゃなくて、同じストーリーのなかで違う人として生きている。夢なのに、都合が効かなくて、嫌な思いや怖い思いをする。その夢のなかで
2021年8月14日 23:06
その少年は、いつもひとりでした。ひとりで、月を見ながら歩いていました。月は少年を追いかけてくるけど、近寄ったら離れていくので、正直いうと少年は月のことが嫌いでした。けれど、ほかに見るものもなくて、だから仕方なく月を見ながら歩いていました。痩せては太り、時折姿を隠しながら、少年について回る月のことが、少年は嫌いで、けれども憎めずにいるのでした。その世界にはなにもなくて、ただ、荒廃した世