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空想日記

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あなたの知る私ではない『誰か』から届くメッセージ。日記のようで、どうやら公開して欲しいみたいだったのでここで。ちっぽけな世界のちっぽけな私のここから、私の元に届く誰かからの日記。… もっと読む
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2021年1月の記事一覧

ep.24 翻る旗

ep.24 翻る旗

『認証コードが入力されました。強制情報開示コードの開始まであと……』

無慈悲に鳴り響くアナウンス。
抵抗一つ見せないユク。

どうして。

伸ばしていた手を下ろしてしまいかけた次の瞬間、

ドオオオン!!!

遠くの方で大きな音が聞こえた。
音の後すぐ、足元が激しく揺れる。

ドン!!バン!!ドゴン!!!

間髪いれず彼方此方から大きな音と激しい揺れが襲ってくる。
私が事態を理解する頃には、高い

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ep.25 約束

ep.25 約束

「ふざけるな!離せ!!誰が要求を受け入れるものか!!」

喚き散らすエレンを連れたノエマ達は、崩壊の進む最中、瓦礫の影へと消えていった。

「ユク!」
私はユクの元へと駆け寄り、彼に繋がっていたコードを乱暴に取り外した。
「早くこんなとこから出ましょう。危険ですし、あなたには言いたいことが山程あるんです。」
一本、また一本と外しながら早口に言う。ユクの言葉を聞くのがなんだか少し怖かった。

「ナナ

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ep.26 おやすみなさい、そしてさようなら。

ep.26 おやすみなさい、そしてさようなら。

中央管理塔の最深部の更に奥深く。隠された空間にマザー・ノエマは君臨していた。
外の騒ぎであらかたのの絵馬が出払ったその場所を制圧するのに、大した時間はかからなかった。

「やあ、会いたかったよ。はじめまして、マザー・ノエマ。僕はユク、君を終わらせる者。」
立ちそびえる彼女に挨拶をする。

『侵入者を確認、ただちに退出することを命じます。』
警告を無視して足を進める。
『防衛システムを作動。全ノエマ

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ep.27 夜の月

マザー・ノエマが破壊され、全てのノエマが解放されてから、今日で5年になる。
中央管理塔が崩壊したあの日、レジスタンスの拠点でユクの帰りを待ち続けたが、結局、約束が果たされることは無かった。

レジスタンスたちによって崩壊した跡地の探索が行われたが、崩れた瓦礫の下敷きになってしまっては、欠片一つでも見つけることは困難であると告げられた。

5年という月日は短くあっという間で、沢山のことが変わっていく

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ep.28 終末の星にて、君を待つ。

ep.28 終末の星にて、君を待つ。

“あなたの身に危険が起きたときは6を、私の力が必要な場合は7を頭につけてください。”

いつかの約束がフラッシュバックする。
ああ、あなたは本当に、ずるい人だ。

「ナナセンセ、だいじょぶ?」
ハナが心配そうにこちらを見上げる。
「すみませんハナ、ちょっと急用が出来てしまいました。戻ってもいいですか?」
「だいじ?」
「ええ、とても。とっても大事です。」
「じゃあ、急がなきゃだね!」

ハナを抱き

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蜂蜜の夢、琥珀色。

蜂蜜の夢、琥珀色。

年末年始の休暇は、ゆっくりと過ごした。
隅々まで家の掃除をしたり、積んであった本を読んだり。
表紙が気になって買ったハードカバーの新刊は、心を持ったロボットと心を失くした人間の話だった。

一息いれようとコーヒーを淹れる。
今日の豆は焙煎強めで味が濃い。
そのままでも美味しいし、ミルクを入れてもいいのだけど、今日は蜂蜜をいれることにする。
本を読んで頭を使ったし、糖分摂取だ。

琥珀色に輝くとろと

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文鳥烏がうたう頃。

文鳥烏がうたう頃。

とっておきのまじないひとつ。
教えてあげる、あなたにだけ。

夢見鳥の風切り羽みっつ。
氷フクロウの嘴ひとつ。
乙女の祈り三年分と、
少年の挫折少々。
新月の光は眼差し分。
ケラケラ草ひとつかみ。
雪ホタルの翅、ななつ。

其々を
良く砕き、刻み、擦り下ろす。

ハクメイ銅のナベに順に入れて、
よーーーくかき混ぜる。

地獄の門番の涙を注ぎながら花火にかけて、軽く煮込む。

ぐつぐつ煮込んで、くる

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軒先の鯨

軒先の鯨

お向かいさんの家の縁側には、よく猫があつまる。
野良猫、外猫、迷子猫、いろいろ。
お向かいさんがわざわざご飯をあげているとかではないのだけれど、どうにも猫の集会所とされているみたいだ。
あの縁側、昼下がりになるとちょうどよく日差しが入ってきてぽかぽかと暖かい。
縁側だったり、庭石の上だったり、ブロック塀たったり、各々好きなところで日向ぼっこをしている。
集会所というよりは休憩所と言ったほうが近い気

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魔法の指輪

魔法の指輪

それはおばあちゃんが遺してくれたもの

それは古い遺跡から発掘されたもの

とにかく昔からある指輪がそうで

特に誰か人の想いが篭っていると尚良い。

想いだとか念だとか、あとは月日は強い魔力を持つ。

人から人へ、時代から時代へ

指輪は魔力を受け継ぎ力を持つ。

『あなたの想いが強ければ強い程、
魔法の効果も高まりますので。』

誰かが言った。

水辺の指輪は祝い事に。

谷底の指輪は呪い事に

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なんてことない、いつもの朝。

なんてことない、いつもの朝。

朝起きて、日課の散歩。
太陽がキラキラと眩しい。
ゆっくりと歩きながら、今日一日何をして過ごそうか考える。

ずっと気になっていたあの映画を借りてもいいし、
お気に入りのパン屋に行くのもいい。
もしくは地下室でいつものようにダラリと過ごすのも捨てがたい。

そう言えば、先日駅のポスターで見かけたあの美術展、気になっていたのを思い出した。
ちょっと行ってみようか。
あそこに行くならついでにあの雑貨店

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静謐の夜

静謐の夜

ありきたりなワンルーム。角部屋は、それでも少し外の音が聞こえる。
盛れ入る月の光が、窓の影を映していた。

部屋の天井と上の階が何故か繋がっており、そこから5歳くらいの男の子が毎夜、眠りに来る。

男子大学生の部屋なんて、面白いものがある訳でもなし、ただ、何か言葉を交わすこともなく、互いにその温もりだけ感じていた。

男の子の母親は大人しく幸薄そうな人で、彼が夜の間うちで寝ていても問題ないらしい。

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千年百合とカリグラフィー

千年百合とカリグラフィー

千年百合のパールホワイト
柘榴水晶のクリアレッド
雪ホタルのスノウブルー

瓶に詰まったインクはキラキラと明るく輝いている。

「気になるようでしたら、試してみてください。」

あまりにもずっと眺めているものだから、店員さんが声をかけてくれた。

「あ、すみません、綺麗だなと思って。いいんですか?」

優しくそっと頷いてインクと、それからうっとりするほど美しいガラスペンを取り出した。
その綺麗なガ

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砂糖雪降る北の山

砂糖雪降る北の山

良い氷砂糖を頂いたので、果実酒でも作ろうかと思う。
北のミスレーロ地方にある山脈地帯にのみ降ると言われている、砂糖雪の雪解け水で作られた氷砂糖だ。
砂糖雪はその名の通り、砂糖のように甘い雪だ。ふんわりと軽く蕩けるような甘さで、けれどもしつこくなく後味は爽やかなのだ。
その雪解け水で作られた氷砂糖は、透き通るほどに透明でらなにより冷たくて甘い。
限られた地域でしか作れない高級品なので、市場に出回って

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愛を教えて。

愛を教えて。

愛について考えよう。
世界をひっくり返すほどの大恋愛だとか、宇宙を股にかける親子の絆だとか。
そういうの、僕にはまだちょっと、全然わからないからさ。
君の愛について教えておくれよ。

たとえば、鳥たちのさえずり。
たとえば、小川のせせらぎ。
たとえば、子どもたちのわらいごえ。

そんなのが聞こえて来た時、ふと愛について考える。
夢や物語の中で飽きる程見聞きしたそれは、とても甘美な香りをしてる。

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