【読書感想文8】今の日本社会も無関係ではない儒教と論語がわかる『「論語」がわかれば日本がわかる』

論語的な日本の価値観を要約すると以下のようになるらしい。この価値観は教育から会社まで広がっている。どれも「あーわかる」と多くの人が思うだろう。

1. 年齢や年次による上下や序列のある関係や組織を当たり前だと思う。

戦後日本企業の三種の神器である終身雇用、年功序列賃金、企業別・工場別組合とはここから来ている。実際はこのシステムの出自は戦時中らしい。

2. 生まれつきの能力に差はない。努力やそれを支える精神力で差はつく

これはある意味能力がなければ、その人の努力不足と捉えられるわけだから厳しいとも言えるかもしれない。まあ生まれつき全部運命は決まっていると考えるよりはマシかもしれないが

3. 性善説で人や物事を考える

よく日本人は甘ちゃんだと思われがちだが、甘ちゃんだっていいじゃん。人間だもの。

4. 秩序やルールは自分たちで作るものというより、上から与えられるもの

もうちょっと下のものは上の指示というものを疑った方がいい。そして全霊を絶対変えたがらない。戦後憲法を一度も変えていないのは日本くらいなもんである。

5. 社長らしさ、課長らしさ、学生らしさ、先生らしさ、裁判官らしさなど、与えられた役割に即した「らしさ」や「分(役割分担と責任)」を果たすのが何よりいいこと

下の人にはらしさを押し付ける割には、上の人間は役割分担と責任を全然果たしてないので、上から率先垂範して欲しいものである。

6. 本音と建前を使い分けるのを当たり前と思う

日本人にとってTwitterは本音の捌け口になっているらしく、匿名率は他国に比べてめちゃくちゃ高い。

7. 理想の組織を「家族」との類推で考えやすい

家族が人間関係の理想ってなんか面倒臭いと思うのは俺だけ?これのせいで付和雷同になりがち。

8. 組織や集団内で、下の立場の「義務」や「努力」が強調されやすい

よく言えば現場主義で、悪く言えば現場に丸投げだとも言える。

9. 教育の基本は人格教育

日本の学校はあらゆる活動が人格教育の一環とされる。登校、掃除、集団活動、修学旅行、校則などすべてである。ただカタチだけとらえるとただの押し付けである。

10. 集団の帰属重視、集団の教育力を生かす

論語的な集団主義は行き過ぎていて、いささか窮屈に感じることは多い。しかし最近の新型コロナの欧米の動向を見ると、個人主義も考えもんだなと思う。

11. 気持ちを考えることこそ人格教育の基本

他人の気持ちなんてわかんねえよ、テレパシストじゃねえもん


本書の冒頭で書かれているが、論語は解釈の幅が広く、しばしば読んだ人間の恣意的な意思が介在する。

日本で論語が強い影響力を持ったのは、おそらく江戸時代の朱子学によるものだろう。江戸幕府からすれば上位の人間に黙って従うように説いた論語の価値観は役立った。それは明治時代の富国強兵にも有効だったため受け継がれた。

中国を中心とする東アジアは儒教の影響が強いが、おそらくその国ごとにアレンジされている。多分本家の中国の儒教の解釈は日本とはだいぶ違うだろう。

余談だが儒教の創始者である孔子は

十五で学問を志し、三十にして独立した。
四十で迷いが消え、五十で天命を知った。
六十になると人の話に耳をかせるようになり、
七十になってやっと、人の道を外れることなく自由に行動できるようになった。

と言っているが、逆にいうと孔子ですら30歳でやっと独立して、40歳まで迷いっぱなしだったとも言える。だからもっと人間は気楽に生きていいと思う。




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