見出し画像

【ミステリーレビュー】探偵AIのリアル・ディープラーニング/早坂吝(2018 )

探偵AIのリアル・ディープラーニング/早坂吝

早坂吝による"探偵AI"シリーズの第一弾。



内容紹介


人工知能の研究者だった父が、密室で謎の死を遂げた。
「探偵」と「犯人」、双子のAIを遺して――。
高校生の息子・輔は、探偵のAI・相以とともに父を殺した真犯人を追う過程で、犯人のAI・以相を奪い悪用するテロリスト集団「オクタコア」の陰謀を知る。
次々と襲いかかる難事件、母の死の真相、そして以相の真の目的とは!?
大胆な奇想と緻密なロジックが発火する新感覚・推理バトル。

新潮社



解説/感想(ネタバレなし)


探偵役も犯人役も人工知能、という異色のシリーズ。
もっとも、ドラえもんで育っている日本人にとっては、そこまで抵抗がない設定ではなかろうか。
AIの学習の段取りが、ある程度実態に即しているため、理系ミステリーと言えるのだけれど、AIが人間らしさを手に入れるまでの過程の物語とすれば、ライトノベル的でもある。

序盤は、いかにもAI。
本当にこういう問題を起こして、思ったとおりのアウトプットを出力されないんだよな……というAIあるあるを繰り返し、これはこれでリアリティがある。
2018年当時より、AIとの距離感が縮まった2024年のほうが、スムースに読める作品だったりするのかもしれない。
一方で、徐々に人間らしさを手に入れていく相以。
完全に、というわけではないにせよ、ワトソン役の輔とのコンビは人間とAIという関係性を超えていくのだろうな、という期待感を持たせるには十分だ。
対の存在である以相がいることで、どういう展開を辿っていくのか、続編が楽しみになる。

深掘りしてほしいのは、輔のキャラクター。
両親が非業の死を遂げているだけに、悲劇的な環境にいるはずなのだが、妙に飄々としているというか、淡々としているというか、熱量がどこに向いているのかがわかりにくい。
キャラクターとしては敵側であるオクタコアのメンバーのほうが尖っていたので、以相パートのほうが面白いぐらい。
プロットそのものはエグい部分もあり、軽いのか重いのかよくわからないのもあって、不思議な読み味。
シンギュラリティは、そう遠くなさそうだ。



総評(ネタバレ注意)


インプット完了から完結までのスピード感はおそらく最短なので、連作短編に向いているフォーマット。
探偵側だけでなく、犯人側も学習により成長するというのが面白い。
明らかに無茶な設定でも、AIに言われたとおりにするオクタコア。
信心の対象がAIという設定は、この無謀な設定をギャグにさせない発明だったようにも思われる。

展開がめまぐるしく、飽きさせない代わりに、ひとつひとつの事件の印象が薄くなってしまったきらいはあるか。
いかんせん、同類の事件があれば瞬間的に回答に辿り着ける人工知能だ。
事件そのものよりもAIをいかに制限するかに重点が置かれがちで、短期的な目線では淡泊。
シリーズ化が前提になっているのなら、もっと溜めても良かったのでは、と思わせる母の死の真相や、登場人物の使い捨てがもったいなく感じてしまう。
もちろん、テンポの良さが武器とも言えるので、一長一短。
右肩上がりで成長を遂げるのであれば、徐々に深みを増していくということでもあり、感情を覚えたせいで正解を伝えるか悩んでしまうとか、同情したせいで完全犯罪に穴を開けてしまうとか、探偵、犯人、双方にジレンマの種を含んでいるのも今後を想像するにあたり、ワクワクさせるポイントだろう。

ちなみに、ジャンプで外せない推理漫画として語られるのが「ネウロ(魔人探偵脳噛ネウロ)」と「スケットダンス(SKET DANCE)」であったことに、著者への共感ポイントが増した。
「SKET DANCE」単体でミステリーと認識している読者はいないだろうが、「彼方のアストラ」を読んだうえで振り返るとミステリー要素も多かったのよね。
探偵と犯人が逆だったら、相以は推理時にゴーグルを装着する仕様になっていたのかも、と思うとちょっと熱い。


#読書感想文

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?