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【ミステリーレビュー】マスカレード・ナイト/東野圭吾(2017)

マスカレード・ナイト/東野圭吾

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9月に映画化も決定している、「マスカレード」シリーズの第三弾。

「マスカレード・ホテル」、「マスカレード・イブ」は読了済。
ホテルへの潜入捜査で着任した刑事・新田浩介と、優秀なホテルウーマンである山岸尚美のコンビが主人公となり、ホテルで巻き起こる宿泊客とのやりとりから、事件の真相に近づいていくという異色な設定が大ヒット。
とはいえ、設定が特殊すぎることから、前日譚となる短編集「マスカレード・イブ」はともかくシリーズ化は難しいと思っていたのだが、思った以上に正攻法からの続編が届けられた形。
しかも、"マスカレード"の象徴である仮面舞踏会を彷彿とさせる仮装パーティーも作中に盛り込んであり、メディアミックスを想定した適応力の高さは、さすがは東野圭吾である。

女性の変死事件の犯人が、ホテル・コルテシア東京のカウントダウンパーティー、通称"マスカレード・ナイト"に現れるという匿名の密告が届く。
犯人確保のために、過去、同ホテルのクラークとして潜入した実績のある新田が再び潜入することになるが、当時教育係だった山岸は、その適応力を評価されてコンシェルジュに任命されており、事件後に異動してきた氏原が新たな教育係に。
なんだか裏がありそうな宿泊客が、無理難題を押し付けてくる中で点が線になっていくシリーズの醍醐味は相変わらずだが、氏原の方針で新田がロビーに立つ機会は激減。
ホテルマンとしての悪戦苦闘は描かれず、刑事の顔が強めに描かれており、テンポはだいぶ良くなった印象だ。
新田と山岸の関係性もほぼ対等になっていて、ともに行動する機会は減ったにも関わらず、相棒感は強まったように見えるから面白い。

お客さんが出たり入ったりして、オムニバス形式とも言えた「マスカレード・ホテル」に対して、年末年始を過ごす宿泊客を対応するという前提があるため、同時並行的に問題が発生するのも、本作の特徴。
こういったマイナーチェンジがあることにより、マンネリ感が生まれず、各エピソードを新鮮なものとして読むことができる。
どの客も怪しいという状況を作り出してからの"マスカレード・ナイト"の駆け引きは、フーダニットを包含したサスペンス性が高く、ワクワクが止まらない。
個人的には肩透かしであった「マスカレード・イブ」のイメージを払拭。
やはりこのシリーズは面白い、と思い直すのであった。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


蓋を開けてみれば、全員がそれぞれ抜け掛けしようとした結果、事件が複雑になってしまったというもの。
最後の女性ふたりの供述の食い違いからも見えるように、全員がホテルの内外で仮面をつけていた、と端的に表現している。
一度、謎が解かれて舞台から退場した人物が、犯人として舞い戻ってくるという意外性も手伝って、情報量が一気に増えるクライマックスは頁をめくる手が止まらなくなった。

ただし、動機については推測しようがなく、理由を聞いても、少し苦しいか。
キーワードとして登場するロリータも、犯人の動機を推測するヒントとしては弱いというか、いまいち繋がらない。
ヴィジュアル系界隈に属していると、身近な人間にもロリータ趣味をカミングアウトしていないケースなんて、わりと良くある話なもので、不思議だ、謎だ、と引っかかる敏腕刑事になんだかモヤモヤを感じてしまった。

あと、物語を掻き回すだけ搔き回した日下部の正体には、なんとなくそんな気もしたけど、やはり抵抗がある。
部下を使って抜き打ちの対応力テストをするのは百歩譲って理解するにしても、年末年始の大イベントを控えた繁忙期にやるのはやめてあげてよ。
テストにリソースが割かれて、本業が疎かになるリスクは十分にあったし、山岸が代替案を示さず、既に予約を入れていた宿泊客にディナーのキャンセルの交渉に行ってしまったらどうするつもりだったのだろう。
追加テストで一般客を巻き込むのも、リテラシーに欠ける。

もっとも、設定そのものがフィクション前提、エンタメ最優先。
ホテルとミステリーの相性の良さを見抜き、見事に伏線が回収されていくカタルシスを生み出した著者の筆力に圧倒された。
あとは、これを読んでコンシェルジュは何でもしてくれると勘違いした人が、モンスターカスタマーに変貌してしまうことがないよう祈ることにしよう。
山岸がロスに赴任になり、第4弾があるとしたら、舞台がガラっと変わりそう。
本作でふたりの関係性はあまり発展しなかったが、それが次回作への含みだったら良いのだけれど。


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